第4話 地下から呼ぶ声
扉の向こうには、研究施設が広がっていた。
雄馬は入口から動かず、懐中電灯で内部を確認した。
金属製の通路。壁面に並ぶ透明なパネル。その奥に見える配管。天井には照明器具らしきものがあるが、電源が入っているのかどうか分からない。
床には工具箱が転がり、壁際には壊れた端末が置かれていた。
人間が使っていた施設らしい。
しかし、壁の奥に見える黒い構造物は、地上の技術では説明できなかった。
雄馬は入口にビーコンを設置し、慎重に内部へ踏み込んだ。
最初の部屋は、研究員の執務室だったらしい。
机の上に紙の書類が散乱していた。湿気で波打ち、端が黒く変色している。壁のモニターは破損し、床には椅子が倒れていた。
雄馬は書類を拾い上げた。
英語で書かれた研究記録の一部だった。
位相変動。空間異常。地下構造物。接触試験。
「空間異常を研究していたのか……」
記録の多くは破損していたが、いくつかの単語は読み取れた。
プロジェクト・ホエーラー。
深部構造物。
管理者認証。
そして、繰り返し記載された警告文。
《外部接続を許可するな》
雄馬はその文を端末に記録した。
次の部屋には、破損した機材が並んでいた。壁の一部は内側から押し広げられたように歪み、床には黒い焦げ跡が残っている。
何かの事故が起きたのだろう。
ただし、爆発や火災だけでは説明できない損傷もあった。
金属の壁が、まるで柔らかい布のように折れ曲がっている。
雄馬は手を伸ばしかけ、すぐに引っ込めた。
未知の異常現象が残っている可能性がある。
探索者だった頃なら、仲間と情報を共有し、装備を整えてから先へ進んだ。
今は違う。
頼れるのは、自分の判断だけだ。
雄馬は周囲を調べながら、施設の奥へ進んだ。
通路の突き当たりに、縦穴があった。
底は見えない。
穴の周囲には、古代文字に似た記号が並んでいた。その一部が、雄馬の接近に合わせて青白く光り始める。
頭の奥に、声が響いた。
『管理者候補……接近を確認』
雄馬は足を止めた。
「誰だ」
返答はない。
「聞こえているんだろう。誰が話している?」
『認証照合を継続します』
「質問に答えろ」
『照合完了まで、回答できません』
機械のような声だった。
だが、単なる録音ではない。雄馬の言葉に応じて、返事が返ってくる。
縦穴の底から、青白い光が強まった。
雄馬はセンサーを向けた。
反応は異常な数値を示している。ここから先は、通常の装備では危険だ。
それでも、引き返す気にはなれなかった。
六年間、彼は誰にも説明されず、誰にも助けられず、ただ生き延びてきた。
今、ようやく自分を呼ぶ何かが現れた。
それが敵であろうと、罠であろうと、確かめずにはいられない。
「呼んだのはそっちだ。なら、最後まで説明してもらうぞ」
雄馬は壁沿いの足場へ踏み出した。
一歩。
また一歩。
青白い光が、縦穴の底へ続く道を照らし始めた。
そして、暗闇の底から、再び声が響いた。
『管理者候補、神代雄馬。接近を確認』
今度は、彼の名前が告げられた。
雄馬は息を止めた。
自分の名前を、この施設が知っている。
偶然ではない。
六年前の任務と、この地下施設はつながっている。
そして、自分の冤罪にも。




