第19話 ”楽しいお出かけ♪ ~嵐の前の休日~”
「おいちちょう!」
生クリームとジャムたっぷりのスフレホットケーキ。それだけだとさすがにバランスが悪いかな? と思って用意したベーコンエッグ。
並ぶそれらを前に。
ぴょこん。飛び出すお耳。
「んん!?」
え、お耳? なんか、薄紫色の和毛に包まれた、大きな三角お耳が頭の上に飛び出したんだけど!?
狐? 狐耳よね。ダボってなってしまったワンピースを、ところどころリボンで可愛く絞ってあげたお洋服。
その後ろが、ぶわっさ、ぶわっさ、って。大きく膨らんで動いている!?
「え、狐獣人ちゃんだったの? あれ、でも、長いお耳もあるし。えぇぇ?」
「ナオ姫しゃまぁ、たべていい? たべていいぃ?」
無表情から一転、今にもよだれを垂らしそうなお顔で、ナイフとフォークを両手に握りしめるこの子の圧に、思わずうなずく私。
がっついちゃうかなと思ったら、想像以上の丁寧な所作で綺麗に切り分け、食べ始める。
「とりあえず私達も食べようか……」
「ですね」
楚々と優雅に食べるルナリス。丁寧に、味わうように食べる紗雪。マナーは守りつつ、割と適当な私。
三者三様の食事風景に加わった、女の子。
自己紹介はそれぞれしたのだけれど、この子は名前も何も覚えていなくて。言う事は「姫しゃまに、あいに、きたの~」
って、そればっかり。素性も何もわからなかったの。
どこから来たのかもわからない、親御さんも不明。という事で仕方がないので、明日ギルドで探し人? 迷子? の確認をする事にして今日は皆でお出かけ。この子のお洋服も買ってあげないといけないしね。
なんだけど。
2人がまだ、その、虜になっていてね。私もさっきまで愛でていたから人の事は言えないけれど。
「もふもふ~……かわいい……です」
ルナリスが、すっかりもふもふの虜になってる。大きな狐尻尾を、むにゅって抱っこしてすりすり。
紗雪もお耳をさわさわ撫でで気持ちよさそう。
「「あ……」」
上がる残念そうな声。ふと見れば、お耳も尻尾も消えてる?
「ねえ? ……やっぱりお名前がないと不便ね」
「ナオ姫しゃまが、つけてくだしゃい」
「ん、んん? じゃあ、仮ね? 本当のお名前を思い出したら、そちらで呼ぶね」
「あい!」
また無表情に戻ってしまっているけれど、元気にお返事してくれる。
「アメリアス。なんてどう? 瞳や髪の、アメジストみたいな綺麗な薄紫の色からとってみたの」
「アメリアス。いいとおもいましゅ!」
「いいわね」 「素敵……です」
「じゃあ、アメリアス。お耳と尻尾はどうしたの?」
「? おいしい、におい。かぐためです?」
つまり、ご飯のおいしそうな匂いをよくかぐため? に、生やしたっていう事?
紗雪とルナリスも分からないっていうお顔してる。まあ、良いか。
「そっか~。じゃあ、お買い物行こうね。可愛いお洋服、探さないと」
出かける準備をしていると、視線を感じる。
鏡越しに振り返ると、アメリアスがじーっと、紗雪が私の髪をそっと優しく梳かしてくれる様子を見ていた。
「アメリアス? どうしたの?」
「ひめしゃま……あめりあすも、やってあげましゅ!」
「え?」
とてて、と駆け寄ってくると、紗雪をじーっ、うるうると見上げ、
「どうぞ?」
ちょっと根負けした紗雪が、ブラシを渡してあげたの。
紗雪の見様見真似で、私の黒髪にブラシを通そうとして……。
ガッ。
「痛っ!?」
「あ! ご、ごめんなしゃい!」
力加減が分からなかったみたいで、思いっきり引っ張られちゃった。
涙目になってオロオロするアメリアス。
「大丈夫だよ、ありがとうね。綺麗にしてくれようとしたんだよね?」
「うぅ……姫しゃま、きれい、するの……」
しょぼんとする姿が可愛くて、頭を撫でると。
「……えへへ~」
途端に破顔して、私の腰にぎゅーっと抱き着いてきた。甘えん坊さんだなぁ。
――結局、私達用のお洋服も含めて、いっぱい買っちゃった。
試着して、見せ合いっこしたり、楽しかったな~。
アメリアスには、ゴシックロリータドレス。薄紫の髪と、白いお肌が映えるように、暗色系のレースとフリルがたっぷり使われたドレスを何種類も買ってあげたの。
3人もせっかくだから、あわせて同系統のドレスにしたよ♪ 4人姉妹みたいでかなり可愛いの。
道行く人の目もくぎ付けね!
