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第20話 ”古代魔導王国の亡霊”

 ――翌日。

 たくさんの住民が集まる前で、いつもよりも華やかな正装を身に纏う、超絶美形エルフのギルドマスターが声高に宣言する。

「回収された魔石だけでもその総数、5万。焼失分を含めればその数はさらに膨大であったことは明らか。現状の冥府ダンジョン防壁と闘技場への迂回路でこの数を受け切る事は到底出来ず。その質量だけを考えても、どれだけの被害が街に出ていた事か。何時間にも及ぶ、たった3人での戦闘。まさに救世主と呼ぶにふさわしい。さらに、これまでのナオさんの

 数々の功績。これらを踏まえ、冒険者ギルドは彼女達に称号を授与することを決定しました」


 う、いけない。あまりに楽しみすぎて、ぼうっとしていたらルナリスと紗雪に手を引かれ。いつの間にか冒険者ギルドの前、中央広場の一角に設えられた壇上に上がってたわ。眼前には、歓声を上げてくれる、たくさんの町の人達。

 アメリアスちゃんも、最前列で「ナオ姫しゃまぁ、ルナ姫しゃまぁ、さゆ姫しゃまぁ」って、順番に呼んで声援を送ってくれてるわ。


  おめかしをして来てね。って言われていたので、私は冒険の時にいつも着ている黒に金の装飾が入ったドレス。ルナリスは生贄としてささげられている間着ていた白のドレス。紗雪は、エメラルドグリーンが日の光の下に鮮やかで美しい、カクテルドレスを着ているの。


 冒険者ギルド、ギルマスの前は第13番外縁区長さんとか、お貴族様、いろいろなお偉いさんの挨拶もあったみたいね。


「”銀の姫”ルナリス。“翡翠の人形姫”紗雪。“奇跡の黒姫”ナオ。また、数々の功績への報酬として、先の闇オークション押収品からの優先獲得権を付与するものとする」


 おぉ、ここで昨日のドレスの約束を確定させてくれたのね♪ それも、もしデザインが理想と違ったら別の物にもできると。ギルマス、やるわね……。ちょっとだけ見直してあげるわ! イケメン男はやっぱり嫌いだけれど。


 一際大きな歓声と拍手が響き渡る中。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン


 連なる大きな鐘の音。教会に据えられた鐘が、時ならぬ大きな音を連続して鳴り響かせる。

 これは。


「緊急事態発生。皆、落ち着いて避難に移りなさい! 慌てるな。幸いここは中央広場、避難は先と同様、教会、ギルド、各建物に分散させますよ」


 拡声の魔道具を持ったギルド長がいち早く住民達の鎮静化を図る。

 衛兵と冒険者たちは定められた手順に従って、それぞれの目的地へ。


「また、ダンジョンブレイク?」


 鐘の鳴り方で、事態を把握するのは中央大陸ではもはや常識。冥府ダンジョンがまた、モンスターを吐き出す。この鐘はその合図。


 まずは舞台の下にいたアメリアスちゃんを確保。こういう時、冒険者は町中の避難誘導や警護と、ダンジョンへの対応の緊急依頼が発行される。それは後で処理されるから、事前の受諾処理なんてなしに動いていい……んだけど。


「どうしよう、アメリアスちゃんを避難させてから動かないと」

「そうですね、教会に預けて、それからダンジョンの防衛に回りましょうか」

「うん」


 急ぎ方針を決め、薄紫の髪の少女を抱き上げようとすると、


「姫しゃま、いかないの? よんでるよ?」


 そう、不思議そうに私達を見上げる。いったい何のこと? と、疑問を返す間もなく。


「ばしょが、わからないんだね。あんないして、あげる!」


 制止する暇もあればこそ、体格からは想像もできない速さで、人込みの中を駆けだしてしまった。

 見失わないよう、必死で追いかける私達。


 やがて辿り着いたのは古びた酒場。


「ここって」


 見覚えのある鄙びた(ひなびた)佇まい。差し押さえられ、無人となった店内を、カウンターを横目に奥へ進めば、打ち壊された地下への入り口。忘れもしない、ルナリスが囚われた封印の扉も保管されていた、闇オークションの施設。

