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第16話 ”元凶?”

 復讐を成す私の焔。

 それは、危害を加えた相手を呑み込み、焼き尽くす復讐の焔。


 だから。


 軍勢相手には、一時しのぎにしかならないはずだった。 

 それなのに今。私を遠巻きに眺め、あるいは、横をすり抜けようとしたアンデッド達をも、復讐の業火で燃やし尽くさんとしている。


 散々私を痛めつけてくれた、サーベル持ちの深紅の騎士は既に漆黒と黄金の焔にまかれて消えた。

 ルナリスと、紗雪の下へと向かう敵は、真っ先に消し飛ばされている。

 盾持ちも、折れた刀の担い手も、焼滅した。


 ついに迎える、待ち望んだ失血死。

 暗転。



 しばしの間、復讐の焔も消えていたのかもしれない。

 けれど、私の復活と共に、再び、私色の焔が沸き上がる。


 バラバラに動くはずのモンスターの、異常な統制の取れた行動。


「もしかして……統率者こそが、私の復讐の相手?」


 それなら、理解できなくもない。相手を一つの集団として見ている。一つの復讐の相手として認識してくれている。

 だから、深紅の騎士達を倒しても、復讐が終わっていない。


「あは、さすが女神様。大好きです」


 それなら! いける!!

 万全に戻った身体に、あらん限りの力を込めて。大剣をお供に。

 駆け出す。

 通路の奥へ、統率者がいるであろう、奥へ。


 漆黒と黄金の焔が、大剣にまとわりつく。

 振るうたび、2色の焔の波が通路を満たす。


 陰から現れて不意打ちを仕掛ける、卑劣なシャドウストーカーは正確に胸の魔石を紗雪の長距離狙撃で撃ち砕かれる。

 大剣と、焔をかいくぐり。私を絡めとろうと這い進んでくる大量のネクロ・アイヴィー(死霊のツタ)は、片っ端からルナリスの歌に乗せて舞い踊る十三の剣が切り払う。


 止まらない。止められない。

 私の前に敵はあり。私の後ろにはただ、燃え尽き消える、塵舞うのみ。

 安全地帯となった後方から、愛する2人の援護を受け、止める者などあるものかと、ひたすら殲滅を繰り返しながら突き進む。


 永遠に続くかのような長い、長い、大きなまっすぐの通路。

 もしや、先ごろの構造変化はこの進軍のため、こんな長大で巨大な通路を作りだすため? なんて、邪推が脳裏をよぎる程。

 何百、何千の敵を葬り。


 重さをほとんど感じないほど軽く感じる膂力を得ていなければ、途中で力尽きていたであろう。

 あるいは途上、防ぎきれず、この身を貫かれ、幾たびもの死と復活を経て、身体のリセットがかかっていなければ。もはや動く力も残っていなかったかもしれない。

 そうであっても、さすがに全力での進撃の末、全身と心に疲労を覚える頃。


 見えた!

 様々な得物を構えた深紅の騎士8体に護られた、とんでもなく豪華な錫杖を構える死霊の王、リッチ。


「デスナイト、ドモヨ、トドメ、ヨ!」


 聞き取りづらい声で、指令を下したらしいリッチに従い、8つの深紅の騎士達、デスナイトがこちらへと迫る。


 後方の巨大弓を構えた深紅のデスナイトが、魔石を轟音とともに撃ち抜かれ、霧散する。

 左右から迫る盾持ち4体が、全周から銀の剣に貫かれ、霧散する。

 槍を突き込む3体が、その槍の総身に匹敵するほど長大な、焔纏う大剣の振りに、槍ごと霧散する。


「これで、終わりー!!」


 痛かった、辛かった、泣きそうだった。でも、ここまで耐えた。

 ルナリスと紗雪が、後ろにいてくれた、支えてくれた。

 幾度もの死の痛みを、熨斗(のし)つけて叩き返す。


  漆黒と黄金の焔が螺旋を描き、大剣を覆う。

 リッチが発する莫大な魔力が結界となって間を阻む。


 でも、そんなのは関係ない。蝶の羽のように脆く儚く、切り裂かれる結界。

 慌てた反撃の魔法の槍が射出される。

 甚大な数の、雷、氷、岩、様々な魔法の槍。

 でも、防がない、そんなことに手数を取らせない。


「チジョウ、ヲ、ジュウリン、スラ、デキズ、シテハ。ワレラガ、オウニ、カオムケ、デキヌ!」


 ただ愚直に大剣を振り下ろし、引き換えに全身を魔法で穿たれ。綺麗な肌を、漆黒のドレスを、見る影もなくぼろぼろにされ。

 それでも届かせた。

 復讐の焔纏う剛撃。


 リッチをその魔石ごと、真っ二つに割り裂いた。


 わずかな静寂。


 ゴトン……巨大な深紅の宝珠をいただきに据えた、豪華な錫杖がリッチの手から零れ落ちる。

 闇を湛えたリッチの眼窩が、ゆらり、揺らめく。


 刹那、灯る青白い輝き。それはまるで、リッチの生前の魂、理性の一欠けらのようで。


「ヒメ……サマ……?」


「え?」


 思わず後ろを振り向く。愛しの銀の姫、ルナリスはまだ大分後ろ。歌声は聞こえるが、私にさえぎられリッチからは見えないはず。


 青白い炎を宿した眼窩にみつめられ、なぜか胸の奥が、無性にざわつく。

 なぜか、いてもたってもいられなくなって。


 ――気が付けば。


「『紡ぐ』、運命の交わり。運命の糸、織り交ぜて」


 『知る』事で、意識して行使できるようになった、私の“運命を織る才能”。

 その運命を絡み合わせる才能を、リッチと軽く触れ合わせてしまっていた。


 実際には触れていないはずの指先に感じる、”ざらり”とした、引っ掛かりのある感触。

 何百年も風雨に晒された古布が乾いて、ほつけて。飛び出した切れそうな糸。

 でも、私の「金の糸」が触れると、それは解けて、するすると一緒に合わさって新しい糸に紡がれ直していって。

 温かい絹のように変わっていく。 懐かしい。

 日向の匂い? ぽかぽかあったかいお日様に、はためく布。


「アァ、リッパ、ニ。ナラレ、テ。ジィ、ハ、ウレシュウ……」


 リッチの身体が、蒼白い炎に包まれて、端から消えていく。

 2つに分かたれた身体が、ゆらゆらと、消えていく。


 消えゆく両手が、私へと差し伸べられる。

 重い轟音と共に、取り落とした大剣が床に突き立ち。

 代わりに私の手は、実体亡きリッチの両手と、刹那触れ合った。


 消滅。


 手の中には、真っ二つに割れた、リッチの魔石。

 禍々しい深紅だったはずのそれは、今、蒼白い輝きを宿し、清浄な気配を漂わせている。


「なんだっていうのよ……」


 少なくとも私にリッチの知り合いなんていないし、生まれてこの方、”じぃ”なんて自分の事を呼ぶ身内もいない。

 たまらなく懐かしくなるみたいな、この胸をきゅーって締め付ける感じは、なに……。


 でも、そんな、不思議で暖かい感覚すらも遠く消えていく。

 全身を貫き、焼き焦がし、氷結させた魔法の威力と。

 “運命を織る才能”をわずかとはいえ行使した後遺症の虚脱感で。

 もう何度目かも数えられない、再びの意識の暗転。


 私は、また、死んだ。


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