第13話 ”ドレスの乙女は重火器をぶっ放す”
歌が満ちる。
奏でられる音階に合わせて、十三の剣が空を舞う。
鎧を身に纏い、盾と剣を構える、骸骨騎士達。
担い手の見えない十三の剣が、鎧の隙間に変則的な動きで飛び込み、腰椎を、膝関節を、貫く。
体勢を崩し、その場に跪くアンデッドの騎士達。
黒に金の彩が美しい、威容の大剣が振り下ろされる。
再び立ち上がる暇など与えられず、あまりに軽やかに高速で振り抜かれた大剣に、骸骨騎士達が鎧ごと粉砕される。
大広間、奥に構える一際巨大な、鎧をまとう骸骨。
胸中央に燦然と深紅の輝きを灯す魔石の脈動。
次々と粉砕される手勢に業を煮やしたか、こぶしを振り上げ、鎧をまとった腕を横薙ぎに地面すれすれで振るう。
身の丈を超える大剣を、またも軽々と振るった金眼黒髪の乙女な私。
「危ないなぁ、もう……よいしょ~っと」
大剣の腹で、落ちてきた棚を支えるくらいの気軽さで受け止めたけど。ちょっと埃っぽいし、早く片付けちゃお。
軽やかさとは対照的に、途方もない重みに巨大骸骨の金属鎧をまとった腕が静止させられる。
大剣と衝突した金属製の小手はひしゃげ潰れ、中の腕の骨まで粉砕されている。
苛立ちの咆哮を上げようとでもしたか、胸をそらせ、顎を上に持ち上げる巨大骸骨。
ズドンッ
お腹の底に響く重低音が、大広間に轟く。
先端から噴き出した一瞬の眩い輝きが、薄暗いダンジョンを真昼のように照らす。
発生源は、最後尾でじっと静かに片膝立ちにしていた、灰銀色の髪の少女。
普通の人間なら肩が外れるような衝撃。
けれど、紗雪はドレスの裾も乱さずに、涼しい顔で正確に構えたまましっかりと相手を見据えてる。
ガラスの割れ砕けるような音が、大きく響く。
ガラガラと、崩れ落ちる大きな骨。巨大骸骨の骨が接合を解かれ、崩れ落ちる。
その胸元を見れば、つい先ほどまで禍々しい深紅の輝きを放っていた魔石、モンスターの心臓部が中央を何かに穿たれ、砕け散ってる。
人形少女、紗雪が肩にあてていた棒状の物を下す。
それは、古代魔導銃、中でも対物狙撃銃と称された、遺物。
「……ふぅ。お掃除完了です。いい感じでしたね」
「良い連携……でした」
「報酬、もらいすぎだと思うんだけどな~大丈夫かな。後でやっぱり怒られない?」
ここは冥府ダンジョン中層との境目にあるボス部屋。
紗雪が命を宿してから2日。
紗雪の冒険者登録をしに行ったら、犬獣人のラティさんと、何か難しいお話をしだして。
ラティさんも、ほっとしたような嬉しそうな様子だったから、止めなかったんだけれど。ルナリスといちゃいちゃ触りっこしている横で、報酬がとか、今後のパーティー報酬の管理が、とか。冒険者ギルドカードの支払い機能は紗雪が統括してとか。
なんかそんなお話してるな~って思ったら、今度は、この前の深淵の古竜討伐と、闇シンジケート摘発の成功報酬を現金支給するには冒険者ギルドの回転? 運転? 資金がどうとかで、だから現物をなんとかで~って。
で、あっという間に地下保管庫に連れていかれて、好きな物を選んでね。って、ラティさんが。
柔らかドレスに包まれたお胸を腕でぎゅってしながらウィンクするラティさん可愛かったな。
じっと見てたら、ルナリスがぎゅーって抱き着く腕に力を込めてね? お胸を押し付けてくるの。あぁんもう、愛おしいよう。
「この子達……かつての担い手……の、技量の記憶を……持っていて。巧み、です」
でまあ、結局押収品から好きなのを選んでいいって言われて。
ルナリスが選んだのは、彼女の髪の色とお揃いの、銀色をした十三振りの剣。精緻な彫刻が施された儀礼剣かな? って思える逸品で、なんでも、中央大陸誕生以前の、西方大陸の十三騎士っていう強い騎士団の人達が使っていた剣らしいよ。
「私の狙撃銃ちゃんも、ご機嫌です」
それでね、紗雪が選んだ武器。これも、中央大陸が誕生する前。この大陸が空に浮かんでいたんじゃないか? って言われる、その大陸すら浮かせる技術を持っていたとされる、古代魔導文明の遺産。魔導人形発祥の文明でもあるね。それで、相性もいいらしくて、魔核から魔力を供給して、その属性に合わせた弾丸を生成。すごい威力で射出するの。紗雪の深淵の古竜の魔石に、”運命と復讐の女神様”の加護まで付与された魔核から生まれる弾丸は、破壊力抜群。
連射ができなかったり課題はあるけれど、すごく頼もしい破壊力抜群の後衛アタッカーになったの。
「なんか、すごい武器をいっぱいもらっちゃって、大丈夫だったかなぁ」
「むしろもらい足りていないので、鑑定が進んだらまたもらいに行きますよ。ラティさんも、その方がありがたいって言ってたでしょう?」
「え、そうなの?」
なんか言われていたような、そうでもないような。
「そうなんです。これからは冒険者としてしっかり活動していくのでしょう? もらえる装備はきちんと受け取るべきですよ」
「は~い。紗雪、ありがとうね♪」
そうなの。自分達でパーティーを組めるようになったし、才能も分かって、一応戦える力もついたから、いよいよ私は荷物持ち卒業。ルナリスは狙われるって、女神様が仰っていたでしょう? だから、位階を上げてさらに強くなったり、経験を積むためにも、冒険者として活動する事にしたんだ。
