第15話 ”死と再生のロンド”
「あはははは!」
漆黒のストレートの髪がふわりふわり舞い広がる。漆黒のドレスの裾も、ふわりふわり舞い広がる。
くるくると回転しながら、思いっきり振り回す、身の丈を超える大剣。
大剣を飾る金の装飾が、私の金の瞳が、黄金の軌跡を描き出す。
「せんめっつだ~せっんめっつだ~♪」
大きな通路の真ん中で、華麗なステップを踏み続ける私。
触れるを幸いと、破壊の渦を巻き起こす。
飛び散る金属鎧の破片、粉砕される強化されたアンデッドの骨格。
昔習った剣術の、刃筋を立てるっていう基礎も半分忘れて、超重量と破壊力に任せた、破滅を齎す(もたらす)竜巻となる。
「ひゃぅ!?」
信じられないほどの大戦果。群れる敵をなぎ倒し、消し飛ばす私だけれど、所詮は見習い。初心者が付け焼刃の力で暴れまわっているだけ。
回転の流れで向けられた背中に飛びつき、美少女の柔肉をえぐり取るボーンハウンド。こいつらには飲み込む胃袋もないから、ぼたぼたと、抉られた私の身体の破片がまき散らされる。
遠間からは冷静な統制の取れた動きで、スケルトンの騎士隊が弩を撃ち込んでくる。貫かれる脚。私のほっそりとした美脚になんてことを。
ふらつき、回転が止まったところを、鉱石の硬さを武器に体当たりをしてくるストーンガーディアン。重量と激痛をもたらす衝突に、地面に押し倒され、のしかかられる。
「いやぁぁぁ」
腕が、肩が、次々寄ってたかってくるモンスターに粉砕される。
痛い、苦しい、哀しい、全部捨てて逃げ出したい。
「で……も、だめ! 足止め、には……なってる、もん!」
もう感覚なんてなくなった、でも辛うじてつながっている腕を振るう。圧倒的な膂力で、超重量の大剣を鈍器みたいに振り回す。鉱石でできたストーンガーディアンの人型の身体が、嘘みたいに弾け飛ぶ。金属と岩石の粒子が空気に舞い散らされる。
もう一撃。腕の振り戻しで……腕が無かった。
深紅に染め上げられた、一際立派な鎧。中身は見えない。手に持ったサーベルですっぱすっぱ、美少女の活き造りにされちゃった。
意識が途絶える。
「えーーい!」
手首の返しだけで、超重量の大剣が破壊をまき散らす。衝撃波で周囲一帯の敵まで消し飛ぶ。
深紅の鎧の敵は? だめ、もう後ろに退いてた。
わずか10秒程度での、その場復活。しかも武器を手に下げた、直立姿勢。
確かに残る途轍もない痛みと、命の喪失感にくじけかける心を叱咤して、再び暴れ始める私。
もう、何度目だろう……。
がむしゃらに暴れ、アンデッドたちをあの世に返し、代わりに自分の身体をそぎ落とされ、死に至る。
また復活し、暴れ、殺される。
ひたすらの繰り返し。
「あ、れ?」
周りに敵がいなくなった。通路の奥に、大軍が引いてる。遠巻きに私と対峙するアンデッドの大群。
正面に立った4体の深紅の鎧姿。
ランスを腰だめに構える奴、盾剣の騎士風の奴、刀を居合に構える奴、さっき私を解体したサーベル持ち。
明らかに、上位の実力を持った個体。きっと下層最下部のボス級。
下っ端で取り囲んでも損耗が増えるだけって悟ったのかな。強い個をぶつけに来た。
ランス持ちが突貫してくる。すごい勢い、迫力。でもこれなら合わせられる!
ゴッッ!
鈍く重い衝撃波が、接触点から発せられる。復活と共に修復されたドレスの裾が、ピリピリと千切れる。
一瞬の拮抗。
バガンッ!
が、崩れる。深紅のランスが、粉みじんにくだけ散る。一歩の踏み込みが明暗を分ける。
踏み出した私にあわせ、伸びた大剣のリーチが、深紅の鎧本体をとらえる。
浅い。でも、十分。
切先が触れただけの大剣が与えた衝撃は甚大。
相当の硬度を持っているであろう、深紅の鎧に無数のひびが走る。
柄だけとなったランスを取り落とし、それでもなお、私の息の根を止めようと腰に吊るした予備だろう剣を手に取ろうとして……さらさらと、深紅の粉末となって消えていく。
私の大剣の破壊の衝撃が、全身に及んでいた。
この衝突の間に、既に他の3体には回り込まれてた。獣を囲むように、左右と後ろ。すでに倒したランス持ちと合わせれば、四方を囲まれていた私。
居合の一閃に首を刎ね飛ばされ、盾剣に視界を遮られ、心臓を一突き。サーベルに下腹部を貫かれる。
「女の子にはもっと優しく……」
特にサーベル持ち、お前さっきから、狙いがなんか嫌。
痛いよう、苦しいよぅ。
ルナリスはこんなどころじゃない苦痛と絶望を、永遠に繰り返されてたんだ。
わずか10秒、痛みと喪失の記憶は消えるわけもなく、身体を苛み続けるけれど、動く、動ける。
大剣をとにかく振りかぶれ!
