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第10話 ”ぶんぶん(物理)”

「ルナリス、外に出ようか。そういえば、何日かわからないけれど全然お腹もすかないし、喉も乾いてないの不思議」


 本当、なんでだろう? ガーターポーチに多少非常食と飲み物は入れてあるのに、出す気分になってないの。


「それ……は、わたくし、の”生命を宿す才能”……の影響、かと」

「そうなの? あれ……女神さまの説明だと」

「本来の魂は神域……に。現世の身体……は、仮初めのもの、です。傷の治りも、とても早いです……よ?」


 と言って、きょろきょろ。まさか刃物探してる?


「いいから。実演しなくていいから、ね?!」


 って、言ってるうちに扉の外へ。

 そこは入る時に見たのとほぼ同じ。少し飾られている宝物が減っているけれど、世界中の財宝が飾られた素敵なお部屋。


 なんだけど。


「騒がしい……です?」


 ルナリスが言う通り、なんだろう、争う音とか、怒鳴り声とか。いわゆる戦闘音?

 なんて不思議に思っていたら、どやどや~って、なだれ込んでくる男達。

 多分、面接をしてくれた時、お部屋にいた人達も混ざってる?


 血走った目で入ってきた男たちが私とルナリスを見つけると。あ、私お仕事さぼっていたことになっちゃうのかな……怒られるのかなぁ、でも、しょうがないよね。ちゃんとお仕事できてなかったんだもんね。


「てめぇ、なんで生きてやがる!」 「おい、しかも生贄の女も出てきてるだと」 「殺せ、殺して封印に戻せ!」 「くそ、いくら上手い儲け話でも、こんな厄物。俺たちに扱い切れるわけがなかったんだ」 「うるせぇ、こんだけの財宝、諦められるわけがねぇだろ」 「そ、それより約束の援軍は……援軍は来ねぇのかよぉ」


 え、え、ちょっと何、何事!? 怒られるかな~くらいは覚悟してたけれど。とんでもなく物騒な事やら、情けなさそうな事を言いながら剣を構えて駆け寄ってくる10人もの、軽鎧をまとったむさくるしい男達。

 その姿を前に、とにかくルナリスを守らなくちゃ。と、前に飛び出る私。


 背中から歌が聞こえてきた。

 透き通るような、高く伸びやかな声。楽し気な旋律。

 ルナリスの歌。


 すると、カタカタ、カタカタ、という小さな音に続いて、壁際に飾られていたいくつもの武器、短剣、剣、東方大陸の刀、次々と宙に浮いたの。

 踊りだす武器たち。ルナリスの歌声に乗せて、宙を舞い、殺気立つ男達の武器を刎ね飛ばし、致命傷は避けるように斬り伏せる。

 さらには男たちがとり落した武器まで、宙を踊り、応戦する連中と斬り結び始める。


 歌が終わる頃には、立っている男は一人もいなくなっちゃった。


「ルナリス、すごい、すごい!!」

「ありが……とう、ございます」

「これが、仮初めの命を与える力?」

「はい。望む命を、望む形で与え……助力も乞う事ができ……ます。従ってくれない……子も、多いの……ですが、よかった、です」


 なるほど~、それにしても、ただ生命を宿すだけじゃなくて、宙を浮いたり、自由自在に動けるようにできるって。かなりとんでもないね?


「ちっ、やっぱり、俺たちを潰しに来た先兵だったか。奴ら、俺たちを使い捨てに……」


 あ、最初に案内してくれた、怖いおじさん。

 両手で両刃の大剣を構え、額から血を流してこちらを睨んでる。


「あ、おじさん。これ、どういう状況なの? わたし、この中のお世話をしに行ったけれど、怖い竜に襲われて」

「この期に及んでまだふざけやがるか、クソが!! しかもなんで生きてやがる。てめえは、のこのこ封印の中に入って、深淵の竜に食われたはずだろうが。くっそ、生贄の補充だなんざ嘘っぱちか」


 え~……私、食べられるのがお仕事だったの? それ、死んじゃうよ、っていうか、そっか~。生きたエサのお仕事だったのか~。悲しい。

 あれ? でも冒険者ギルドの紹介で……、あぁ、それであんなにラティさん、一生懸命止めてくれてたのかな。特別なお仕事って浮かれちゃってたや。冒険者のお仕事は自己責任。内容もちゃんと見ないで、できる事ならなんでも飛びついちゃう私の悪い癖ね。

 でも……才能もわからない私はそうでもしないと、お仕事なんてないもん……。



 なんて、ウジウジしてる場合じゃない、怖いおじさんが、大剣を構えて今にもこっちに飛び込んできそう。まだ戸口までは少し距離があるけれど。

 ルナリスもあわてて、もう一度お歌を歌い始めようとしている気配を感じる。

 何か、なにかないかな。いくらお仕事でも、殺されちゃうのは絶対に嫌!


 ルナリスの歌が響きはじめ、再び仮初めの命を与えられた武器たちが宙を舞い、怖いおじさんに躍りかかるけれど、巨大な大剣で吹き散らされ、折れ曲がったり破損して力なく床に落とされてる。

 少しづつこちらに近づいてくる暴力の化身。


「なにか、なにか……」


 軽い武器じゃきっとダメ、何か盾とか、壁になるようなもの。

 目の端に、私の髪の色みたいに漆黒の、そして怖いおじさんが持っているよりもさらに大きくて重そうな、大剣!

 地面に置かれた大きな台座に突き刺されたそれなら、おじさんの怖い大剣でも壊されずに持ちこたえてくれそう。あの周りで鬼ごっこすれば!


