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第9話 ”私の才能”

【ごめんね、せっかくいちゃいちゃしていたのに。私は“運命と復讐の女神”。さっきナオちゃんから、お話は聞いていたわね】


「とんでも……ございません……ご無礼を、どうかお許し……ください」


 ルナリスが、私のお膝の上で恐縮しちゃってる。力が入ってる背中をさわさわ~。

 はふぅ、って艶めかしい声を横に。


「女神様、称号の力、まだ理解は及んでおりませんが。お授けくださった力のおかげで、ルナリスを救う事ができ。私自身の命をも拾う事ができました。深く御礼申し上げます」


 【ナオちゃん、かたいかたい~。丁寧なのは良い事だけれどね。どういたしまして。でもね、今日、この日、この運命に間に合ったのは、貴女の努力の賜物なの。それを決して忘れず、そして卑下しないでね? 毎日、どれだけ辛くても、1日たりとも緩まず、自分にできる全ての事、全てのお仕事に全力で取り組んだ。だからこそ、その短い18年の人生の中で、1,000回もの追放。もう明かしてあげてもいいわね、『優しさと感謝に満ちた、追放』なんていう、とんでもなく厳しい基準も超えて、私からの祝福である称号を得るに至れたの。誇りなさい、貴女は素晴らしい子よ】


 さっきの、いやらしい気持ちとは全然違う、ただ、ただ、気持ちが昂って。鼻の奥がツンってして、涙腺が。

 誰にも認めてもらえない、ううん、何より自分が自分を認められない。そうやってずっと生きてきた。

 誰もが当たり前に発現する才能、取柄を活かして、人生を歩む才能。それが分からなくて、迷子で。


「ナオ……様、は、お偉い……です」


 2人からの慰撫に、心の奥底に沈殿していた泥濘が、払われていく。


 【それでね? 前回才能の事は内緒、ってなってしまったでしょう? 貴女達は今、最古の竜の一角。深淵の古竜を討滅したわ。その偉業を讃え、今なら私から贈り物ができるの】


 私が落ち着くのを待ってくれた女神さまからの予想外のお言葉。


「ですが、私は既に過分な恩寵をいただいております」


 【言ったでしょう? ”復讐の百合姫”は、貴女の今までの努力、人生の証よ。まずは貴女の才能。それを教えてあげる】


 あぁ、いよいよ、いよいよわかるんだ。緊張にルナリスを抱きしめる腕にわずかに力が入る。


 【貴女の才能、それは『運命を織る才能』。私自らが祝福と加護を与えた才能よ♡】


 え、それってつまり。歴史上の英雄達のような。


「私は女神様の……使徒、なのですか?」


 【うん、正解。でも、私は貴女に何かをしなさい、何かをしてはいけません。なんて、堅苦しい事は何も言わないわ。『運命の導くまま、己が欲するまま、運命を自ら紡ぎなさい』それが、私のたった一人の使徒に与える、神命よ。あ、そのままでいいわ、私女の子同士が大好きなの♡】


 ルナリスを膝からおろし、跪こうとしたのを敏感に察知し、止められる女神様。

 い、いいのかなぁ……いいんだろうなぁ……。


「神命、拝命いたしました」


 【うん。それでね? 貴女の“運命を織る才能”だけれど。これは、貴女が心の底から願う時、誰かの運命の縦糸と、貴女の運命の縦糸を交わらせ、紡ぎなおし、その誰かの運命を変える。そういう才能なの。貴女は知らず知らずの内に何度もその能力をすでに使っているのよ。でも、気を付けて。この才能はね、あなた自身の運命という織物を、一部なりと解き、その糸を誰かと交わらせる。多用すれば、あなた自身の運命が破綻しかねない、あるいはあまりに甚大な災禍の運命を貴女のそれと混ぜ合わせ、織り込んだなら、貴女へも大きな災禍が降りかかります。これまでの事を後悔……しているかしら?】


 なんて、壮大な……確かに、体調が悪くなったり意識を失ったことは今まで何度もある。

 そう教えてもらえば、あの時の事はもしかして? って思う事がいっぱいある。

 そうか、私、結構危ない事、してたんだ。

 少しづつ理解が、私の中にじんわりと広がってくる。

 そんな私を見透かすみたいに。


【それにね。ゆめゆめ忘れてはいけませんよ? これまでとは比較にならない、他者の運命。時に『破滅』さえも取り込み、交わらせ、織り直すようなことがあれば。それは貴女自身の破滅としてすら、引き受けてしまうということ。……下手をすれば、貴女の一番大切な人達まで巻き込んで、ね?】


