↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『復讐の百合姫』 ~追放され続けた私に宿ったのは、悲運を織り直し、大切な少女たちと運命を結ぶ力でした~  作者: malka


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/26

第24話 ”涙の裏の決意”

【ナオちゃん、お疲れ様~。一生懸命頑張って、いっぱい考えて、偉かったわよ】


『あれ? 女神様?』


【はい、運命と復讐の女神ちゃんですよ。私の可愛い”復讐の百合姫”ちゃん】


 あの、私どうなって……って、言葉が。声が出てない!? それに、何も見えない。見えないよ!?


『真っ白、真っ白の世界だよ。ルナリス? 紗雪? どこ、どこ!?』


【慌てなくていいのよ。ここは神界。復活するまでの間、魂だけのナオちゃんとお喋りタイムです♪】


『あ、そうなのですね。ごめんなさい、私ったら取り乱しちゃって』


 真っ白っけな以外、何も見えない視界に感じていた不安が、女神様の温かな気配に包まれて溶けていく。


【それでね、ナオちゃん。貴女、とんでもないものを取り込んじゃったわね? 古代魔導王国、まだほんの一部だけれど……その末期の嘆きも、願いも、全部まるっと継承しちゃった。もう、食いしん坊さんなんだから♡】


 女神様の軽い口調とは裏腹に、自分の内側に意識を向けると……分かる。重い。とてつもなく、重い。

 ただでさえ膨大だった私の『運命の縦糸』が、桁違いに増えている。もしこれを全て解き放って、どこかの街の運命とでも混ぜ合わせちゃったら……失われた王国の一部をそのまま現実に上書きして、蘇らせることだってできてしまいそう。

 今更ながらに、なんて恐ろしい才能って怖くなる……”自由な線を引く才能”を賜ったアストラ様も、こんな気持ちを抱えられていたのかな。


 でも、それだけじゃない。キラキラした黄金の糸の中に、どす黒い、ボロボロの糸がいっぱい混ざり込んでいる。


【気づいた? それが”滅びの運命”よ。貴女は強大な力を手に入れたけれど、同時にいつ崩壊してもおかしくない”破滅”も背負っちゃったの】


『破滅……』


【そう。油断するとね、その黒い糸が暴れて貴女自身も、貴女の大切な人達も、不幸な結末へ引きずり込んじゃうかもしれない。……怖くなっちゃった?】


『ううん。大丈夫です』


 私は、心の中で首を横に振る。

 だって、それがアメリアスちゃんや、あの王国の民を救うための代償だったんだもの。


『私が織り直します。黒い糸も、ボロボロの糸も。全部私が預かって、誰かの幸せのためにきっと、うまく織り合わせて……最高のハッピーエンドに仕立て直してみせます! そのための”才能”ですから!』


【……ふふ。やっぱり、貴女は最高の使徒ね】


 頭を撫でられたような、温かい感覚。


【でも、貴女ひとりの運命だけじゃ、その黒い糸は支えきれないわ。だからね、ナオちゃん。これからは貴女を愛してくれる人たちと、もっともっと深~く、運命を絡ませなさい。一人で背負おうとしたら、今度こそ本当に壊れちゃうからね? まあ、その滅びの運命をどうしても許せない何か、誰かに、押し付けちゃうこともできるけどね♪ むしろ、その方が良いかもね? うふふふふ】


 ちょっとだけ背筋が冷たくなるお声を出す”運命と復讐”の女神様。ふんわりほやほや可愛い系女神様の、ちょっと怖い一面を覗いちゃった気がするよ!?


『はい! ……あ、でも』


【ん? どうしたの?】


『私、みんなに”もう死なない”って約束してたのに……また、勝手にこんなことしちゃって』


【あ~……そうねぇ。そこは、覚悟しておきなさい?】


 女神様の声が、ニヤリと楽しげなものに戻る。


【さあ、お帰りの時間よ。私の可愛い”復讐の百合姫”。貴女の本当の試練は、ここから始まるの。――たっっっぷりと、怒られてきなさいね?】


 え? え……? 女神様、どういう事~~!?

