4.誤解される推しも可愛い
数日後
「また姉様に嫌われちゃった」
図書室の前を通りかかると、レオン様の声が聞こえた。
友人らしき少年が困ったように笑って言う。
「でも、勉強は教えてくれたんだろ?」
「教えてくれたっていうか…」
レオン様は頬を膨らませた。
「『こんな問題も解けないの』って言われたんだ」
「あー、」
二人はそのまま歩いて行く。
(アリシア様…言い方)
私は思わず苦笑してしまった。
———
その日の午後、家令から頼まれた本を探しに図書室へ入ると、そこにはアリシア様がいらした。
「失礼いたします」
「……メアリ」
高い本棚の前で、一冊一冊背表紙を眺めている。
アリシア様がこんなに時間をかけて本を探しておられるなんて珍しい…。
「何かお探しですか?」
「別に」
いつもの返事だった。けれど、視線の先の本を見て、私は小さく瞬きをする。
『初めての王国史』
『基礎から学ぶ地理』
どれも、レオン様が苦手になさっている分野の入門書だった。
「……レオン様へですか?」
アリシアお嬢様は少しだけ目を逸らした。
「違うわ」
違わない。
「では?」
「……たまたま、参考までに見ていただけよ」
ぽつりと呟かれるお姿を見て私は思わず頬が緩んだ。
「そうでしたか」
それ以上は言わないし聞かない。
アリシア様は何冊か本を見比べ、一冊だけ手元へ残した。
「これくらいなら読めるでしょう」
誰に聞かせるでもない、小さな独り言だった。
———
翌日の昼休み。
「レオン坊ちゃま、またアリシアお嬢様に怒られたんですって」
侍女の一人が笑う。
「ほんと仲が悪いわよね」
私は首を傾げた。
「そうでしょうか?」
「え?」
「昨日、図書室でレオン様に役立ちそうな本を探しておられましたよ」
「……え?」
「レオン様、歴史が苦手でらっしゃるでしょう?」
「だからだと思いますが、入門書を何冊も見比べていらっしゃいました」
休憩室がしんと静かになる。
「それ、坊ちゃんに渡されたの?」
「いいえ」
「えっ?」
「お渡しにはなりませんでした」
「なんでよ!」
思わずエマが身を乗り出す。
私は少し考えてから、小さく笑った。
「アリシアお嬢様ですから」
一瞬の沈黙のあと
「ああ……」
エマが額に手を当てる。
「なんか分かる気がする」
「不器用なのよね」
別の侍女が苦笑する。
私は嬉しくなって頷いた。
「はい」
「そこがまた…」
(お可愛らしくてたまらないのよね、)
気付けば、自然と頬が緩んでいた。
「ほら」
エマが笑う。
「またその顔」
「え?」
「アリシアお嬢様の話になると、本当にメアリは幸せそう」
私は少し照れながら笑った。
「…そんなこと、…あるかも」
休憩室に、小さな笑い声が広がった。