 ぞくり。

 背筋に冷たいものが走る。つっと、腕に冷たい汗が伝い落ちる。

 女神様の声が一瞬だけ、深い深い、深淵の古竜の空間の闇よりも深く昏く、響いた気がした。


 ……でも。


「ありがとうございます。こんなにも素敵な才能を、祝福をいただいて。後悔なんて、一つもありません。私、自分でも気が付かないうちに、人の役にたつ事が……幸せをあげる事が……できていたんですね」



 【ええ、そうよ。ナオちゃんはやっぱりいい子ね。それでね。さっき貴女はルナリスちゃんを救うために、深淵の古竜が絡めとっていたルナリスちゃんの運命。自分の生贄として強要する運命を取り込んで、あなた自身の運命を分け与えてあげたの。相手が相手だから、貴女が差し出した自分の運命の糸はとても膨大だったわ。その影響で、貴方たち二人は一心同体、一つの運命を共有する、離れられない間柄になっているわ。その証が、首元のチョーカーね。それは、複雑に絡み合った運命の糸が、互いを結びつける絆として物質化までしたもの】


 2人そろって首元のチョーカーをそっと撫でる。

 全く同じ動きをしたことにくすりと微笑みを交わし、つながりの証に嬉しい気持ちになっちゃう。


 それに、首輪……これって、実質『首輪』だよね!? ルナリスと私が、逃げられない運命で繋がれた、愛の首輪……!

 しかも物質化してるなんて、最高すぎない? 一生外さない。絶対にお風呂でも外さない!


 あ、ルナリスも視線をさまよわせながら、両手でチョーカーをさらに、さわさわ、さわさわ。えへへ~聞こえちゃった?



 【ルナリスちゃん、貴女はわかっていると思うけれど、貴女の才能は”生命を宿す才能”。仮初めの命を与える力。それと同時に、あなた自身の魂を神域に預け。幾度でもその身を現出させて、現身の生命を宿す。疑似的な不老不死。ナオちゃんには今その力も半分、後者の力が宿っているわ】


 え、つまり?


「ナオ……様。どうか末永く、永遠を、わたくしと共に」


 あ、これそういう意味だったんだ? 私の魂も神域にあって、この身体は仮初めのモノになった? だから、身体が死んでも、さっきのルナリスみたいにまた復活できる?


「ご迷惑……でしたで、しょうか」


 不安そうに見つめるルナリス、瞳がうるうると揺れ始めて。


「ううん、逆だよ。私も嬉しい。末永く、永遠を、一緒に歩んで行こうね」


 はからずも、そういう事になったみたいよ?


 【ルナリスちゃんの”生命を宿す才能”は、あらゆる存在から狙われる、とても稀有な才能。その魂の写し身、現世の肉体に宿る仮初の魂であっても、その味は天上の甘露。まして神界にある本物ときたら……まあ、そちらは手が届くわけがないでしょうけれどね。生命亡き者は、仮初めと言えども生命を与えられることを願って、あらゆる手段を使ってルナリスちゃんをものにしようと迫って来るわ。だから、ナオちゃん? 2人で、互いを慈しみ、護り、運命を切り開いていくのよ? “復讐の百合姫”の力は、貴女の成長と共に、進化していくわ。今は、あなた自身と、運命を繋いだ特別な人が被った危害を概念としてとらえて、復讐する。貴女色の黒と金の焔の力だけね】


 なるほど。やっぱりあれは。


 【うん。ルナリスちゃんへの溜まりに溜まった加虐が途方もなさすぎて、深淵の古竜すら葬る復讐の力となっていたわけね。最後にじゃあ、約束した贈り物ね? ナオちゃんには加護と称号をあげている。でも、この先2人だけでは厳しいでしょう。だから】


 まだ闇の中に漂っていた、深淵の古竜の魔石が神々しさを感じさせる、黒い光、うん。そうとしか表現のできない光に包まれる。


 【あなたの大切なお人形、古代魔導人形に生命を宿す、魔核として。その魔石を聖別してあげたわ。私からの祝福も込めてね♪ それで、紗雪ちゃんを、目覚めさせてあげなさい。女神の力が宿っているから、神聖魔導人形、って呼んであげてもいいかもしれないわね。じゃあ、2人とも? 『あなた方が紡ぐ運命を、楽しみに見守っています』。じゃんじゃん! いちゃいちゃしなさいね♡】


 そんな、お茶目なお言葉と共に、女神さまの神聖な気配は離れて行ってしまいました。



 わたしの掌の中に、温かく脈動する黒い宝石を残して。


 これがあれば、紗雪が動く。本当に、お喋りしてくれる。

 ママみたいに、私を呼んでくれる。


「……早く、帰らなきゃ」


 私はルナリスの手を引いて、駆け出した。一秒でも早く、愛しいあの子に命を吹き込むために!


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