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推し活侍女 〜お嬢様がどう見ても最高なので、その魅力を語っていたら、いつの間にかみんなお嬢様推しになっていました〜  作者: ちょこだいふく


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9/18

9.変わったのはあの子じゃなく

——翌日の午後になった。


私は伯爵夫人のお部屋の前に立っていた。

昨日から、何度も頭の中で考えた。


アリシア様のどこからお話しすればいいのだろう…?

努力家なところや周囲をよく見ていらっしゃるところ、不器用だけれどお優しいところ?それとも弟君を心配しているのに、それを本人にはなかなか伝えられないところ?

もちろん、お美しいところも外せない。

銀色の髪は光の加減によって少し色が違って見えるし、紫色の瞳も——


(……いけない)


まだ何も聞かれていない。


私は一度深呼吸をしてから、扉を叩いた。


「入りなさい」


「失礼いたします」


部屋へ入ると、伯爵夫人は窓辺のテーブルでお茶を飲んでいた。


「こちらへどうぞ」


「はい」


勧められた椅子へ腰掛ける。

使用人である私が伯爵夫人と向かい合って座るのは、なんとも落ち着かない。けれど今日の話題は、アリシア様だ。それだけで少し楽しみでもあった。


伯爵夫人はカップを置くと、私を見た。


「昨日のことなのだけれど」


「はい」


「あなた、アリシア付きになったことを随分喜んでいたでしょう?」


「……はい」


「そんなにあの子のことが好きなの?」


「はい」


即答してしまった。

伯爵夫人が目を瞬く。


「……そう」


「申し訳ございません」


「いいえ。謝るようなことではないわ」


少し面白そうに笑っているように見える。


「それで聞いてみたくなったの」


伯爵夫人は頬杖をつく。


「あなたは、アリシアのどこがそんなに好きなの?」


来た!!

私は背筋を伸ばした。


「どこからお話しすればよろしいでしょうか」


「……え?」


「大変申し訳ございません。少々多いものですから」


伯爵夫人がしばらく私を見つめ、そしてくすりと笑った。


「では、あなたが一番好きなところから聞こうかしら」


一番。

なんとも難しい質問だった。

私は真剣に考える。


お美しい。

努力家。

お優しい。

不器用。


どれも捨て難いが…


「……誰も見ていなくても、なさるところでしょうか」


伯爵夫人の表情が少し変わった。


「誰も見ていなくても?」


「はい」


私はこれまで見てきたことを、一つずつ話した。


朝早くから一人で勉強していることや弟君が熱を出したと聞けば、何度も様子を確認し、彼の好物のリンゴのコンポートを厨房へ頼んでいたこと。

新人の侍女が失敗した時には、叱責される前にさりげなく庇っていたこと。

庭師や使用人たちの様子を、よく見ていること。

昨日の植木鉢のことも。


伯爵夫人は途中で口を挟まずただ静かに聞いていた。


「アリシア様は、お優しい方です」


最後にそう言うと、伯爵夫人は少しだけ目を伏せた。


「……優しい」


「はい」


「でも、あの子は一度も自分から話さないでしょう?」


「はい」


私は頷いた。


「ですから、素晴らしいのです」


伯爵夫人が顔を上げる。


「……そこが?」


「はい」


褒められるためでも、誰かに認められるためでもなく、必要だと思ったからする。ただ心配だから様子を見るし、困っている人がいるから声を掛ける…。


「誰も知らなくても、アリシア様にとっては関係ないのだと思います」


「……そう」


伯爵夫人は静かに呟いた。


しばらく沈黙が落ちるがやがて、伯爵夫人が小さく笑った。


「昔から、そういうところはあったわね」


私は思わず身を乗り出しかけた。


「昔から、でございますか?」


「ええ」


伯爵夫人は懐かしそうに目を細める。


「まだ小さかった頃、庭で怪我をした子犬を見つけたことがあったの」


「子犬を」


「大騒ぎして私たちを呼ぶのかと思ったら、自分のハンカチで足を包んで、使用人のところへ連れて行ったのよ」


私は息を呑んだ。


「そのようなことが……」


「ええ。でもあとで私が褒めても、『血が出ていたから』としか言わなかったわ」


「……アリシア様」


なんということだろう…。

知らなかった、幼少期のアリシア様。

小さなアリシア様が、怪我をした子犬を抱えて、ご自分のハンカチを…。


(……尊い)


「メアリ?」


「はい」


「ものすごく嬉しそうだけれど」


「……申し訳ございません」


「だから謝らなくていいのよ」


伯爵夫人が笑う。

私はどうにか気持ちを落ち着かせた。

しかしこれは、必ず覚えておかなければならない。

日記に書いてもいいだろうか?

いや、伯爵夫人から直接伺った話だ。

勝手に書くのはどうなのだろう?

うーん、あとで許可を…


「本当に好きなのね」


伯爵夫人の声に、思考が戻る。


「はい」


今度も素直に答えた。

伯爵夫人はしばらく私を見たあと、窓の外へ目を向けた。


「私もね」


「はい」


「昔は、あの子のそういうところを知っていたはずなの」


その声が、少しだけ寂しくなる。


「でも大きくなるにつれて、何を考えているのか分からなくなってしまって」


返事が短い。

愛想がない。

聞けば「大丈夫です」と言う。

何か困っていることはないかと尋ねても、「ありません」と答える。


「そのうち私も、あの子は一人で何でもできる子なのだと思うようになっていたわ」


私は黙って聞いていた。


「昨日、あなたたちを見ていて思ったの」


伯爵夫人は自分のカップを見つめる。


「変わったのは、あの子ではなかったのかもしれないわね」


「……奥様」


「私はいつからか、アリシアが何をしているかではなく、私に何を話したのかばかり見ていたのかもしれないわ」


静かな声だった。

けれど、不思議と悲しいだけには聞こえなかった。

伯爵夫人は顔を上げる。


「ありがとう、メアリ」


「え?」


「久しぶりに、娘のことをたくさん聞いたわ」


「私はただ、アリシア様の素晴らしいところをお話ししただけでございます」


「ふふ」


なぜか笑われた。


「そうね」


伯爵夫人は楽しそうに頷いた。


「あなたは本当に、それだけなのね」


「?」


意味が分からず首を傾げる。

伯爵夫人はそれ以上説明しなかった。


「もう下がっていいわ」


「かしこまりました」


私は立ち上がり、頭を下げる。


「ああ、そうだわ。メアリ」


「はい」


呼び止められて振り返る。


「また何か見つけたら、今度私にも教えてちょうだい」


私は目を見開いた。


「よろしいのですか?」


「ええ」


伯爵夫人は微笑む。


「私も、もう少しあの子を見てみたくなったから」


胸の奥が、ぱっと明るくなった。


「はい!」


思ったより大きな声が出た。


「……失礼いたしました」


伯爵夫人が吹き出す。


「いいのよ」


私はもう一度頭を下げ、部屋を出た。


扉を閉める、そして数歩歩いて立ち止まった。


(……幼いアリシア様が)


(怪我をした子犬を)


(ご自分のハンカチで……)


私は両手で口元を押さえた。


(推しが尊すぎる…)


日記、今日は絶対に長くなる。

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