街は相変わらずの賑わいで、行きかう人も多い。はぐれないように気を付けないと、と思っていると。
くい、くい。
ドレスの裾が引っ張られる。
見下ろすと、アメリアスが不安そうな顔で、私のスカートの端っこを小さな手で握りしめていた。
「どうしたの? 人がいっぱいで怖い?」
「……ううん。姫しゃま、どっか行っちゃ、やぁ」
「私はどこにも行かないよ?」
「……ぜったい?」
「うん、絶対」
そう言って手を差し出すと、ぱあっと表情を明るくして、私の指を両手でぎゅっと包み込むように握ってきた。
その手は温かくて、でも少し震えていて。
親御さんがどこにいるのかもわからない、自分の事もどこまでわかっているのか……。たった一人の心細い女の子なんだって、改めて守ってあげたい気持ちが強くなる。
さすがにいろいろ歩き回って疲れちゃったから、休憩がてら、屋台で買ったクレープを皆で食べることに。
カスタードクリームた~っぷりに、甘酸っぱい苺。さらにさらに、下の方には苺のシャーベット。
甘さの中にほんのり酸味が隠れていて、アクセントになってるの。
ルナリスと紗雪とも、まだあんまりこういう事できてなかったからね。ちょうどいい機会♪
「おいしい……です。こんなに素敵な……食べ物、が」
そうだよね。ずっと長い間あの闇の中に囚われていたのだもの。お食事だって……。
「これからい~っぱい、い~っぱい。もう無理! って言っても、美味しい物を一緒にたくさん食べるからね」
「はい……!」
なんてルナリスといちゃいちゃしていたら、反対から紗雪が、じー。
つながった心の中の声は、不安と期待が入り交じった様子で。
「勿論紗雪もずっとずっと一緒だからね。せっかくやっとこうして、いろんなことをお外で愉しめるようになったんだもん♪」
「うん。もっといろんなこと、一緒に、ね」
なんて、人目も気にせずいちゃいちゃしちゃう私達。
そんな甘~い空気を作り出している私達。なんだけど、アメリアスは、また狐耳と尻尾をぽんっと出して、ハフハフと幸せそうにクレープを2個。両手に持って順番こに頬張ってる。
「おいしい?」
「おいちい! あまい、ふわふわ!」
クリームを鼻の頭につけてニコニコ。本当に美味しそうに食べるなぁ、と見守っていたら。
最後の一口、苺のシャーベットの中に、おっきい苺がまるまる入った最後のところを残して、手が止まっちゃった。
どうしたのかな? もうお腹いっぱい?
すると、アメリアスは意を決したように、その最後の一口を私の方へ差し出して。
「……姫しゃま、あーん」
「えっ? アメリアス、これ大好きでしょ?」
お耳が未練がましくピコピコ動いているし、視線はクレープに釘付け。それでも、彼女は精一杯背伸びして、私の口元にクレープの最後の一口を押し付けてくる。
「姫しゃまに、あげる。……おいちいの、いっしょ」
美味しいものは、大好きな人と一緒に。そんな純粋な好意。
「……ありがとう。じゃあ、はんぶんこ、しよっか」
パクっと一口だけもらうと、アメリアスはさっきまでよりもさらに嬉しそうに、満面の笑みを咲かせて。
「はんぶんこ! いっちょ!」
ぱくり。
ん~~~。可愛い!
ルナリスと紗雪との、甘々いちゃいちゃも、もちろん大好きだけれど。
この子の純粋無垢な可愛さ、慕ってくれているのが全身から伝わってくる、愛くるしさ!
