EP601:伊予の物語「三悪趣の半獣(さんあくしゅのはんじゅう)」その7~不思議な少女が衝撃的な告白をする~
仁王門ちかくの看病所と思われる建物に案内されて中に入ると、几帳と衝立で区切られた房が複数あり、その一つを従者が指し示すのでそこに入った。
房には畳が敷いてあるうえに、美濃が眠るように横たわっている。
枕元には侍女が座り、不安そうに美濃を見つめていた。
美濃の手には白い布が巻かれてた。
侍女が、か細い声を震わせながら
「先ほどここで薬師に擦りむいた傷を手当てしてもらい、お参りしておりました。
金堂や三重塔を拝観したあと、神馬の像にさしかかると、姫様がその前からピタリと動かなくなりました。
そして突然、意識を失ったように倒れこんでしまったのです。
うっ・・・・うっ・・・・」
鼻をすすり上げて泣き始めた。
侍女の対面の枕元に座り、美濃の寝顔を見つめる忠平さまが無表情で
「美濃には持病があるのか?
馬にぶつかったときは頭を打ってはいないだろ?
昏倒の原因にはならないだろう?」
侍女はハッ!として泣きはらした顔を上げ、唇を噛んで、言おうか言おまいか、ためらうように唇を震わせ、決心したように口を開いた。
「じ、実は、姫さまをここにお運びし、意識を失っている間、痒そうに背中や腕をお掻きになるので、衣をめくって肌を確かめましたところ・・・・・」
ここまで言うと侍女はゴクッ!と息を飲んで、忠平さまと私を見つめ、勿体つける。
じれったくなった私が、眉を上げ、目を見開き、パチパチ瞬きして
『何っ??!!早く言って!!』
と目で急かすと、侍女はまたゴクッと唾を飲み込み
「む、鞭のような跡が・・・・せ、背中と、腕の、肩の近くに、ありました!
いつ誰にそのような仕打ちをうけたのか、全く心当たりがございません!
今朝から目を離したことなどありませんのにっ!
昨夜?まだお屋敷にいる間のことでしょうか?
なぜ、姫様が・・・・!そのような目にっ!!」
忠平さまが腕を組み、うーんと唸り
「鞭の跡というと、赤い蚯蚓腫れになっていたということか?
蚯蚓腫れが何か所もあるのか?」
侍女がウンと頷いた。
忠平さまが
「背中?なら馬にぶつかったのとは関係ないな。
背中に木の枝がひっかっかったとか、棒で擦ったとか、鞭とは関係ないかもしれない。
なのに、なぜそう思った?」
侍女はビクッ!と肩を震わせ、俯いてまた、言おうかどうか迷ってるように黙り込んだ。
忠平さまが真剣な目で侍女を見つめ静かな低い声でゆっくりと
「大丈夫。誰にも秘密は洩らさない。
なぜ美濃の体に鞭の跡がついたと思ったんだ?」
侍女はうつむいて、美濃の寝顔をジッと見つめ、ポツリポツリと話し始めた。
「姫さまは、先ほどもご覧になったように、物心ついたころから馬に特別な関心をお持ちなんです。
特に、美しい立派な雄馬には異常な興味を示し、お屋敷のご近所にある厩に好みの馬がいるときには入り浸って何刻でも一緒に過ごしております。」
へぇ~~~~!!
極度の馬好き?!
だから忠平さまの愛馬に不用意に近づいて驚かせたのね?
納得してると侍女がワナワナと唇を震わせ
「で、ですから、その・・・・ひ、姫さまは、ご自分のことを馬だと考えてらっしゃって、め、雌の・・・・それで、家の者に、ご自分を鞭打たせたのではないか、と邪推いたしました。」
チラッと横目で、几帳の向こうにいるらしい従者のほうを見た。
はぁっ??!!
自分が馬だから?
鞭打ってほしいって思うのっ??!!
何ソレっ!!
分かりそうで分からない、何やら複雑な倒錯的な趣味ねっ??!!
忠平さまも眉を上げ驚きの表情をしたけれど、すぐには反応せず、沈黙が立ち込めた。
すると少女の高い声で
「そんなわけないでしょっ!
鞭打たせてなんてないわっ!!」
仰向けに寝てる美濃がパッチリ目を開き言い放った。
私たちが視線を向けると、悲しそうに目を細め
「だけど、阿見の言うことも半分は当たってる。
私の母は馬しか愛せない人だったもの!」
モゾモゾと体を起こして、座り、忠平さまを見つめた。
忠平さまがハッ!として
「もしや、あなたが、あの・・・?!」
と息を飲む。
私はキョトンとして
え?
知ってるの?いつから?何を?
と疑問。
美濃は首を傾げて品を作り
「驚いたでしょ?
母はその病気を治療するためにこのxx寺に通っていたの。
ご住職に相談してたの。
でも・・・でもね、母さまは、本当は、心の底では、治療したいなんて、病気だなんて思ってなかったわ!
だって・・・だって・・・・」
侍女の阿見が慌てて美濃の袖をつかみ、揺さぶりながら、
「姫さまっ!
それ以上はおっしゃらないでっ!
殿の、お家の恥になりますっ!!」
美濃は忠平さまから目を逸らしてうつむき、グッと目を閉じ
「構わないわ!だって本当のことだもの!
母さまは、母は、馬と・・・・好みの容姿の、美しい毛並みの、漆黒の鬣の、立派な逞しい体格の、牡馬と、契ったんです。
それも何度も・・・・!
『やっと好きな人と結ばれた』
と住職に告白したらしいんです。
そのあと、私が生まれたんです。
だから私は、馬と人の合いの子なの!
半人半馬の怪物なのっ!
・・・・だから私も牡馬に、自分ではどうしようもなく魅かれるんです。
卑しい醜い女子だと思われても仕方ありません。」
最後は、目を見開くと、すぐにトロンとした焦点の合わない目つきになり、夢見心地で呟いた。
(その8へつづく)