 確か宝物はほとんど持ち出し済みで、封印の扉だけは、容易に動かすわけにいかず、残されていたはず。


 豪華な劇場のような空間を超え、奥へ、奥へ。アメリアスちゃんが待っていたのは、まさに。封印の扉の前でした。


「姫しゃまぁ、こっち~」


 てくてくと、開かれたままの、封印の魔導具の大扉に設けられた勝手口を、くぐってしまうアメリアス。

 放っておくわけにもいかず扉をくぐると、そこはつい数日前に囚われた、深淵の古竜の闇深い領域ではなかった。



 遠くまだ聞こえていた鐘の音も、断ち切られたみたいに消えた。

 ひんやりとした地下の保管庫の空気は、肌にまとわりつく、何百年も止まっていたような澱んだ、じめじめとした湿り気を帯びた空気。

 目の前に広がるのはまるで、遠い昔の夢の断片を、無理やり現世に引きずり出したかのような光景。遥か古代の栄華を纏ったまま、虚空に浮かぶ都市の残骸だったの。


 きっと深淵の古竜がいなくなって、直接的にこの封印の魔導具と冥府ダンジョンがつながってしまったんだと思う。

 冥府ダンジョンの一部と思われる、無機質な石造りの壁がしばらく続いた後。あるべきダンジョン内部の代わりに、広大な虚無の空間だけが広がる。外の見えない巨大な闇の球体。

 そんな球体の内部。視界いっぱいに広がるのは、白と金で構成された、巨大な都市……お城の一部があるから、きっと、どこかの王都の一部。

 それはまるで、ガラス玉の中に取り残された、世界そのものから切り取られた運命の断片。


「姫しゃま、お帰りなしゃい! 魔導王国へ♪」


 ――魔導王国。歴史上その名を冠した王国はただ1つしか存在しない。現世の歴史に言うところの、古代魔導王国。


 誘われるように、スキップをしながら虚空へと踏み出すアメリアスの後を追い、虚空に浮かぶ古代魔導王国だという都市の一部、廃墟へと踏み出す私達。


 足元は、白く滑らかな大理石を敷き詰めた道。でも、その果ては球形をした闇の虚空に切り取られている。まるで、大きなキャンバスに描かれた絵画の端のよう。風化し、崩れ。それでいてなお品よく、豪奢な装飾の施された建物。遺跡から発掘されるような、用途も分からない魔導具。たぶん、貴族街かな?


 瓦礫と、白い大理石の廃墟。そんな色褪せた世界に、私達のドレスだけが鮮やかすぎて、目が痛くなりそう。華やかなパーティ会場から、墓標に迷い込んじゃったみたいな……そんな、ちぐはぐな悪夢を見ている気分。


 正面には、神殿のような壮麗な王城の回廊の一部が、壁の一面を失って、内部の優美な姿をさらし。傾きながらも優雅に続いている。飾られていたであろう絵画、芸術品の多くは儚くも崩れ去り。複雑で美しい彫刻飾りは風化し、欠け落ちてしまっている。

 ここにあるのは、王城の一部と、その周囲を彩る一部の貴族街の断片だけ。


 でも、何より残酷なのは……。


 古代魔導王国の欠片を包み込む虚無の泡の中を寒い風が吹き抜ける。

 体の芯から凍てつかせるような、身を切られるような冷たい風。

 生者の温もりに呼び寄せられるように、亡霊と化した者達が音もなく湧き出す。


 これでもいっぱい、いっぱいお勉強したからね! 才能判定学校で読んだ書物で見覚えがある制服はわかるよ。


 折れた杖を空しく構えて、こちらを見つめるスケルトン・メイジ。黒と赤の制服、あれは、古代魔導王国の魔導師団兵。

 骨だけになったワイバーンの背に鞍を乗せ、先端が砲口になった巨大なランスを構える、あれは飛空砲撃兵。

 細長い魔導銃を肩に担った、スケルトンの集団。あれは魔導射撃兵。

 さらに見るも可哀そうな、体のあちこちが欠けたお人形達……古代魔導人形。


 かつての古代魔導王国は、強力で広範囲を殲滅できるけれど、発動に時間がかかる大規模儀式魔法と。先制制圧力に優れた魔導銃による遠距離戦術。それと、魔法で制御下に置いた飛行型モンスターを駆っての制空権確保。兵数の確保に魔導人形部隊を編成。その上で、様々な個性的な魔導の才に支えられた特級戦力で他国を圧倒していたって記録されてる。