「あ……」
重さなんてほとんど感じない、巨大な大剣を振りかぶる、その動きの途中で腕が……なくなった。
動きの質が違いすぎる。どれだけ破壊力と力があっても、技量で圧倒的に上回られすぎてる。
的確に動きの先を読まれ、どんどん何もできずに切り刻まれるまでの時間が短くなっていく。
陰から見守るルナリスと紗雪。2人の焦燥が、心の中に響いてくる。
そうか、紗雪も、契約を交わしているから。心は通じ合ってるんだね、仲間外れになってなくて、よかった。
暗転。復活。
もう、大剣を振り上げるまでもなく、百舌鳥の早贄のように。復活するその瞬間には先に剣に、刀に、サーベルに。瞬時に刺し貫かれてる。
復活場所が同じだから……もう、からくりは見破ったとばかりに、先に攻撃を起こされて、何もさせてもらえずに殺される。
サーベルはまた下から身体を両断するみたいに斬りあげられてる。
だから、オマエ。
アンデッドの中には死者の魂の慣れの果てもいると言われる。
どうしよう、もう、何もさせてもらえない。
軍勢が迂回して進み始めた。
深紅の騎士3人に任せて、地上への進行を再開するんだ。
だめ、そんな事させない。
でも、うん、もう充分足止めはしたよね。先行した敵はそこまで多くない。対処した上で、防衛網を構築する時間はあるんじゃないかな。
サーベルに胸を刺し貫かれる。自慢の大きくて柔らかい、気持ちのいいお胸になんてことを。ルナリスと紗雪が、初めて一緒に眠った夜、気持ちいいって安心して眠ってくれたのよ?
こいつらを地上で好きにさせたら……私達のお家だって、壊されちゃうかも。
両眼を抉られ、腕が落とされた。なに、この状態で放置する気?
そんな事させるか! 足に全力を込めて適当に蹴りを放って暴れまわる。
何かに当たったかもしれない。自分の威力に耐え切れずに、両脚が自壊しちゃった。
失血と痛みのショックで、暗転。
アンネお婆ちゃん、せっかく旦那さんが無事に帰って、喜んで。
とんでもない衝撃。背中から叩き込まれた、多分盾。
地面につんのめって、げうぅ……。両肩と、腰を貫かれた。
痛い、痛いよぅ……。
もうやめて、やめたい。いやだよぉ……。
犬獣人な受付嬢ラティさん、責任感が強いから、前線との連絡とかで行ったり来たり。最前線まで、出てきちゃうかも。
そんなのだめ、ダメ。
「あぁぁぁ!!」
無茶苦茶に暴れる。自分の体の中を、貫かれた刃、私の力で滅茶苦茶にかき回す。鈍い音。
私の全身の骨も砕けたけれど、敵の刀も折れた。
へへ、やってやったよ。ざまぁみろ。
暗転。
「もう……おやめに……なって」 声にならない声が、心の中で聞こえてくる。それはルナリスの声。
「……」
唇をかみ切って、どろどろの怒りと後悔をため込んで、必死で暴発するのを抑えている紗雪の心が伝わってくる。
来ちゃだめだよ? えらいね、2人とも。ありがとう。
でも、このままじゃ何もできてない。軍勢がゆっくりと通り抜け始めちゃう。
何か……なにか……。
「げほっ」
喉を正確に刺し貫かれて、地面に顔面から叩きつけられた。
両膝に灼熱の痛み。両肩から噴き出す鮮血。
身じろぎすらできない。わずかに動く頭で視線をせわしなく左右に。
背中に、盾が押し当てられる。思いっきり地面に押し付けられる。
自害もできないように、完全に動きを止められた。
それは同時だった。
重く響くたった一撃の重低音。
凛と響く、歌声。一拍遅れての、涼やかな切断の音。
自由になる身体。その代償に、サーベル持ちがついに見つける。
私の愛おしい二人。隠れていてってあれだけ、今さっきも何とか我慢してくれたのに。
何としても、自死してでも、こいつらを止める!!
決意ばかり空回りする。腕も、脚も、無い。動けない。喉元のサーベルが引き抜かれた。
こぼれる血潮、でも、遅い。失血死する頃には彼女達が。
十三の空飛ぶ剣が、抗戦するも、周囲を取り囲む、圧倒的多数が骨と肉の壁となって、空舞う剣を押しとどめる。
たわむサーベル持ちの足。
“にげて”
声すら出ない。風穴を開けられた気道から空気が漏れるだけ。
あぁ、私、馬鹿だ。
深淵の古竜を、倒して、位階が上がって力を手にして。
いい気になってた。そもそも、古竜を倒せたのは、なんで?
ルナリスが十何年も、何千回も、何万回も、あるいはもっと、もっと、受けた苦しみ、絶望、死の蓄積。その代償としての復讐。私の力なんて何もない。
私はやっぱり、何もできない、ただの無力な女の子かもしれない。
でも。
でもでも、女神様が祝福してくださった。こんな私に、才能があるよって、女神様直々の加護で。
使徒だよって。
教えてくださった! 期待してくださった!
ルナリスと紗雪と一緒にいられる、未来を切り開く力をくださった。
自分だけで何かができる、そんなすごい人じゃ私はない。
でも。
諦めない、それだけは絶対負けない。
運命を自分で切り開く。運命を紡ぐ。
それまで努力を、できる事を諦めない!
私は何だ! 女神さまが祝福してくださった、私は! 私の才能を導く称号。運命を織り成す標は!?
“私は……復讐の百合姫……だ!!”
声にならない声で、魂の奥底から、叫ぶ!
漆黒の焔が、通路を満たし、全てを燃え滾る闇に墜とした。
黄金の焔が、さんさんと輝き、空間を席巻した。