たまらないわぁ。
――「ナオ。私達、冒険者として活動を中心にするなら、防具は考えないとまずいかも」
「確かに、いつまでも普通のドレスって言うわけにはいかないよね」
「わたくし……の、ドレスも……贄としての物です。ので、防御効果……や、付随効果は……あまり」
防具か~。やっぱりドレッシーなものにしたいし。
夕日も沈み始めて、そろそろ帰らないとね、なんて。帰り道での事。
紗雪はやっぱり、ちゃんと私達の先の事を考えてくれて、偉いな~。嬉しいな~。
「私ね、実はあこがれがあって。”布を一瞬で乾かす才能” 水葉様のドレスがいいな、って」
「どんな方なの?」
「水葉様はね、すごいのよ!? 使えないって言われた才能を、見事に開花させてね。どんなに精緻な染色を施しても、生地が傷まないから、繊細で美しい衣装、完璧なグラデーションに複雑な文様。なんでも生み出せる、世界でたった一人のお洋服屋さん♪ さらにさらに、魔導具技師とも協力なされて、従来技法では難しかった、繊維への魔術刻印の埋め込みも、実現しちゃったの! それで、元は王侯貴族に大人気のハイブランドファッションから、一線級の冒険者までもが夢見る、憧れのドレスアーマーまで手掛けられるようになったのよ!!」
あ、いっけない。ルナリスが目を白黒させている。ごめんね、好きの話になると止まらなくて。
「ナオは相変わらずなんだから。私に話しかけてくれる時も、ドレスとか、好きな英雄のお話しとかになるといつもそうだったわね。押収された宝物の中に、もしかしたらないか、明日聞いてみましょうか?」
「え、えへへぇ……。うん。もしあったら、皆で着てみたいな~。中央区に工房を構えていらっしゃるらしいんだけれど、招待制で、普通は入る事もできないの。でも、防具加工されたドレスは、特級冒険者でもそうそう手が出ない位、貴重で。お金では買えない逸品なのよ。招待されたお客さん以外だと、毎年4回開催されるコレクション発表会で、オークションを勝ち抜かないといけないの」
「ん~。もしあれば、押収された宝物の受け取り権利もまだまだあるし。いざとなれば多少金銭で補充も……うん、何とかなるかもしれないかな? ただ、深淵の古竜の魔石を私に使ってもらっちゃったし、他素材は何もなかったか。そうね……そもそもあるか、サイズが合うかの大問題があるけれど、期待しすぎずに明日聞いてみましょう」
「うん。そうだよね、私達、小さいもんね」
一番背の高い私でも、156㎝。アメリアスは別として、紗雪が140㎝。普通、無いよね……。
――「ありますよ」
イケメンエルフギルドマスターの執務室。案内されて開口一番、つい、
「水葉様のアーマードレス、ありませんか!?」
って聞いて、帰ってきた答えがこれ。思わず、ぽかーんって、見つめちゃった。
「貴女にそんな風に、見つめてもらえたのは初めてな気がしますね。少々お待ちを」
何やら、引き出しを開けてごそごそ。
「男性用が3点。女性用……ドレスが6点、男装? 2点。計11点ですね。一体全体どんな背後があればこれだけ集めて来られるのか……確実にどこかの貴族か王族がかかわっているでしょうね」
なんだか頭が痛そうに顔をしかめるギルドマスター。
「と、失礼。水葉ブランドはサイズの自動調整機能が織り込まれていますから、ある程度のサイズ差は吸収されます。ただ、価値もずぬけて高いので、3着となりますと……さすがに。そうですね……闇シンジケートと、深淵の古竜の件。それと、一昨日のダンジョンブレイクの件。それらの残報酬を全て合わせて、であれば……私の裁量で、何とかしましょう。いかがです? もちろん実物を見てから決めていただけばよいですが」
「う、うそ……うそうそうそ、いいの!? いいの!? 夢みたい♪ 夢みたい♪」
思わず舞い上がって、ぴょんぴょんって、飛び跳ねちゃう。
微笑ましそうに見ているギルマスも目に入らない。
「では後ほど見ていただくとして。あーこれは別の意味で会話ができなさそうですね……」
「申し訳ありません。私が代わりにお話ししますので」
「紗雪さん。本当に……感謝します。まずはその女の子は?」
やった~、やった~。絶対に手に入らないと思ってた憧れの水葉様ブランドドレスアーマー。嬉しいよぅ。
どんなデザインのがあるんだろう。3人に似合うのあるといいなぁ。