 不穏な言葉を残して、温かな女神様の気配が遠ざかって行ってしまったの。



 女神様の声が、最後にふっと柔らかくなった気がした。まるで、出来の悪い子供を送り出すお母さんみたいに。

 ナオのいなくなった神域に小さな呟きがこぼれ落ちる。


【……本当に、手のかかる子。でも、だからこそ愛おしいわ。行ってらっしゃい、私の可愛い百合姫ちゃん】



 ◇  ◇  ◇



 暗い闇の空間。見覚えがある。

 深淵の古竜がいた空間。


「ん……」


 また、無事に生き返れた。ルナリスの”生命を宿す才能”のおかげ。本当に、この短い間で、何度助けられているんだろう。


「ルナリス? 紗雪?」


 声が、ちゃんと出た。

 服は……うん。式典からずっと着たままの、黒に金の装飾が入ったドレスもちゃんと再生されてる。片手には巨大な大剣。

 身体の感覚も……大丈夫。

 ただ、重いっていうか、頭がまだかなり痛い。あまりに膨大な運命を、急に受け入れたせいかな。


「二人とも、どこ!?」


 見渡すと、エメラルドグリーンのドレスと、純白のドレスに身を包んだ2人の姿。


「紗雪! ルナリス! よかった……私、私……!」


 ちゃんと無事だった!

 安堵と喜びで胸がいっぱいになって、二人の元へ駆け寄る。

 悪い王様は倒したよ、アメリアスちゃんも、きっと……!


「二人とも、助けてくれてありがとう!」


 駆け寄った私。

 けれど、二人は私を抱きしめてはくれなかった。

 ぴたり、と立ち止まる。


 紗雪が、エメラルドグリーンのドレスの裾を、小さな拳で強く握りしめていた。

 翡翠色の、いつも私を優しく見つめてくれる瞳が、いたずらな笑みを浮かべる唇が。今は、思い詰めたみたいに眉根が寄って、難しいお顔をして、唇を引き結んでる。


 ルナリスは、純白のドレスの胸元をかき抱くようにして、俯いていた。

 美しい銀の髪が顔を隠しているけれど、ぽたぽたと、大粒の涙が闇に零れ落ちているのが見えた。


「ふ、ふたりとも?」


 空気が、凍り付いたみたい。喜びでいっぱいだった私の心臓が、急に冷たい手で掴まれたみたいに、きゅって苦しくなる。


「ふ、二人とも……? どうしたの……? 私、ちゃんとできたよ? 悪い王様は消えて……冥府ダンジョンの中に囚われていた古代魔導王国の一部も多分、解放されて……終わったんだよ?」


「約束。約束、したのに……『理由があればまたやっちゃう』って、確かに言ってたけれど……アメリアスを捨て置けないのも分かる、わかるの。だから、だけど……えぅ……目の前でまた、ナオが、ナオがぁ……えぅぅ」


 引き結ばれていた唇がふるふる、わなわなと震えて、だんだんと嗚咽交じりになって。

 ついに泣きじゃくり始めてしまう紗雪。


「ち、違うの、紗雪! 待って、聞いて! あの時は、ああするしかなかったの! 王国の運命が、あの王様の魂が、アメリアスちゃんに絡みついてて……! 私が全部背負わないと、あの王は止められなかったから……!」


