EP602:伊予の物語「三悪趣の半獣(さんあくしゅのはんじゅう)」その8~不思議少女の鞭の跡の原因が明らかになる~
えぇっっ??!!
ビックリしたけど、美濃は馬と人の混血なんかじゃない!と私は思った。
どこからどう見ても馬に似たところがない普通の少女だし、美男の『人』である忠平さまに見とれてたし。
母君が特殊な趣味嗜好だったのを幼いころに耳にして、ショックを受けて、母君を慕うあまり、思い込みで
『私は馬と母上の子!半分馬なんだから、母上のように牡馬に恋すべき!』
って、無理やり馬を好きになろうとしてるんじゃないかな?
全部、無意識に。
いつもぼんやりして、不思議少女の雰囲気なのは、不自然に自分を抑え込んでるから?
もう一度、横になった美濃を、阿見が優しく寝かしつけようとしながら
「さぁ、姫さま、もう少しお眠りくださいな。
嫌なことはお忘れになって!」
美濃も促されるまま大人しく眠そうな目を閉じた。
阿見が子供を寝かしつけるときのように、トントンとゆっくり美濃のおなかをたたき、寝顔を見守りながら
「ですが、姫さまがこの寺に通っている理由は、母君さまを忍ぶためだけではございませんのよ。
この寺の裏の林で採れる椎のキノコが好きで、買って帰るという目的もありますの。
今朝も火鉢の網の上でそのキノコを焼いてお食べになったんです。
出発の時間がせまって忙しいのに、慌ててお食べになったから生焼けだったとおっしゃっていました!
それぐらい好きなんですわ!」
楽しそうに言った。
忠平さまの目がキラッと光り
「鞭打ちの跡のような皮膚炎の原因はそれだっ!
生焼けの状態の椎のキノコには皮膚炎を生じさせる物質が含まれると聞いたことがある。
強いかゆみがあるらしいが、一週間ほどで治癒するので、引っ掻かないよう気を付ければいい。
よく加熱することで成分が変化し無害になるので、つぎからは充分加熱するように。(*1)」
眠りについた美濃たちを残して、私たちは看病所から立ち去った。
砂利の敷き詰められた境内を歩きながら疑問の数々を整理する。
椛更衣が急に『上皇侍従に借りを返さなきゃ!』って言いだしたこと。
年子さまと兄さまが食べた美味しい旨味の強いキノコ。
このxx寺に、看病所があることを知ってたこと。
美濃に『もしや、あなたが、あの・・・?!』と呟いたこと。
つまり!と結論を出し、忠平さまに
「ねぇ!忠平さまはここに来たことがあるのよね?
住職と話をして美濃のことを聞いたのよね?
それもつい最近!
そして年子さまに、ここで買った椎のキノコを渡してお願いして、椛更衣をそそのかして、私がお返しの件を持ち出すように仕向けたのよね?
そんな真似してまで、私と一緒にここに来たかったの?」
それほど怒ってたわけじゃないけど、わざとふくれっ面になって、口をとがらせて問い詰めた。
忠平さまは、慌てた様子で額に汗をかき、モゴモゴして
「え?
いやっ・・・それは・・・・そう、だけど、伊予をだますつもりじゃなく、単に一緒にお参りに来たかっただけなんだ!
信じてくれ!
普通にお願いしたって来てくれないだろ?
だから策を弄したというか、一計を案じただけで、伊予を騙して拉致監禁しようとか、乱暴しようと思ったわけじゃないからっ!!」
はぁっ??
とイラっとして
「当たり前でしょっ!
拉致監禁?!なんてされた日にゃあ絶交どころじゃなく、検非違使に通報して獄にぶち込んでやるからっっ!!」
それに・・・と次の言葉を言いかけて、無意識に、胸がチクッと痛んだ。
「それに、忠平さまに今日で全~~~~部っ!借りを返したから、もう二人で会うこともないしね!」
言った後も、息が苦しくなるくらい、忠平さまのことを好きになりかけてた。
好き?というかっ!尊敬ねっ?!そっちの『好き』ねっ??!!
必死で自分に言い訳する。
ジャリッ!
音を立てて強く砂利を踏みしめ、忠平さまが立ち止まったと思ったら
「わかったぞ!牛頭馬頭が半人半獣である意味が!」
全く脈絡のない言葉にビックリして思わず
「はぁ?!何のこと?」
声を上げて、興奮で目を輝かせる忠平さまの顔を見つめた。
思いついたのがうれしいのか息を弾ませ、
「牛頭馬頭は人間と獣の禁忌の子だ!
美濃の母親のように獣に恋愛感情を抱く人と獣たちの間に、獣姦の末に生まれた『罪の子』じゃないのか?
彼らに罪はないのに、地獄に落とされ、罪人を責め苛む獄卒のような卑しい惨めな役割を押し付けられている!
おそらく自分たちの親にも、苛烈な拷問をしただろう。
親の咎を負い、幾重にも罰を受ける。
気の毒な話だな。」
最後は小声になり、少し寂しそうだった。
ふ~~~~ん。
なるほど~~~。
確かにそうかも!
・・・・・で?
私の言葉は無視されたの?
右から左に聞き流されたの?
忠平さまが不意に顔をこちらに向け、私をジッと見つめた。
血の気が引いた蒼白な顔で、刃物のような切れ長な目の奥に、滾るような意志の炎を揺らめかせ、全身の筋肉を緊張させ、張りつめた空気を身にまとって。
白っぽく乾いた唇をためらうように動かし、ゴクッと息を飲み
「やっと決心した。
子供たちに罪を背負わせても、かまわない。
醜い半獣が生まれたとしても、かまわない。
兄上の妻のままでいい。
伊予となら、怖くない。
伊予となら、
喜んで、
地獄に落ちるよ。」
硬い、決意のこもった声で、ひとことずつ絞り出すように、呟いた。
(*1:シイタケ皮膚炎は、生や加熱不十分なシイタケを食べた数時間〜数日後に発症する皮膚炎です。強いかゆみとともに、引っ掻いた跡やミミズ腫れのような赤い線状の発疹が背中や腕などに現れるのが特徴)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
牛頭馬頭が人間の性的趣味嗜好の変質のせいによる妄想の産物というか、禁断の恋の結果の子として創造された生き物だとしたら、説得力があるなぁと思いこの話を書きました。
望んで地獄の獄卒になったわけじゃなく、娑婆の人間の悪事の結果、誕生せざるを得ない、悲しい運命の生物だと考えれば、地獄絵図の見方も変わりました。
「本人たちも好きで獄卒になったわけじゃなく、親のせいかもな~~~~!
仕方なく拷問してるのかもな~~~!」
と。




