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推し活侍女 〜お嬢様がどう見ても最高なので、その魅力を語っていたら、いつの間にかみんなお嬢様推しになっていました〜  作者: ちょこだいふく


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11/18

11.もはや推しサークルでは?

屋敷へ戻ったのは、夕方近くだった。


アリシア様のお供を終え、その日の仕事も一段落した頃、私はいつものように厨房へ顔を出した。


「ただいま戻りました」


「おかえり、メアリ」


エマがこちらを見て笑う。


「今日はどうだった?」


「とても有意義な一日でした」


「……その言い方、絶対何かあったでしょ」


「はい」


思い出すだけで頬が緩みそうになる。

今日のアリシア様も素晴らしかった。


けれど、それを話し始める前に、エマがにやりと笑った。


「その前にさ」


「はい?」


「ちょっと見てほしいものがあるの」


エマが立ち上がり、厨房の棚へ向かう。

何だろうと思って見ていると、一冊の薄いノートを取り出した。


「はい」


差し出されたそれを私は受け取った。


「……これは?」


「開いてみて」


言われるまま表紙を開き、最初の頁を見ると、


『本日、アリシア様。庭師の帽子が風で飛ばされた時、拾って渡していた。——エマ』


「……!」


『昨日、新入りの侍女が花瓶を落としそうになった時、支えてくださった。——リナ』


さらにその下。


『昨日のスープを「美味しかったわ」とおっしゃった。少しおかわりもされた。——料理長』


「………」


頁をめくる。


『廊下ですれ違った時、眠そうに小さくあくびをしていた。誰もいないと思っていたらしい。少し可愛かった。——アンナ』


「……………!!!」


もう一頁。


『庭で猫に近づこうとして逃げられ、しばらくその場に立っていた。たぶん少し悲しそうだった。——エマ』


「!!!!!!!」


私はゆっくり顔を上げると、エマたちがこちらを見ている。皆、なぜか少し楽しそうだ。


「……これは」


声がうまく出ない。


「私たちが見たアリシア様」


エマが笑った。


「メアリ、喜ぶかなって思って」


「みんなで書いたのよ」


「どう?」


私はもう一度ノートへ視線を落とした。


知らなかった。

私は知らなかった。


庭師の帽子を拾ったことも。

新入りの侍女を助けたことも。

スープをおかわりされたことも。

あくびをされたことも。

猫に逃げられて悲しそうにしていたことも。


私一人では、決して全部を見ることはできない。

当たり前なのに、胸の奥が、いっぱいになった。


「……素晴らしいです」


「出た」


「やっぱり言った」


笑い声が上がる。

私はノートを大切に両手で持った。


「ありがとうございます」


「そんなに?」


「はい」


思わず力が入る。


「私一人では、こんなにたくさんのアリシア様を見ることはできませんでした」


「メアリ……」


「しかも」


頁をめくる。


「眠そうにあくびを……」


「そこ?」


「とても貴重です」


「そうなの?」


「はい」


エマが吹き出す。


「ほんっと好きねえ」


私は否定しなかった。

そしてもう一度、最初から読む。


何度読んでも良い。

どれも知らなかったアリシア様だ。


「ねえ、メアリ」


エマが言う。


「それ、今日だけじゃなくてさ」


私は顔を上げた。


「これからも書いていかない?」


「……!」


「何か見つけた人が、その都度書くの」


「それ良いわね」


別の侍女も頷く。


「私も今日、書き忘れたことあるし」


「俺も料理の反応くらいなら書けるぞ」


料理長まで当然のように加わっている。

私はノートを見つめた。


これからも、私の知らなかったアリシア様が増えていく。


「ぜひ」


即答した。


「でしょうね」


また笑われる。


「じゃあ、ここに置いておこうか」


エマが厨房の棚を指差す。


「誰でも書けるように」


「はい」


「でもさ」


一人の侍女が表紙を見る。


「何も書いてないと、何のノートか分からないわよね」


「確かに」


「名前つける?」


「何がいいかな」


少しの間、みんなで考える。

そしてエマが言った。


「『本日のアリシア様』とか?」


「……」


私はノートを見る。


『本日のアリシア様』


素晴らしい。


「それが良いと思います」


「即決!」


「だって分かりやすいです」


「じゃあ決まりね」


エマが表紙に文字を書く。


『本日のアリシア様』


出来上がった表紙を見て、皆が満足そうに頷いた。

そしてそのノートは、厨房の棚の一角に置かれることになった。


誰かが何かを見つけたら書く。


可愛かったこと。

優しかったこと。

少し不器用だったこと。

嬉しそうだったこと。

ほんの些細なことでも。


私は最後にもう一度ノートを開くと、一頁目から、ゆっくり読む。


胸の奥が温かくなる。


(……幸せです)


これはもう、私だけの日記とは違う。

みんなで見つけたアリシア様を、みんなで残していくもの。


(……もはや、推しサークルでは?)


そして私は、なんとなく思った。

この薄い一冊では、たぶん足りない。

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