第11話 ”よく知ってる天井”
「冒険者ギルドの医務室だぁ」
うん、すごくよく知ってる。青と白の大理石を規則的にくみ上げた、石造りの天井。あっちの隅っこ。あそこだけ、石工さんが色を間違えて、青を入れちゃったんだよね。ほらやっぱり。
よく知ってる天井だ~。
私、碌に戦えないのに、見習い荷物持ちとして、ダンジョンとか連れて行ってもらってたから。それに、フラーって倒れる事も多かったからね。まあ、それも今は、“運命を織る才能”で少しだけ、何か良い事をしてあげられた代償だったんだって、わかって、幸せだからいいんだ~。
「ナオ……様! 目が……覚められたの、です……ね」
うわぁ、窓から差し込む日の光が後光になって、銀の髪がきらきらと煌めいて。線の細い、怜悧な美人なのに、胸が苦しくなるくらいのかわいらしい愛嬌がある、超絶美少女が私をのぞき込んでる。
嬉しそうにほほ笑む口元、サクランボの唇。チュッてして、舐めちゃいたいくらい可愛い。
「ちゅっ……ぺろ」
しちゃったあ。
あ、ほんのり赤くなった~♪ か~わ~いぃ~。
って、いけないこれ、心の声も聞こえちゃってるんだったよね。
「そう……ですよ、もう。心配……しました、とても……とても」
あんまり表情は変わらないのに、ぷんぷんって、音がしそうなくらい、可愛く怒ってる~ってわかる銀の姫。ぽかぽかと、嫋やかな手を緩く握って、優しく私の大きなお胸をぽむぽむ、緩くたたいてくる。
「よかった。目を覚まされたのですね」
「ラティさんだ~♪」
「はい、貴女の専属受付嬢ラティですよ」
「またまたぁ、冗談言っちゃって。見習いに専属なんて。でも、目覚めてすぐに、ラティさんに会えてうれしい~」
この人はね、ラティさん。ゴールデンレトリバー系の獣人で、たれ耳なわんこ耳と、尻尾が生えてるの。
ふさふさで、つやつやの、綺麗な毛並みをしたプラチナゴールドの毛色が素敵。それにそれに、私よりさらに大きい奇跡のお胸をしている上に、1年位前から透け感のあるドレスに、ボレロを羽織ってお仕事をするようになって。また、可愛さが天元突破しちゃってるの。ギルド長の趣味です、なんて怒って見せてたけれど、絶対、本人の趣味だと思う。私にはわかるんだ!
かわいぃ。
おっぱいも見たい、尻尾もふもふして、お耳むにむに~ってしたい。
「ナオ……様」
って、馬鹿なことを考えていたら、ルナリスがちょっと寂しそうなお顔で、自分の胸元に視線を。
「ち、違うの、ルナリス。お胸は大きいだけが全てじゃないの。ルナリスの程よいふくらみに、柔らかさ。何より首筋とか、敏感なところに触れるとすごく、反応しちゃうところが、ものすっごくエッチで可愛くてね?」
あれ、私何言ってるんだろう。
ラティさんが滅茶苦茶生暖かい目で見てる。まずいわ! 変態さんだと思われちゃう。
クールでビューティーな私のイメージが!
あ、でもでも~。ラティさん、後ろのふさふさ、ふわふわの、お手入れを欠かしてない尻尾がブンブンちぎれそうに振られて。あ、ちょっとくるんって一回転した? したよね?
ラティさん実は悦んでるよねぇ。……あぁん、可愛い! その尻尾ふわって撫でて、顔を埋めてす~は~、す~は~ってしたい!!
「こほん、ルナリス? 貴女は誰よりも可愛くて綺麗な、私の愛する人よ?」
まだ疑いの残る……あれ? むしろちょっと、さらに疑いが増した? 上目遣いで。
でも、嬉しそうな感情が私の心に伝わってくる。
あ、これが伝わる感じなのかな、幸せ~。
ルナリスはもっと直接的に言葉まで感じ取れている気がするから、感覚への慣れなのかな?
「目覚めたそうですね」
と、そんな和んで愛を確かめ合っている私とルナリスにかけられる、爽やかイケメンボイス。
「がるるるるるぅ」
敵、私の敵! エルフのサワヤカイケメン男。数多の乙女の恋を奪う、私の天敵!
黄金の瞳も鋭くなっちゃうっていうものよ。
「ナオちゃん、もう……」
ラティさんが呆れたようにため息を零すけれど、これだけは無理、譲れないわ。
まして、ルナリスをその汚らわしい視線にさらすなんて。ぎゅっとルナリスを胸の中に抱きしめて、こいつの視線から、男なら全員刹那の内に恋に堕ちて猛獣になっちゃう美貌を隠す。
ギルド長が女の人だったらな~、エルフらしい繊細なこの美貌。絶対超美人さんだったよ~。
「相変わらず嫌われていますねぇ……仕方がありません。負担をかけるのは本望ではありませんからね。無事も確認できたことです。ラティ、事情聴取と、説明。任せましたよ? 裁量権は事前の通達通り」
「承知しました、ギルド長」
「では。ナオさん、とにかくあなたがご無事でよかった。そして、これだけはどうしても直接、言わせてください。ありがとうございました」
うん?