「姫しゃま~はやくはやく、こっちだよ」


 アメリアスの小さな体が、薄紫の髪を靡かせ、露出した王城の回廊を進む。

 居並ぶ古代魔導王国の亡霊たちはただ、整列し、私達を見送るばかり。


 取り残された回廊の先、失われた大きな扉の跡がぽっかりと淋しく開く先は、きっと華やかなダンスホールだったのであろう空間。床に落ちたシャンデリアは無数のガラス片をまき散らし。かつてはその威容を讃える紋章旗であったであろう、厚手の布は色あせ、朽ち果て。そんな廃墟と化したかつての栄華の跡で、身体を揺らす中身の見当たらない豪華なドレス達。貴婦人達の亡霊、あるいは、意思を宿した無機物たち。


「王しゃま! 姫しゃま、見つけたよ♪ 連れてきてあげたよ♪」


 朽ちたダンスホールの2階。両側から緩やかな弧を描く階段の先、張り出したバルコニーの奥にはまるで玉座のような、白金色の立派な肘掛け椅子が据えられていたの。そこだけはかつての美しい姿のまま。


「よくぞ参った。その漆黒の髪、すべてを射貫くが如き黄金の瞳。間違いあるまい、『古の魔』の血を色濃く遺す王族の末裔よ」


 偉そうに上から声をかけてきた、玉座らしき椅子に腰かける男。くすんだ茶色がかった黒髪に、薄茶色の瞳。


「誰よ、あなた」


 おもいっきり睨みつける私の視線なんてどこ吹く風。男なら恐れおののくこの私の睨みに動じないだなんて……やるわね!?


「我は滅びの王。ただ、滅びの最後の時を眺めた無能の王」

「あら、自分で無能だなんて。殊勝なことね?」


「血は薄れ、魔導王国の衰退はもはや避けられぬ運命であった。王国の栄華は、運命を束ねる王族あってこそのもの。すべての民、すべての文化、そのさだめを紡ぐ運命の縦糸を継承せし王族の娘よ。汝が宿す尽きる事なき、運命の縦糸。それこそは魔導王国の財、かつての栄華をこの世に再びしろしめす鍵。否、全てを統べる魔導王国そのものなり」


「な、なんか難しいこと言い始めた。紗雪助けて~!」


 あまりに情けない私の物言いに、王様? もちょっと唖然としているわ! ふふ、私の勝ちね♪


「魔導人形の娘よ……許す、語れ」


「ナオ~……えと、私に与えられた知識を加味した上での推測交じりだけれど。古代魔導王国の王族は王国の民と文化、その全ての運命を背負う。例えば亡くなった国民が持っていた運命の縦糸を、自分の運命の縦糸として継承する事ができる。そういう特質を持っていた。そんな特質を継承したナオは、古代魔導王国、もしかしたらその全てに相当する膨大な運命の縦糸を持っていて。どれだけその才能を使って、運命の縦糸を他の人にあげたり、より合わせても、無事でいられた」


「つまり……無限の魔力を持った……魔法使い、のようなもの……かと。魔力の代わり……が、ナオ……様の才能の特性……である、運命の縦糸である、と」


 ルナリスまで補足してくれたわ。嬉しい。


 ん~意識してみると……確かに? 視界の端に、キラキラと光る粒子が見える……気がする?

 ルナリス、紗雪、そして私。3人から立ち上る……3色の糸、かな? 崩れた建物や、旗だった織物からも伸びる、無数の細い線の……千切れた欠片?

 まだ、全然ぼんやりしていて、焦点が合わない、お化けを見ようとしてるみたいな。はっきり見ようとすると、す―って消えて行っちゃうみたいな。


「然り(しかり)。継承するに足る才覚を持つ者が失われ、運命の縦糸は綻び、絡まり、魔導王国の命運そのものが混濁したのだ。その兆候は我が治世の幾代も前から続いており。我が代ではもはや為す術もなかった。何処かで生き永らえているはずであった、真なる王族の血を引く追放されし娘。禁忌に手を染め、無限の生を得たその娘を探し求めるも、時が尽きる方が早かったゆえ」


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