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明け待つ芍薬  作者: 烏野 佐枇
5章 這いよる毒牙
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這いよる毒牙(1)

 カーテンを開けて、顔をしかめる。深夜に雨でも降ったらしい。じめりと湿気て、鈍い鉛色の朝だった。雨音などしなかったけど、と千和はぼんやり考えるが、外の様子にまで気を配っていられなかった昨夜のことである。


「――千和ー、社会教育論のカンペ作った?」


 頭の中まで湿度に侵されたようにぼんやりとしていると、ドアの向こう側から和泉の声が入り込んできた。


「社会教育論……あれ、もしかして今日テストっ!?」


 ガバリとドアを開けると、和泉はギリギリの距離で仰け反っていた。

 慌ててスマホのカレンダーを確認する。そこには無慈悲にも「期末テスト」の文字。かつての自分が用意周到にメモしていたにもかかわらず、ここ最近の「用事」にかまけてすっかり忘れていた。必修の科目だけに、今年落とすと後が怖い。


「やっぱり。その様子ならきれいさっぱりお忘れのことだと思ってたよ」

「ど、どうしよ、持ち込み可とはいえ、教科書読み返すのも時間の無駄だし……っ和泉の、写させて」


 千和は恥を忍んで唇を噛んだ。勉学に関しては自分の事は自分でやるという暗黙のルールがある。もっぱら、千和が和泉の世話になっていることが多いのだが、それでもここまで明確な申し出は珍しかった。


「最近千和忙しそうだしね。反面、俺は時間あるからまとめ学習にも精が出ているわけで」

「和泉さま……」

「教室行く前に購買のコピー機寄ってこう。これに関しては千和に見せるつもりでまとめてたから」

 そんな弟の言葉に千和は涙の出る思いだった。

「いずみぃ……」


 決して少なくはないテストレポート問題が片付いた訳ではないが、期末期間の鬱屈とした気分と、昨晩の複雑な心境までもがまとめて昇華されたような瞬間だった。

 普段は特別何も感じない和泉の笑顔にも、今日この時だけは仏の慈悲を覚え、千和は遂に和泉を拝んだ

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