塩
【☆★おしらせ★☆】
あとがきにとても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
続いて行われたミドルの村とアマゾネスの集落の視察はつつがなく終了した。
彼女達は農耕というものにほとんど興味がなく、基本的に狩りを行っているだけだ。
畑作を行うのはアマゾネスに養われているという人間達程度で、その規模は獣人の集落より更に小さい。
王国において租税は土地か人頭のどちらかにかかる。
彼女たちが素材を冒険者ギルドを通して売却していることを考えると、この場合は人頭税を取っておくのが無難だろう。
見上げるほどの巨体の魔物を軽々しく持ち上げるアマゾネスに家に来ないかと誘われた時は正直心が動かないではなかったが、バルクハイムは鋼の意志で北海へと向かった。
バルクハイムは仕事に私情を持ち込まない男である。
だが機会があればまたアマゾネスに会いに来たいと思う程度には、彼は普通の男でもあった。
「これは……広いですな」
「現在船の買い取り交渉を行っている最中です。さすがに私達に船造りに明るいものはいないので、せいぜい漁のための小舟を作るのが限界でして」
北海には、幻想的な光景が広がっていた。
洞窟の中に作られた人魚の家。
その中にあるスペースでくつろいでいる漁師の男達。
浅瀬では設置された網の中で、小さな人魚の子供達が遊んでいる。
「すごいな……」
「ええ……私、査察官をしていて良かったです」
物語の中にしかないような光景に、バルクハイムはマジカと一緒に見とれてしまっていた。
だが仕事をしなければならないので、昼飯に海産物を入れてから腹をさすりつつ仕事に戻る。
北海の漁獲高はかなり高いらしい。
だがそれはあくまでもマーメイドの潜水能力が高く、彼女達が水棲の魔物を蹴散らすことができるが故。
王国の一般的なガレー船だけでやってくるには危険度が高いらしく、やってくるためにはマーメイドの護衛は必要不可欠らしい。
「けれど王国ではマーメイドは色々と大変な立場なので、しばらく海洋貿易は商業連合あたりとの取引に限定させていただこうかと思っています」
「……わかりました」
海洋貿易から得られる利益は凄まじい。
その恩恵を王国が得られないのは勿体ない気もするが、その理由もわかるため、ここは関税の恩恵だけで納得しておくしかない。
マーメイドが人間達から狩りの対象とされているというのは有名な話。
そのため彼女たちはみだりに人前に出ることはなく、王国内ではその姿を見ることがほぼ不可能なほどに稀な存在だ。
奴隷狩りが住んでいるような場所に行きたくないというマーメイドの気持ちは、尊重されるべきだろう。
互いを愛し合いながら暮らしている人とマーメイドを見たからこそそう思う。
人と亜人と魔人が共存しているこの領地は、極めて特異だ。
であればその特異性を最大限利用させるのがお互いにとっての最適解だと、バルクハイムは判断する。
彼らには彼らの文化があり、その上でこちら側の法律や税制に合わせようとしてくれている。
下手に王国式に染め上げようとして反発を買うよりもこの形を維持・発展させていった方がきっと、お互いのためにもなるに違いない。
彼らを長い時間をかけて王国が取り込んでいけば、最終的にそこから得られる利得は想像もつかないものなるだろう。
金銭的にも、そして文化的にも。
「それでは査察は以上になります。後ほど報告書をお送り致しますので、何か改善や要望があれば小官の権限の及ぶ範囲でやらせていただきます」
「あ、すみません、実はあと二つほど報告がありまして……」
「……お聞きしましょう」
バルクハイムは丹田に力を込め、ゆっくりと深呼吸をする。
ヴァルの報告を聞くためには、彼の方でも覚悟を決める必要があった。
既にこの領地に来てから、一体何度驚かされたというのか。
どのようなものを出されても決して動揺はすまい……けれどそんなバルクハイムの覚悟は
次の瞬間には崩れ去っていった。
「実はマーメイドにとあるものの産業化をお願いしておりまして……試行錯誤の結果、一年ほど前に成功致しました」
「産業となると……漁業関連でしょうか? あるいは海上警護の護衛隊のような……」
「いえ、それに関しては……こちらを見ていただければわかるかと」
そう言ってヴァルが差し出してきたのは、一つの小さな巾着だった。
手に持ってみると中身は軽く、さらさらと中身動くのがわかる。
ビーズの類いだろうか……と重い口紐を開いてみると、中から出てきたのはややくすんだ白色をした、小さな砂のようなものだった。
北海と呼ばれる環境、そして小さな白色の顆粒……まさか、という思いが脳裏をよぎる。
震え始める手を必死に押さえながらバルクハイムは指先でそれをつまみ……ヴァルが止めぬことに自身の推測が当たっていることを知りながら、口へ含んだ。
「……っ!?」
「バルクハイムさん、どうしたんですか?」
「……お前も、舐めてみろ」
「はい! ……しょっぱい! これは……塩!?」
そう、バルクハイムが握っているそれは……紛れもなく塩であった。
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