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第17話 ”反省と、優雅なるお掃除タイム”

 よく知ってる天井だ。

 なんていう事は無くて、10秒程度でその場に復活した私。

 なんだか、自分の中で、死がどんどん気楽なものになっている気がして怖い……。

 もちろん、そこに至るまでの苦痛は、生涯二度と味わいたくない物なんだけど。


「ナオ、死ぬの前提、禁止」

「ナオ……様、もう、こんな無茶は……ダメ、です。なさる……なら、わたくし、後を……追って都度、自害……いたします」

「そうね、私もそうするわ」


 心配そうに私の復活を見守ってくれていた二人が、表情が抜け落ちた顔で、そんな怖いことを言い出しちゃった。


「いやいや、それはあり得ないよ!?


「……どれだけ、どれだけ見ているこっちも苦しかったと思ってるのよ!! あんな、あんな無残な、ひどい目に。悲鳴が心の中で、永遠響いてきて。ふざけないで、ふざけないでよぅ」


 えぐっえぐっって、大泣きし始めちゃった紗雪。ぼふんって、私の胸の中に飛び込んできて、泣きじゃくるのが全然止まらない。


「う、ごめん。心の声、紗雪にも響いちゃってたんだね。もうあんなこと……できるだけしたくないから。ね?」

「ナオ、絶対やる、全然凝りてない! 死ぬ。私も死ぬ」

「ちょっと、紗雪!?」


 紗雪がおかしくなったぁ。どどど、どうしよう。


「元凶となって……しまった、わたくし……が、申すのは、はばかられ……ますが、心に蓄積される……傷は。死の感覚は、永劫……消えません。どうか。どうかお命を……軽々しく投げ出す、このような……ことは二度と」


 胸の中で大泣きして愚図っている紗雪に遠慮してか、そっと背中に寄り添ってくれているルナリスが、真剣な声音で、私を諭す。


 まだ、戦闘の興奮が冷めやらないから、そこまで深刻に受け止められていなかったけれど。確かに死ぬ痛み、死の喪失感は今も心の、魂の奥に残っているのを実感できる。

 身体は元通り。傷一つない。


 それなのに、さっき斬り飛ばされた左腕の断面が、チリチリと熱い気がする。喉を突き破られた冷たい感触、直後こみ上げる熱の塊、ひっくり返りそうに痙攣する体の中、唾を飲み込むたびに蘇る気がする感覚。

 あ……そっか。身体は治っても、魂は痛いままなんだ。ルナリスもこんな感覚をずっと、ずっとかかえてきたのかな。


 そっとそっと、二人に伝わらないように、ちっちゃくちっちゃく、心の奥底で私は誓うの。

 なら、やっぱり。

 わたしが、がんばらなきゃ。

 わたしは、がんばる事しか。できない子、だから。

 できる事を、なんでも……全部、やって。



「うん。そうだね。2人ともごめんね。つい夢中になっちゃって。二度としないとはでも、ごめん、やっぱり約束できない。私は、私だから。理由があれば、またやっちゃうと思う。特に2人の命が、尊厳が、関わるようなことがあれば、それこそ絶対にやる。でも。軽々しく、こんなことはしない。それは約束する」


「ぅぅ、ナオのばかぁ」

「……」


 納得はできなくても、理解は、してくれたかな。


「ルナリスのおかげで、何も成せなかった私が、何かを成せる私になれたの。本当に感謝しかないよ? 頑張れば、報われる。その可能性がある。それがどれだけ私にとっての救いで、幸せか……」

「それは、いけない……事に思いますが……どこまでも、わたくしは……紗雪さんも……お支えします」


 紗雪はまだ泣き止まず、ただドレスの胸元をぎゅーって握りしめて離さなかった。

 灰銀色の、サラサラ気持ちのいい髪をゆっくり、ゆっくり撫でてあげるのでした。




 ――「落ち着いた?」


 こくり。

 紗雪が小さくうなづく。まだ、私の腕に抱き着いているけれど、泣き止んではくれたかな?

 ルナリスも、背中から反対の腕に回って、ぎゅって抱き着いてる。

 両手に華だね♪


「あのレイス、最後変だった」

「ナオが、運命を織り交ぜていたのは認識できましたけれど」

「なんか、私のこと、『姫』って。ルナリスの事かと思ったんだけれど、見えていなかったはずのタイミングなのよ」

「わたくし……レイスの、知り合い……は、おりませんが」


 きょとんと、蒼銀色の瞳で見上げる銀の姫。うん、やっぱり可愛い。

 あれはやっぱりどう見ても、私に言っていたとは思うけど。う~ん。


「レイスっていうか、まあ、そうだね。この杖と割れた魔石はとりあえず回収するとして」


 長い大通路を振り返る私。うすぼんやりと光る壁に照らされた通路には、そこら中に、魔石や鎧に武器の破片が転がっている。きらきらと光って綺麗……なのだけれど。


「復讐の焔で燃え尽きたと思ってたけれど、魔石はほとんど残ってるね」

「ですね。元々骨は大した金額になりませんし、鎧や武器はやむを得ないでしょうから、収穫としてはかなり嬉しいですね。拾う労力を考えなければ、ですが」

「大変……です」


 うん。しかも私達、全員ロングドレスだし。腰が痛くなりそ~。


「魔法のカバンに、掃除セット入っていませんでした?」

「えっと……あ、あったよ。キャンプ跡を掃除したりする用にって、箒買っておいたんだ」

「多少傷はつくでしょうけれど、大物だけ手で拾って、後はこれでかき集めて、カバンに詰め込みましょう」

「賛成……です」


 と、言うわけで、深紅の騎士、デスナイトの武具の破片とか、魔石以外を。上に続く階段方向に向かって、ドレス姿で箒で掃き集めながら進む。何ともシュールな3人組が誕生するのでした。しかも全員超美少女。

