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推し活侍女 〜お嬢様がどう見ても最高なので、その魅力を語っていたら、いつの間にかみんなお嬢様推しになっていました〜  作者: ちょこだいふく


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17/18

17.同士、現る。

——数日後の夕方


その日の仕事を終えた私は、いつものように厨房へ向かった。


棚から『本日のアリシア様2』を取り出し、今日増えた書き込みを確認する。


『午後のお茶の際、砂糖を入れすぎたことに気付き、少しだけ眉を寄せておられた。——アンナ』


『廊下で小さな子どもとすれ違った際、見えなくなるまで振り返っておられた。——エマ』


『夕食用のパンの焼き上がりを見て「今日はいい香りね」とおっしゃった。——料理長』


「……素晴らしいですね」


今日も充実している。

私は頬が緩むのを感じながら、ペンを取った。

私にも書いておきたいことがある。


『本日、アリシア様は髪飾りを選ぶ際、青と白でしばらく迷われていた。最終的に白を選ばれたが、その後もう一度青をご覧になっていた。——メアリ』


書き終えてもう一度読む。


(……良い)


今日も知らなかったアリシア様が増えた。

そして私が見つけたアリシア様も、ここに残せた。

なんて素晴らしいのだろう。


「……ふふ」


思わず笑みがこぼれたその時だった。


「メアリ?」


背後から声がしたので振り返ると、厨房の入口にレオン様が立っていた。


「レオン様」


「何してるの?」


そう尋ねながら、レオン様は私の手元を見る。


「ずいぶん楽しそうだったけど」


「……そうでしたか?」


「うん。すごく」


私は少しだけ頬へ手を当てた。

やはり、顔に出ていたらしい。


「こちらを書いておりました」


「なにそれ」


私はノートを少し持ち上げる。


「皆で、アリシア様について書き留めているのです」


「姉様の?」


レオン様の目が輝いた。


「はい」


「見てもいい?」


「もちろんでございます」


ノートを差し出すと、レオン様はすぐに頁をめくり始めた。


「へえ……」


一頁。


また一頁。


「あ、これ分かる」


「どちらでしょう?」


『アリシア様は、誰かに褒められると少しだけ視線を逸らされる。——メアリ』


「姉様、やります」


「やはり」


「この前もそうだった」


レオン様は楽しそうに読み進める。


猫に逃げられた話では笑い、好きなものを最後に食べるという伯爵夫人の書き込みでは、


「それ僕も知ってます!」


と嬉しそうに声を上げる。


「……姉様のことばっかりですね」


「はい」


「二冊目?」


「はい」


「一冊目もあるの?」


「ございます」


レオン様は一瞬黙ったあと、笑った。


「みんな、姉様のこと好きなんだ?」


「はい」


そう言われると、胸の奥が温かくなる。


「私も嬉しいです」


「僕も」


レオン様はもう一度ノートへ目を落とすと、


「これ、僕も書いていい?」


「もちろんでございます」


私はすぐにペンを差し出した。


レオン様は少し考えて、そのあと何か思いついたように笑った。


「じゃあ、これ」


さらさらと書き始める。

私は邪魔をしないよう、少し離れて待った。


やがて


「できた」


ノートを渡される。

私は書かれた一文を読む。


『姉様は、照れると耳が少し赤くなる。本人はたぶん気付いていない。——レオン』


「…………」


もう一度読む。


『照れると耳が少し赤くなる。』


「…………!」


思わず両手で口元を押さえた。


(アリシア様が)


(照れると)


(耳が……!!!!)


「メアリ」


「……はい」


レオン様が、ものすごく嬉しそうな顔でこちらを見ている。


「そうなりますよね!」


「……はい」


「僕も見た時、きゅんってなりました!」


「……レオン様も」


「はい!」


力強い返事だった。


「本のお礼を言った時だったんですけど」


「はい」


「『別に』って言いながら、ちょっと目を逸らして」


「……目を」


「それで耳が赤くなってたんです!」


「……っ」


胸元を押さえる。

これは想像以上だった。


「可愛くないですか?」


「お可愛いです」


即答した。


「ですよね!」


「はい!」


「絶対照れてましたよね!」


「間違いないかと!」


二人で力強く頷き合う。

なぜだろう、ものすごく話が通じる。


「あと最近、僕が姉様の隣に座ると、ちょっと困った顔するんです」


「まあ」


「でも本当に嫌なら『向こうへ行きなさい』って言うと思うんですよ」


「確かに」


「だから、多分嫌じゃないんです」


「素晴らしい考察です」


「ですよね!」


レオン様の顔がまた輝く。


「それからこの前、庭へ一緒に行った時も」


「はい」


「僕がずっと話してたら、『少し静かにしなさい』って言われたんです」


「はい」


「だから黙ったんですけど」


レオン様はにこにこしながら続ける。


「そのあと姉様の方から話しかけてきたんです」


「……!!!」


「これ、ちょっと寂しくなったんですよね?」


「その可能性は非常に高いと思われます」


「ですよね!!」


また二人で頷く。

私は改めてノートへ目を落とした。


『姉様は、照れると耳が少し赤くなる。』


何度読んでも良い。

むしろ、読むたびに良い。


「メアリ」


「はい」


レオン様が少しだけ声を潜める。


「姉様って、見れば見るほど可愛いですよね」


私はゆっくり顔を上げた。


「……はい」


「ですよね!」


「はい!!!」


「本当に可愛いですよね!」


「それはもうこの世の可愛いを集めたように!!!」


「なのに本人、全然分かってないんですよ!」


「そこもまた」


「可愛いんですよね!」


「はい!!!!」


気付けば二人とも、少し身を乗り出していた。


そこでふと私は我に返る。

レオン様も同時に気付いたらしい。

二人で顔を見合わせる。


「……」


「……」


先に笑ったのはレオン様だった。


「僕たち、姉様のことかなり好きですね」


「……そうですね」


否定する理由はなかった。

むしろ、とても嬉しかった。


「また何か見つけたら書いてもいい?」


「ぜひお願いいたします」


「じゃあ、明日もちゃんと見ておきます!」


「よろしくお願いいたします」


「任せてください!」


妙に頼もしい返事だった。

私は思わず笑う。

どうやらまた一人、とても心強い同志が増えたらしい。


そして私はもう一度、レオン様の書き込みを見た。


『姉様は、照れると耳が少し赤くなる。』


(お可愛い……)


その日の私は、なかなかノートを閉じることができなかった。

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