這いよる毒牙(1)
カーテンを開けて、顔をしかめる。深夜に雨でも降ったらしい。じめりと湿気て、鈍い鉛色の朝だった。雨音などしなかったけど、と千和はぼんやり考えるが、外の様子にまで気を配っていられなかった昨夜のことである。
「――千和ー、社会教育論のカンペ作った?」
頭の中まで湿度に侵されたようにぼんやりとしていると、ドアの向こう側から和泉の声が入り込んできた。
「社会教育論……あれ、もしかして今日テストっ!?」
ガバリとドアを開けると、和泉はギリギリの距離で仰け反っていた。
慌ててスマホのカレンダーを確認する。そこには無慈悲にも「期末テスト」の文字。かつての自分が用意周到にメモしていたにもかかわらず、ここ最近の「用事」にかまけてすっかり忘れていた。必修の科目だけに、今年落とすと後が怖い。
「やっぱり。その様子ならきれいさっぱりお忘れのことだと思ってたよ」
「ど、どうしよ、持ち込み可とはいえ、教科書読み返すのも時間の無駄だし……っ和泉の、写させて」
千和は恥を忍んで唇を噛んだ。勉学に関しては自分の事は自分でやるという暗黙のルールがある。もっぱら、千和が和泉の世話になっていることが多いのだが、それでもここまで明確な申し出は珍しかった。
「最近千和忙しそうだしね。反面、俺は時間あるからまとめ学習にも精が出ているわけで」
「和泉さま……」
「教室行く前に購買のコピー機寄ってこう。これに関しては千和に見せるつもりでまとめてたから」
そんな弟の言葉に千和は涙の出る思いだった。
「いずみぃ……」
決して少なくはないテストレポート問題が片付いた訳ではないが、期末期間の鬱屈とした気分と、昨晩の複雑な心境までもがまとめて昇華されたような瞬間だった。
普段は特別何も感じない和泉の笑顔にも、今日この時だけは仏の慈悲を覚え、千和は遂に和泉を拝んだ




