第3話 ”女神様のご神託?”
「ねぇ、紗雪~。今日もまたお仕事無くなっちゃった」
ツーサイドアップの灰銀色の髪を、優しくブラシで梳いてあげる私。知る人ぞ知る、特別なお人形。古代魔導人形の身体を造る専門作家だったママ。私のためって、すっごく希少な素材をたくさん使って作ってくれた、世界で一人だけのお人形。
「明日、冒険者ギルドで新しいお仕事を探すけれど。荷物持ちで入れてくれるパーティーも探さないとな~」
魔導核を埋めていないから紗雪はまだ動いたり、お喋りしたりはできないけれど、いつかお金がたまって中央区に行けたら……オークションで、古代魔導人形の心臓であり頭脳、魔導核を落札するのが夢なんだ。遺跡とか、ダンジョンからたま~に、発見されるだけだから、すごく希少性が高いの……。
「……。私、こんなことを繰り返していて、才能、わかるのかなぁ。もう、一般人ができるお仕事で、やったことが無いお仕事の方が少ないよ」
それこそ、後は夜のお仕事とか……さすがにうら若き18歳。極度の男性嫌い、ううん、はっきりと自覚してるの。私は女の子が好き。女の子しか愛せない。だから、そういうお仕事は……まだちょっと早いの。
えり好みしている場合じゃない、才能を知るためには頑張らなきゃ、何でもしなきゃって分かってるけれど。
「紗雪……。ちょっとだけ、ちょっとだけ、見なかった事にしてね」
紗雪の翡翠色の瞳から逃げるみたいに、小さな人形少女の身体を胸に抱きしめて。
ほろり、ほろり。
私の目から、冷たい雫が零れ落ちる。
そんな寂しい夜だったの。
【ナオちゃん、ナオちゃ~ん……】
くすん、ちょっと目が赤くなっちゃってるかな。お水で冷やしてこなくちゃ。
温めたタオルの方が良いかな。
【あら~。聞こえないかしら。ナオちゃんなら、私の神託を受けられるはずなのだけれど。創造神様、創造神様~ナオちゃんと、うまく繋がらないみたいなの。助けて~】
……。
え、なに? 気のせいかと思ったけれど、なに、このほんわかふわふわな、女の人の声。
このお家は私と紗雪……人間は私一人しか住んでないよ? 相部屋すれば6人は暮らせるお家だけれど。
【あ、そうか、神官ちゃんじゃないから、自己紹介してあげないとだめなのね? ありがとう♪】
え、と。全部聞こえていますけれど大丈夫?
【こほん。私は”復讐と運命の女神”。公平な運命の均衡を取り戻す、義憤や報復を是とする女神様よ。え、お話しの仕方も教えてあげないとだめなの? そうなのね。神官ちゃんは創造神様が、教え導いてあげたから大丈夫なのね。ナオちゃん、頭の中で女神様へ~って思いながら、お話ししてくれれば大丈夫よ~】
「え、うそうそ、本当に、女神様のお声?」
【そうですよ~。”復讐の百合姫”の称号を貴女に授けましょう】
「まさか私に称号が!? って、復讐って何~、私復讐なんてしないよ!?」
いきなり頭の中に聞こえてきていた、ふわっふわの可愛い声。
この声の感じは……。
女神様、絶対に甘くていい匂いがする! 断言しちゃう。
【たくさん辛い目にあいましたね、若くして1,000回も追放を経験するなんて、なんて可哀そうな子】
「女神様? あのー、皆いい人だったし、追放……っていうかそれ、単に私の能力とか適性の不足とか、タイミングが悪かったとかで。追放とは全然、違うよね? まあ、よくわからないのも、確かにあったけれど」
それに1,000回って……まあ、それくらいはあった? かなぁ。
1日に何回も~とか。それに学校時代もあるから、まあ?