「い、いえ。これくらい当然です。お財布も、私がきちんとナオのために、管理しますからね」
「うん♪ 皆のドレスいっぱい買えるかなぁ」
「昨日の……夜の、ドレスパーティ―……楽しかったです」
「えへへ~またしようね」
昨日はね、装備を受け取った帰りに、ちょっと高価なお洋服屋さんに寄って、皆に新しいドレスを買ったの。
紗雪がお財布を管理してくれるから、安心してお買い物できたよ。
私、意外とお金持ちさんだったらしいの。皆、ただの見習いの私に、報酬をくれていたみたいで、ありがたいよね~。
「紗雪さん……ナオ……様、またわかっていらっしゃらない……です」
「そこはもう、諦めましょう。私達がしっかりするわよ」
「はい……きちんとお支え、します」
む、なんか失礼なこと考えている気配が、伝わって来るぞ~。
「とりあえず、ここまで異常らしき事はありませんでしたね」
「うん。荷物持ちでここまでは来たことがあるけれど、いつもと変わらないと思ったよ」
実はね、私達を含む、第13番外縁区の冒険者はほとんどが今、この冥府ダンジョンの異常調査に駆り出されているの。
「闇シンジケート、本当に厄介なことをしてくれますよね」
「うん、あの人たちがそんな、すごい悪者さん達だったなんて今もよくわからないけれど。少なくともあの大剣の怖いおじさん達は、悪党だったね」
「わたくし……を、あの竜に贄として差し出した……のは、わたくしの父王……ですので。おそらく……彼らとは無関係です、が」
そうなの、ルナリスはね? 本当にお姫様だったんだよ。深淵の古竜が猛威を振るい、それを鎮めるために生贄として、”生命を宿す才能”っていう特別な才能を宿した娘、ルナリスを捧げたんだって。
それを交換条件に、深淵の古竜は封印の結晶に閉じこもることを承諾。あの闇が広がる空間っていうかお部屋は、その封印の結晶に作られた入り口だったそうなの。
で、問題がそこでね?
「奴らがどこから、どうやって、あの封印へとつながる大扉の魔導具を、オークション会場の倉庫に持ち込んだのかは不明。厳重な封印が施された『扉』が本体で、それを設置すると、その先に深淵の古竜を封じた結晶内部へと通じる空間が生じる。そういう魔導具」
私が見た、巨大な鎖で封じられた大きな扉がそうなんだって。実際に開けて入ったのはそこに作られた、勝手口みたいな部分だったけどね。
「今のところ分かっているのは、あの扉が作り出した空間が、この冥府ダンジョンへと空間的に通じてしまっていた事。その結果、深淵の古竜の力が、無理やり空間をこじ開けられたこの冥府ダンジョンへと流れ込み。ダンジョンに異常を発生させた事」
「この前、アンネお婆ちゃんの旦那さんが遭遇した構造変化も、その影響で周期外に起きたんだよね?」
「冒険者ギルドは少なくとも、そう判断していましたね」
あの古竜、本当碌なことしないな~。ううん、悪いのは封印につながる扉を、あんなところに設置した、闇シンジケートの人達か。さらに言えば、その後ろにはまた別の、もっと大きな存在がいるって疑っているみたい。いろいろと取り調べをしてるって、ラティさんが教えてくれたの。
「爆発……も」
「私に魔核を宿していただいた記念すべき日ですね。滅多にない、ダンジョンからのモンスター出現。いわゆるダンジョンブレイクの限定的な小規模の物であったとか」
「町の人にも怪我人が出たっていうし、怖いよね」
ダンジョンブレイクが起きたら、町中に警報の鐘が鳴り響くはずなんだけど。今回は規模が小さかったことと、冒険者に紛れて数体が出てきただけだから。鐘が鳴らなかったんだって。それだと問題があるって今偉い人達でいろいろと考えてるみたい。
あの日衛兵さんが追いかけていたドラゴニュートも、その中の一体みたいね。冥府ダンジョンにドラゴニュートなんているのかなぁ……あそこはアンデッドの巣窟っていう話だけれど。
「だからこそこうして、全面的な影響調査と、異常への対処が依頼として発行されたわけですからね」
「うん。まあ、見習いで、ダンジョン初心者の私達はゆっくり行こうね」
「はい。ところで予定通り、中層にはこのまま行きます?」
「行ってみようよ。ダンジョン泊も練習しないとだしね」
ダンジョンの中での宿泊。見張りとか大変だけれど、私達はちょっと特殊。紗雪がまず睡眠不要で、頼れること。
魔導人形はみんなそうで、上位冒険者のパーティーでは、テイムモンスター、魔導人形他にも、そういう特技のある子達が最低一人は在籍していることが多いんだって。
それから、私とルナリスも、”生命を宿す才能”のおかげで、仮初めの肉体? っていうのになっているから、不眠で1週間は全然平気なんだって~。すごいよね!
でも、永久に不眠っていうわけにはいかないから、今日はダンジョンで一晩お泊りしてから、戻ろうねって相談してあったの。
「ねぇねぇ、ダンジョン泊って言ったらやっぱり……夜のおやつと恋バナだよね!?」
「ナオ……様、ここは魔物の巣窟……ですが」
「ふふ~ん♪ お泊りセットもちゃんと用意してるから、だいじょぶだいじょぶ~。あ、紗雪、お茶の準備は任せてね! いい香りのをアンネお婆ちゃんに分けてもらったの、持ってきたんだ~。」