え、イケメンエルフ男が深々と頭を私に下げてる。えー、ちょっと待ってよ、それはダメだよ。
「あ、いえ? どういたしまし、て? あの、ギルド長どうか頭をお上げください。見習いなんかにダメですよ。お立場が。それに私何もしてないし、お仕事失敗して帰ってきただけですよ?」
って言ってるのに、頭上げてくれないし。さらにしばらくそうした後、
「では、失礼いたします」
なんて、爽やかスマイルを残して出て行っちゃった。
「ナオちゃん、動けそう? お話しできそう?」
ラティさんに言われて、うん。身体は全然問題ないね。ただ、お洋服が。
「あの、できれば、お着換えだけしたくて」
「あ、そうよね、じゃあいつもの会議室でね?」
「はい」
スリップ1枚で寝かされていたからね。着ていたドレスはダメになっちゃっただろうから、ガーターポーチの中の予備に着替えよっと。町中だし、ふわふわもこもこのファーケープと、ワンピースドレスがいいかな。今はちょっとガーリーに可愛くいきたい気分。殺伐とした命のやり取りが続いたからね……。
――「なるほど。よくわかったわ。ナオちゃん、ついに才能が分かったのね。おめでとう。それに称号まで」
「ありがとうございます♪」
ラティさんには全部お話ししたよ。戦えない、普通なら冒険者なんて諦めろって言われて当たり前の私に。才能不明で学校を規定年齢で追い出されて。第13番外縁区に来てからずっと親身になって、見習いの私に毎日いろんな仕事を斡旋してくれた、大恩人だもの。
それにしてもギルド長にはびっくりしたなぁ。見習いなんかに直接声をかけに来るなんて。
「そして、ルナリスさん、大変な境遇に言葉もありませんが……これからはナオちゃんと一緒に活動されるとの事。困ったことがあったら私に何でも、相談してくださいね。お二人のパーティーは引き続きナオちゃんの専属受付嬢、このラティが務めさせていただきますので」
「はい……よろしくお願いいたします。共に伴侶……として、ナオ……様を、お支えできればと」
「え? いや、私はそういうのじゃないからね!?」
2人が仲良さそうで幸せ~。でもやっぱりラティさんのお耳フニフニしたいな~。絶対気持ちいいのに。
まだいろいろお話ししているけれど、私はついつい、ラティさんに夢中で聞いてなかったよ。
あ、でもそうだ。
「ラティさん、パーティーは多分あと一人。追加になります」
「あら? 誰か知り合いがいたかしら」
「紗雪……私の大切な、ママが遺してくれた魔導人形の子がいて。今回、女神様にもらった魔導核で」
「あ、なるほど。わかったわ」
「ちなみに、その……魔導核は元々深淵の古竜の魔石だったのだけれど」
そうなの。そこがすごく心配で。いくら襲われたって言っても、お仕事で雇ってもらった先の貴重なアイテムを破壊して強盗しちゃったような物じゃない? 返せ、どころか、深淵の古竜を弁償しろ、なんて言われないよね。どうもあそこで飼育? 保管? していたみたいだし。しかも叫んでいた言葉から、あそこの商品、実は預かり物だったみたいじゃない? 生贄にされていたルナリスを放っておいていたのは、かなり許せないけれど、それはそれ。これはこれだものね。
「大丈夫ですよ。それは正当なナオちゃんの報酬です。そもそも、女神様から賜ったお品を奪ったなんてなったら。冒険者ギルド、ううん、第13番外縁区が神罰で消されちゃいますよ」
女神様、優しいからそんなことはしないと思うけれど、うん。
「ありがとうございます! よかった~♪」
「報酬という意味ではそうそう、どうせナオちゃんはまた、振り込みのお金は受け取ってくれないっていうか。理解してくれないから、貴女が振るったっていう大剣。それね?」
そうそう、ずっと気になってたんだよね。あの時私が振るって、怖いおじさんを吹き飛ばした、片刃の反りがある綺麗な大剣。
あれが、会議室の隅に大事そうに布を敷かれて寝かせてあったの。
「前衛の上級冒険者8人がかりでやっと運べたんだけれど、それ、本当に持てる? 使える? もし使えるなら、その押収品はナオちゃんの報酬の一部にしていいって。宝飾品としての価値はすさまじそうだけれど、まともに武器として使える人は特級冒険者くらいで。でも、そのランクとしてみたら付与効果が少し微妙でね」
「試してみますね」
台座から引っこ抜いて振るった時はそこまでと思っていなかったけれど、今落ち着いてみると、身長156㎝の私よりもはるかに大きい。一般的な大剣の最大サイズをちょっと超えて2mくらいあるかな?