って、それより。泣いた跡、女神さまに視えちゃってるのかな。急に恥ずかしくなって、紗雪をお胸の上に抱き上げて、頭の後ろにお顔をちょっと隠させてもらうの。
紗雪、小さいから全然隠れてないけれど。気分よ、気分。
【大丈夫ですよ、可愛くて、綺麗なお顔ですよ】
「きゃぁぁぁ、見えてる、見えてた~」
神様のお声が聴けるのは、特別な神官様か、神様からの特別なお話がある時だけ。神託、っていうものね。
その一つでよく知られているのが、そう。神様からいただく称号の授与!
誰もが最低一つはもって生まれる才能と違って、称号は本当に特別。何か偉業を成した方とか、特別な使命を神様から賜った使徒様に授けられる、証のようなもの。
それに称号はすごいの! 称号に合わせた魔法、スキル、特別な力が使えるようになるのよ♪
でも、才能すらわからない私なんかに称号って、絶対に何かの間違いよね。残念だけれど……。
「女神様。追放の事といい、その、冗談で確かに昨日『いっそ、追放って』なんて言ってしまいましたが。私は追放なんてされていません。きっと……お間違い、なのかなと。あ、いえ、決して神様がお間違いをという事ではなくてですね」
【大丈夫ですよ。不敬だなんて思いませんし、そういう正直で素直なところ、私大好きですから。そして、これは貴女。ナオちゃんへの神託で間違いありません】
そう……なんだ。もう、私に未来なんてやっぱりないのかなって、今さっき思いつめちゃってたところだから。嬉しい、けど。
【では、改めまして。”復讐の百合姫”の称号をあなたに贈ります。必ずや貴女の道行きの、助けとなるでしょう。落ち込んでいたナオちゃんに、特別。質問のお時間を上げちゃいます】
優しい女神様のお言葉に、また涙腺がうるって。
「あ、あの。そうしましたら、称号に伴う力は、どのような」
才能が分からなくて、ずっと苦労しているからね。これは知っておかないと、またいつまでも試行錯誤で……そのまま、人生が終わっちゃうのは嫌。
【それはね。あら、創造神様。あら、あらあら。そうね~。ナオちゃん、ごめんなさい。それは自ら切り開かなければならないの。禁則事項っていうものね♪ けれどね。特別。これはとても特別な、私のたった一人の使徒に授ける称号よ】
ぅ…そっかぁ。創造神様、ちょっとだけ恨みます。
「では、百合姫、というのは?」
【女の子同士、親密で、仲が良くって、お付き合いとかしちゃったらもう、最高じゃない? 私、尊い百合をすっごく応援しちゃう派なの。ナオちゃんは素質十分よ、だから先に称号に入れてあげたの♪】
「ま、まあ、そうなるなら女の子同士でって決めていますけれど……なる、ほど?」
……って、女神様の性癖だった!? しかも『復讐』関係ないじゃないですかぁ!
うん、そうしたら後はやっぱり……また、教えてもらえないかもしれないけれど。
「女神様。私、ずっと、自分の才能が分からなくて。辛くて……」
【自分の才能が何か、知りたいのね?】
すごく優しいお声。落ち着く、穏やかなお声。
「はい」
ドキドキと胸が高鳴る。18年。
こうかなって、感覚的にわかる人も多い才能。それが分からずに、苦悩して、できる事は何でも挑戦してきたこれまでの人生。知るすべは存在しても、簡単に手が出るような世界じゃなくて。
【そうね……。もうすぐ、貴女は運命の岐路に差し掛かる。貴女の才能は、そして私が贈った称号は、道を切り拓く助けとなるでしょう。まずはその時を、乗り越えて見せてちょうだい? その時にこそ、貴女の才能を、教えてあげる。もう、その時は本当にすぐそこよ。だからそれまでは、今まで通り、がんばって。ナオちゃん、私は貴女をいつも見守り、応援しているわ】
「あ……」
最後にすごく、すごく温かな感触に、頭をゆっくりと撫でてもらったような気がして。
そんなの、子供の頃のママ以来、ずっとなくて。
紗雪をギュッと抱きしめて。
私の頬を、温かな涙が、伝ったの。




