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推し活侍女 〜お嬢様がどう見ても最高なので、その魅力を語っていたら、いつの間にかみんなお嬢様推しになっていました〜  作者: ちょこだいふく


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3.推し活の感染力

翌日。


「あっ」


エマは思わず声を漏らした。

視線の先には庭師が額の汗を拭いながら剪定をしている。今日は朝から日差しが強かった。


そこへアリシア様が通りかかった。


「こんな暑い中で何をしているの」


庭師が慌てて頭を下げる。


「申し訳ございません。本日中に終わらせたくて」


「倒れたら終わらせられないでしょう」


少しきつい口調だった。


「適度に木陰で休みなさい」


「水分もきちんと取るのよ、わかった?」


それだけ言うと、アリシア様はそのまま歩いて行ってしまった。


エマはぽかんとその背中を見送る。


(…あれ?)


言い方は相変わらずだった、でも…



———


昼休憩になり、エマはメアリの元へ走った。


「メアリ!」


休憩室へ入るなり、エマが手を振った。


「はい?」


「見たわよ!」


「何をですか?」


「アリシア様よ!」


その声に、近くでお茶を飲んでいた侍女たちがちらりとこちらを見る。


「庭師さんに木陰で休むよう言ってたのよ!水分もちゃんと取るようにって!」


「ああ」


私は思わず笑みがこぼれた。


「そうなんです」


「やっぱりアリシア様は庭師さんのことを心配してたのよね?」


「はい」


私は嬉しくなって話し始める。


「庭師さん、夢中になると休まれないんですよ。去年も軽い熱中症になられていましたし」


「えっ」


「だからきっと、アリシア様はそれを覚えておられたんです」


「そんなことまで?」


「アリシア様、ああいうことが多いんですよ」


私は少し考えてから続けた。


「新人の侍女が重い荷物を持っていた時も、家令へ人を増やすよう頼まれていましたし」


「料理長が咳をしていた時は、生姜湯を出すよう厨房へお願いされていました」


「馬番さんが腰を痛めた時も、お医者様を早く呼ぶように——」


「え、知らなかった」


隣にはのテーブルから声がした。

見ると、別の侍女が目を丸くしてこちらを見ている。


「私も」


「そんなことしてたの?」


「はい」


私は頷いた。


「言葉は少し不器用でいらっしゃいますが」


「ちゃんと私たちのことを見てくださっているんです」


みんな少し驚いたような顔をしていた。

そしてやがてエマが、ふっと笑って言った。


「やだほんと、メアリったら」


「そんな幸せそうな顔で話すくらいなんだからもっと早く教えて欲しかったわ」


私はきょとんとした。


「え?」


「アリシア様、めちゃくちゃお可愛らしいじゃないの、もっと早く知りたかった!」


思わず目を丸くする。

胸の奥が、熱を帯びていく気がした。


「……はい」


「私も今度からちゃんと見てみるわ」


エマが言うと、


「私も」


「私も、気になるわね」


「言われてみれば、この前も割れたガラスを危ないから素手で触らないようにおっしゃられていたわ…」


ぽつり、ぽつりと声が上がる。

私はみんなの顔を見回しているうちに笑顔が抑えきれなくなってしまう。


「あっ」


エマが私を指差した。


「ほらまたその顔」


「え?」


「すっごく嬉しそう!」


「だって嬉しいもの」



———


その日の夜、私は手帳を開いた。


『本日のアリシア様』


『庭師さんへ、暑いので木陰で休むよう声を掛けられる』


『言い方はやっぱり少し不器用』


『でも優しい』


少し考えてから、もう一行。


『今日はエマも気付いてくれた』


さらに書き足す。


『侍女のみんなも、少しだけアリシア様を見る目が変わったみたい』


そして最後に、小さく書いた。


『今日は、とても嬉しい日だった』


———



それから数日後、アリシアは自室で首を傾げていた。


(…ここ数日)


廊下ですれ違う侍女たちが、どこか嬉しそうに会釈をしてくる。侍女たちだけではなく庭師も、料理長も。

なぜだか以前より少しだけ表情が柔らかい。


(…何かあったのかしら)


理由は分からない、けれど最近みんなの視線が、どこか温かい。


……気のせい、なのかしら。

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