「よいしょ、っと、と」
重くて持てない……どころか、あまりに軽すぎて、逆に籠めすぎた力がすっぽ抜けてバランスを崩しちゃった。
やっぱり短剣位に軽く感じる。
ぶんぶん、ぶんぶん。つい楽しくなって、振り回しちゃう。すごい勢いで風が逆巻いてるわ!
「ナオちゃん、ちょっと止まって、止まって、怖いから!」
「あ、ごめんなさい。ついはしゃいじゃって」
私みたいな小柄な美少女が、身の丈を超える巨大武器をぶんぶん振るって、戦うの。
どう!? かっこかわいくない!?
「鑑定では、宝飾品としての絶大な価値以外には、自己修復と重量増大が幾重にも付与されただけの、途方もない硬度と重量の大剣。なんですが……」
「大剣に求められた勇者様、とか!? 物語みたい」
「……。ナオちゃん、ちょっとそこの机、持ち上げてみてもらえる?」
うん? 会議室の真ん中に置かれた、大理石製の大きな机だね。
「あはは、持てるわけないよ~。ラティさんお茶目~」
でも、ラティさんたっての希望だからね、試しちゃうよ。よいっしょっと。
すっ。
「ナオ……様、おすごい」
「冗談でしょ」
思わず自分で呟いちゃった。大きな机が、冗談みたいに私の手で持ち上げられてるんだもん。
バキって割れたりしたら嫌だからすぐに戻したけれど。
「私、怪力の才能なんて持ってないはずだよ? 女神様にも、何も言われなかったし」
「たぶん、なのだけれど。深淵の古竜を討滅したでしょう? 位階の上昇はあると思っていたけれど、その時の成長がすごく偏ったのかも。ナオちゃん、魔法が使えないじゃない? 全部力に偏ったんじゃないかな……闇オークションの戦闘隊長の攻撃で致命傷を負っていたから、耐久面はそこまで突き抜けてないと思うの。回復力はルナリスちゃんとの関連だものね?」
「えー何その偏った成長。私も魔法使ってみたかったな」
位階っていうのはそうね、人間とかモンスターあらゆるものの成長を示す指標。いろんな経験で少しづつ位階を上げて、いつか超人や英雄、大賢者みたいになってゆくのが誰しもの憧れ。位階が上がると少しづつ、人の枠を超えた力を手に入れるって言われているわ。才能とはまた違う、成長ね。
そして私は、伝説的な竜なんて倒しちゃったから、位階がすごく上がったっていう事ね。
ルナリスももしかしたら?
「んー嬉しいような、なんだろう。でも、こんなに力持ちになれたなら、少しは私も戦えるかもしれないね♪」
「その、超重量、超硬度の大剣を軽々振り回されるって、普通に脅威よ? ダンジョンは狭い場所もあるから、予備武装は持った方が良いけれど。その大剣は神器並みに壊れにくいし、自動修復もあるから、今のナオちゃんに最適ね」
「うん♪ 宝石もキラキラ、漆黒に金の装飾は私のイメージにもあってるし。気に入っちゃった」
嬉しいな~。ずっと戦う力もないって、少しづつ成長してはいても、このまま人生お終いなのかななんて、昏くなって泣いた日もあったのが嘘みたい。ルナリスとの出会いに、女神様のお慈悲に、感謝しないとね。
「じゃあ、後はこれ、ルナリスちゃんの冒険者カードね。パーティーは等級をそろえておいたわ。ただ、個人ランクは、さすがに引き上げるのは無理だったから今はまだ、見習いね。カードの外見はパーティー等級の物だけれど、それとは別に、内部に記録されているわ」
「やった、これでルナリスも私と同じ見習い冒険者だね♪」
ラティさん、頭が痛いみたい。こめかみを片手で抑えちゃったわ。大丈夫かな。あのエルフギルド長、まさか彼女に無茶な残業なんてさせてないよね!?
漆黒に銀の装飾が入った綺麗なカードが渡される。見習い用なのに、やっぱり豪華だよね~。冒険者ギルドってやっぱりお金持ちなのかな。あ、そうだ。ピンク色の可愛いの、お願いしないといけないんだった。
でもルナリスは、漆黒のカードをまるで宝物みたいに両手で包み込んで、うっとりと頬ずりしてる。
「ナオ……様と、同じ色。同じ、証……」
うんうん、嬉しいよね! 私もお揃いで最高の気分だよ! だからまあ、色はこのまんまでもいっか。ルナリスの銀の髪にはこの色の方が似合ってるし♪
「ルナリスさん。ナオちゃんは、ギルドカードの貯蓄、支払い機能を何度説明しても理解してくれないので。これからはパーティー報酬金の管理、お願いしてもいいですか?」
「……?」
「あ、この子もダメだわ……魔導人形の子が来たら任せられるかしら……」
いろいろ説明を受けているルナリスの様子を眺める私。う~ん、可愛いわんこお姉さんに、銀の姫。なんて絵になるのかしら。魔導映写機、お家に置いてきちゃったからな~。今度もう1台買って、ガーターポーチに入れておこっと。