 なんて、多分私も半分パニックになっていたんだと思う、とにかく逃げなきゃって、ルナリスの手を取って、駆け出す。

 深淵の古竜程の絶望感なんてないはずなのに、なんでだろう、相手が”人間”って思ったら、足がすくむような別の恐怖が沸き上がっちゃって。


「おら、往生せいやぁ!」


 轟音とともに横薙ぎに振られる大剣。辛うじて、台座に突き立つ漆黒の大剣の裏に回り込むのが間に合った!

 宙を踊る武器たちは、既に全部、叩き落されて破壊されてる。ルナリスの歌が、今度は、展示されていた、重そうな金属鎧を動かしているけれど、丸太みたいな脚から繰り出される蹴りでバラバラになって転がっちゃった。


 ぐるぐると台座に突き刺された大剣の周りで鬼ごっこをする私達。鬼のような形相で、ぐわぁん、ぐわぁん、振られる大剣を、漆黒の大剣が壁になって防いでくれてる。


「ね、ねぇ、私何が何だか分からないの! お話し、お話し合い、しよ!? ね?」


 何とか止まってもらおうと声をかけるけれど。


「ふざけるな! 俺たちはもうお終いだ、あんな話に乗らなけりゃぁ……せめててめえはここで死ね!」


 聞いてくれないよ~~。

 なんて言っている間にルナリスが、躓いた。崩れる体勢。転ぶルナリスの銀の髪が、ふわりと広がる。


 ぐいっ。痛かったらごめんね、内心そう謝りながら、思いっきり彼女の腕を引いて私の後ろへ突き飛ばす。庇うように、入れ替わる位置、振り下ろされる大剣。


 ぐぎ、べぎゃ、ぐじゃ。


 脳みそが焼ける、痛い痛いイタイいたいいたいイタイいたい

 うで、わたし、の、腕が飛んで。左肩潰れてる、血の塊が喉の奥から、左の肺、あばら

 あぁぁ゛ぁぁ゛ぁ゛

 血で喉がふさがる。


 いき゛ができ゛な……。



「へ、抵抗しやがって」


 目がちかちかする。痛み、命がこぼれていく喪失感。

 再び振りかぶられる大剣の圧力、その切っ先の向く先は、辛うじて難を逃れた、地面に転がる愛しのルナリス!


 痛みに灼熱する意識に、刻々と薄れゆく意識に、がむしゃらな怒りが灯って。


 傷口。抉られて潰された、私の左半身から、焔が吹き出す。


「ルナリスに、手を、だすなぁぁ!」


 轟! と、吹き荒れる、黄金と漆黒の、私色の焔。

 奪われた私の半身の復讐!


「んなぁ!?」


 振りかぶった大剣の軌道を変えて、焔に向かって叩きつけるみたいに振り下ろす男。

 よかった、ルナリスへの攻撃が逸れた。

 後退しながら、ぶんぶんと、大剣を、腕を、振り回す男。

 喰らいつき、纏わりつく焔に、全身が蝕まれ始める。でも、あれじゃ死なない。

 最期の力でルナリスを害される可能性を、潰せない。


 こいつは、ここで、しとめなきゃ。

 ルナリスが、愛おしいルナリスが。やらせない、ぜったいに。


 男の人特有の、汗と脂と欲望の混じった臭い。昔……あれ? いつの事……なんで、ママ。

 うん、ママがそう、いなくなった日。あの日もこんな臭いが……?


 ……吐き気がする。


 男の大剣は半ばまで、私の焔に喰い散らかされて、ぼろぼろ。でも、男はまだ動いてる。

 私のルナリスに、その汚い手で触れるな!!


 視界の端に、漆黒の大剣。いくつもの宝石が埋め込まれ、黄金の装飾が施された、わずかな反りのある片刃。超重量の芸術的な武器。

 血を吐き零しながら、半身の喪失感にもう、なんで自分が動けてるのかもわからないけれど。

 無我夢中で、台座に埋められた大剣の柄を右手で握る。


 あれ?


 私の身長と同じくらいの巨大な、超重量武器。抜けるわけがないって、頭のどこか冷静な部分で思っていたのに。

 重心がいくら手元に来るように調整されていたとしても、あり得ない。

 普段だって無理なのに、もう息だってまともに吸えてない、こんな身体だよ?


 なのに。

 短剣を持ち上げるみたいに軽々と、持ち上げちゃった。


 ぶんぶん。


 軽々と振り回した大剣の刃。黄金と漆黒の焔から、必死で逃れ(のがれ)ようとしていたおじさんに強烈な勢いで振り下ろす。

 筋肉のうねりと共に、半分の長さになった大剣で、あんな状態でも的確に防ぐ、怖いおじさん。

 その身体が……。


 ズゴッッッン


 おじさんが、構えた大剣ごと、鎧も、肉も、骨も。クシャッて押しつぶされて。

 冗談みたいに入り口の扉を突き破って、すっ飛んで、通路の壁にめり込んじゃった。


 “あ、流れ星~”他人事みたいに、そんな言葉が脳裏をよぎった。


 もしかして、この大剣って見た目だけの張りぼて? でも、さっきまで、怖いおじさんの大剣を防いでいたし。

 怖いおじさんは、鋼鉄のこん棒を巨人に振り下ろされたみたいな惨状だし。



 あ、だめ。そんな事より、動いたらさらに半身からこぼれる血が勢いを増して、もう……ほんと無理。



「……ごぶほっ」


 やだ、可愛くない音が、美少女な私の口から。

 なんだか、大切なモノが、血の塊と共に出ちゃったね……あはは……でも、ルナリスが無事なら、本望かな。


「ナオ……様!!」


 悲痛なルナリスの悲鳴を最後に。


 また、意識が途切れた。

 いくら私が美少女でも、こんなに気絶ばっかりするなんてぇ……。


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