 9割がた以上殲滅しちゃったから、地上への報告はもう焦らなくても大丈夫だろうからね。

 下の階層から何か来ないかは、気を付けて見ていたよ!


 こういう細かい収入も、大事大事♪ 見習いだからね。


「いえ……お金が大事なのは否定しませんけれど、ナオは、十分お金持ちですよ?」


 うゆ~? そんなわけないじゃない! まあ、確かに、この前もらったこの装備類を売っちゃったら、すごい金額になりそうだけれどね。


 傍から見れば、舞踏会の帰りに優雅にダンスを踊っているように見えるかもしれないね。でも、手元にあるのは箒……わびしい。転がしているのは、アンデッドの残骸と魔石……なんか、いやぁ。


「私、今、世界一優雅な清掃係さんだね!」

「ふふ。ナオ……様、そちらに深紅の騎士の、腕……が、落ちています」

「あ、ありがとうルナリス。って、うぇぇぇ、これあのレイピア持ちのじゃない!? うげげ~ポイしちゃおっかな……」



 半分くらい、そうして戻ったかな。向かい側、上の階から降りてきた人がたくさん。

 先頭にいたのは、


「ナオさん!? ご無事でしたか」


 うん、第13番外縁区、冒険者ギルドのマスターね。相変わらず、爽やかかっこいいエルフ男。


「って、こんなところでも睨まれるんですね、とほほ」


 だって~この人奥さん6人もいるんだよ!? それも全員種族の違う超美人さん。うらやま……こほん。けしからん!

 特に金毛の狐獣人のお姉さんとか、それはもう、もっふもふで。


「あー。どうしますかね、さすがにここにラティは連れて来られないのですが」

「うちのナオがごめんなさい。私が代わりに」

「あぁ、紗雪さん。貴女が稼働してくださって本当に良かった。ええ、本当に」

「上の状況は?」


「外へモンスターが雪崩出てきましたが、数も質も大したことはなく。冥府ダンジョン周囲の防壁までで殲滅を完了。前回の数体が出てきた時とは違い。統制の取れた軍勢の兆候と思いきや、ダンジョンブレイクにしては、あまりに規模が小さすぎるため、複数部隊を内部偵察へ投入。私も部隊を率いてやってきたわけです」


「ずいぶん大胆なことをするのね。貴方に万が一があっては取り返しがつかないでしょう?」

「こう見えて、魔法戦闘はそれなりのものですので」

「まあ、良いわ。説明するわね……」



 ――「ナオ……様」


 ふにゅん。程よい大きさの柔らかな、お胸の感触が前から。


「ルナリスぅ。しゅき」


 迷わず即座に抱きしめ返す私。あ、いけない。イケメンエルフに嫉妬して、妄想を広げてしまっていたわ。今の私には、ルナリスと紗雪がいるのに。


「戻ってこられ……ました」

「ナオ、報告はしておいたから。後の戦利品は、ギルドで回収、清算しておいてくれるそうよ。それと、レイスが持っていた杖は鑑定したいから、一度預けてほしいって」


「紗雪~ごめんね。ありがとう!」

「とりあえず今日は戻って、ゆっくり休みましょう。明後日、ギルドで作戦会議だから、そこに出席ね」

「は~い」

 さすがに見習いって言っても、今日は活躍したからね。ちゃんと出席しなくちゃ。



「奇跡の……が」 「舞踏会に出席する姫君たちかな?」 「この魔石の量。たった3人で大群を殲滅したってのか……えぐすぎるだろ」  「無傷? 無傷なのか?」 「あの子が報われて、俺ぁ嬉しいぜ」 「あ~ん、姫ちゃん達可愛い」 「称号、考え直さないとやね?」 「ギルドが正式に授与するだろ」 「これ、町に全部あふれ出してたら、さすがにやばかったよな」 「強さは中層相当までって言っても数がな」 「冥府ダンから、闘技場の誘導路、拡張と補強の工事するらしいぜ」


 なんか、冒険者さん達とか、兵隊さん達が通路の両側に並んで見送ってくれているのだけれど。恥ずかしいよぅ……。


「紗雪、なんだか恥ずかしい」

「堂々として居ればいいんですよ? それだけのことを成し遂げたんですから」

「そう……です。ナオ……様は、おすごい、です」

「う~。じゃ、じゃあ、手。手、繋いで行こう」


 両手を差し出した私に、顔を見合わせ。

 ぎゅっ。腕を絡めてくれる2人。


 えへへ。幸せだな~。


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