「わかってるよぅ……ぐす……ぐしゅ……えぅぅぅ」


 あわわ。ますます激しく泣き始めちゃって。どうしよう、泣き止んでくれないよう。




「ナオ……様……」


 今まで静かに泣いていたルナリスが、震える声で、顔を上げた。

 涙で濡れた蒼銀色の瞳が、私を映す。



「わたくし達は……貴女様に『死んでほしくない』と……願いました。わたくしのこの才能は、貴女様を蘇らせることができます……でも……でも!」


 ルナリスの細い指が、私の肩に食い込んだ。

 いつも楚々として大人しやかな彼女が、なりふり構わず私に詰め寄ってくる。


「わたくし達の心は、貴女様が死ぬたびに、一緒に死んでいくのです……! 貴女様の枷にはなりたくない。貴女様の行く道を支えたい……けれど」


「ルナリス……」


 静かに大粒の涙をこぼし続ける銀の姫。私の肩をつかむ指先が、血の気を失い蒼白になり、細かく震えてる。


 2人の心の痛みがずきずきと、鈍痛となって私にも伝わってくる。胸が苦しくなってくる。


「『わたくし達が無事ならそれで良い』……ありがたく、嬉しいお言葉。けれど、わたくし……には、そうは思えない……のです。ナオ……様が私達を、あるいは誰かを、護るため……ご自身を犠牲にするのなら。わたくし達は、貴女様が復活する……たびに、この絶望を味わい続けることに、なります……。それは……永劫の責め苦を受けた、わたくしが味わった……絶望と、何も変わりません……。いえ、最愛の貴女様の苦しみ……それは、もっと……あまりにも、残酷です……」


 護っているつもりで、責め苦を、苦しみを、強要してしまっていた。

 どうしよう、どうすればいいんだろう。

 犠牲になるなら、私だけ。その気持ちはやっぱり変わらなくって、でも……。


 泣き濡れる2人の心が、本気で、私の事を想ってくれる2人の気持ちが痛いほど伝わってきて。


「ナオ……ねぇ、ナオ。止められないのも分かるの。でも、でもね? 私達にもせめて背負わせて。貴女だけが苦しまないで。『全部を救おうとは』しないで?」


「アメリアスちゃん……の、事は……可愛く、妹のようで、わかります。ナオ……様のお気持ちも、ないがしろに……したくない」


「だから、ナオ……せめて、一緒に背負わせてよぉ」


 またわんわんと泣き出してしまって、言葉にならなくなっちゃった紗雪を。そっと、なにか決意を秘めた眼差しで、涙をひたすら零し続けるルナリスを。大剣を放り捨てて、両腕で抱きしめる。

 泣き震える身体を、ぎゅっと包み込んで、温もりを交わし合う。


 答えはまだ出ないけれど。


 うん、私はもっともっと、強くなろう。

 まだ始まったばかりなのだもの、こんな自爆を繰り返すような必要がない程に。

 自分の才能を。ううん、才能じゃない、努力。今までだって才能が分からなくても必死で、なんでも全力で取り組んできた。


 同じことよね。

 できるまで頑張る。戦いに身を投じるなら、そのための技術を、経験を、きちんと蓄えて行こう。

 そうして、2人と安心して、幸せに暮らしていけるようになるんだ。


「あぅ……?」


 すすり泣く声が少しずつ収まり。腕の中に感じる震えが収まってきた頃。

 私達の背後で、小さな声がした。


 三人の視線が、一斉にそちらへ向かう。

 そこには、ボロボロになったゴシックロリータのドレスの残骸をまとった小さな少女が一人。闇の中から生まれたかのように、ふっと現われ。とことこと傍にやってきた。


 アメリアスちゃん。


 黄金の瞳を輝かせ、彼女の運命の糸を視る。

 もぐりこんでいた王の禍々しい気配……尺取虫のような黒い運命の糸は、跡形もなく消え去っている。

 同時に、彼女の薄紫色をした円環状の糸を包み込んでいた無茶苦茶な色の、おどろおどろしい糸玉も消えてる。そっと寄り添うように、私達のとは別の金色の運命の糸が、1本だけ絡み合ってる。


 けれど。


「アメリアス……ちゃん?」


 私が恐る恐る声をかけると彼女は、まるで生まれたての小動物のように、ゆっくりと顔を上げた。

 あのアメジスト色の美しい瞳が、私達を映す。


 でも。


 その瞳には、何の感情も、記憶の光も宿っていなかった。

 ただ、純粋な無垢だけが、そこにあった。


「だぁれ……?」


 その瞳には、何の記憶も宿っていない。ただ、世界に放り出されたばかりの小動物のような、頼りなさ。

 けれど、彼女の小さな手は無意識のようにのばされ、私のドレスの裾をきゅっと握りしめていた。

 あの日、人込みの中で迷子にならないように、私にすがった時のように。



 戦いは終わった。

 私は、古代魔導王国そのほんの一部。

 けれど最も苦しみに悶えた最後の時代の文明と、人々の末期の運命の一部を引き受けた。


 そして、目の前には、何か覚悟を決めたような危うさを秘めた愛する2人と、記憶を失った一人の少女。



 まだ、私達のこれからは、始まったばかり。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。