↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
23/30

第23話 兵器を使う代償

 移動装置の起動準備には、想定以上の時間がかかっていた。


 エグザリア・ヴォイドの最下層。巨大な円形空間の中央に、黒い環状装置が浮かんでいる。周囲には複数の制御柱が立ち並び、床面には古代文字に似た光の紋様が走っていた。


 地上と南極をつなぐ、空間転移装置。


 それが正常に稼働すれば、雄馬は南極を離れ、日本のどこかへ移動できる。


 ただし、問題があった。


『移動装置の起動には、エグザリアのエネルギーを大量に消費します』


 ノエルが装置の構造図を投影した。


「どの程度だ」


『現在の蓄積量の約四割です。さらに、起動中は施設の防衛機能と封印システムへの供給が制限されます』


「四割……」


 雄馬は図面を見つめた。


 先ほどのガーディアン・ゼロとの戦闘で、施設の一部はすでに停止している。そこへ移動装置を起動すれば、残された機能もさらに弱まる。


「地上へ戻った後、ここはどうなる?」


『起動時間と出力によります。最悪の場合、エグザリア・ヴォイドの一部区画が完全に停止します』


「封印システムにも影響するのか」


『はい。エグザリアは兵器であると同時に、施設全体の制御中枢でもあります。戦闘に出力を回せば防衛機能が損なわれ、移動に出力を回せば封印維持機能が低下します』


 雄馬は小さく息を吐いた。


 強力な武器を手に入れたからといって、何もかも自由にできるわけではない。


 エグザリアは無限の力を生み出す装置ではない。限られたエネルギーを、何に使うか選択する必要がある。


「地上に戻らず、ここでエネルギーを回復する方法は?」


『施設の外部観測装置を再稼働させ、自然空間から微量のエネルギーを回収する方法があります。ただし、現在の状態では完全回復まで数か月以上かかる見込みです』


「数か月か」


『その間にも、地上の異常領域は拡大する可能性があります』


 雄馬は答えなかった。


 ここで待てば、施設を守ることはできるかもしれない。だが、地上の人間を救うことはできない。


 逆に、今すぐ移動装置を使えば、地上へ戻ることはできる。けれども、この施設を維持するための力を大きく削ることになる。


 どちらを選んでも、代償はある。


「……ずいぶん不便な兵器だな」


『設計思想としては、兵器単体ではなく、惑星規模の封印システムとの連携を前提にしているようです』


「つまり、俺一人で使いこなすことを想定していない」


『その可能性は高いです』


 雄馬は苦笑した。


 古代宇宙文明が何を想定してこの装置を作ったのかは知らない。しかし、少なくとも、追放された男が南極の地下で目覚め、単独で地上へ帰ろうとする状況は考えていなかっただろう。


「ノエル。移動に必要な最低出力を計算してくれ。余分な機能は止めていい。ただし、封印システムの最低限の維持機能は残す」


『計算します。……最低出力での起動は可能です。ただし、転移先を正確に指定することはできません』


「どういう意味だ」


『現在の地上空間は、異常領域の影響で座標が不安定です。通常の座標指定では、移動先が安全な場所になる保証がありません』


「海の中や、建物の壁の中に出る可能性もあるということか」


『理論上は否定できません』


 雄馬は頭をかいた。


「ずいぶんと親切な説明をありがとう」


『事実を伝えることが、私の役割です』


「そうだったな」


 ノエルの表情は変わらない。だが、雄馬は彼女が冗談を理解していないわけではないことを、少しずつ知り始めていた。


 彼はエグザリアの制御画面に手を伸ばした。


 黒い装甲が腕を覆い、手首の内側に青白い光が走る。起動状態のエグザリアが、装置と接続を開始した。


 瞬間、足元の紋様が明るくなった。


 環状装置の中心に、暗い空間が生まれる。


 同時に、雄馬の視界に警告が浮かんだ。


 ――エネルギー供給率、低下。


 ――防衛機構、待機状態へ移行。


 ――封印維持出力、縮小。


「まだ出力を上げていないぞ」


『接続だけで、想定以上のエネルギーが消費されています。外部からの干渉が残存している可能性があります』


 雄馬はすぐに接続を切った。


 環状装置の光が弱まり、空間の歪みが消える。


「さっきの信号か?」


『関連は不明です。しかし、移動装置が外部空間へ接続しようとした瞬間、未知の信号が活性化しました』


「向こうも、この装置を利用できる?」


『可能性があります。接続を維持した場合、こちらが移動するだけでなく、外部から何かが侵入する危険があります』


 雄馬は、装置の中央を睨んだ。


 地上へ帰るために必要な門。それが、敵を招き入れる入口にもなり得る。


「安全に接続する方法はないのか」


『あります。ただし、エグザリアの出力を一時的に引き上げ、外部からの干渉を排除する必要があります』


「それをやれば、施設への負担が増える」


『はい。防衛機構の一部と、複数の観測区画が停止する可能性があります』


 雄馬はしばらく黙っていた。


 選択肢は二つ。


 危険を承知で出力を上げ、地上へ戻る道を開くか。あるいは、施設の機能を守るために、ここで足を止めるか。


 だが、もうひとつの可能性もある。


「ノエル。移動装置とエグザリアの接続を分離できるか?」


『通常の構造では不可能です。しかし、位相装甲を介して出力を限定すれば、接続範囲を制御できる可能性があります』


「試す価値はある」


『危険を伴います』


「危険がない方法を探している時間はない」


 雄馬は装甲を展開した腕を、環状装置の制御柱へ向けた。


 黒い装甲の表面を、青白い光が走る。


 エグザリアの出力がゆっくりと上昇し、環状装置の外縁に光の輪が形成された。今度は、先ほどのように空間全体が歪むことはない。


 光の輪は安定している。


 だが、その代わりに、施設の別区画から警告音が響き始めた。


『封印維持出力が低下しています。これ以上の出力上昇は推奨できません』


「ここまでか」


 雄馬は接続を解除した。


 装置の光が消え、周囲の空気が静けさを取り戻す。


 完全な成功ではない。しかし、突破口は見えた。


 エグザリアの出力を限定し、外部からの干渉を遮断しながら移動装置を起動する。その方法なら、施設への負担を最小限に抑えられるかもしれない。


「次は、地上の座標を絞る。正確な場所を指定できなくても、危険な場所を避けることはできるはずだ」


『地上観測記録を再解析します』


 ノエルが新しい画面を開いた。


 そこには、南極以外の場所に設置された古代の観測装置が表示されていた。大半は停止しているが、いくつかの装置には、微弱な反応が残っている。


 その一つが、日本列島の中央部で点滅していた。


『地上の観測装置から、断続的な応答を確認しました』


「場所は?」


『日本国内です。ただし、周辺は異常領域に覆われています』


「そこを経由しないと移動できないのか」


『現状では、その可能性が高いです』


 雄馬は、点滅する光を見つめた。


 帰還への道は、見つかった。


 だが、その道は安全な道ではなかった。


 そして、エグザリアを使うたびに、彼は何かを失うことになる。


 それでも、進むしかない。


 雄馬は制御画面を閉じた。


「ノエル。移動装置を再調整してくれ。次は、確実に門を開く」


『了解しました。ただし、地上の異常領域を経由する必要があります』


 ノエルの声が、静かな施設に響いた。


 雄馬は、その言葉を聞きながら、黒い環状装置を見上げた。


 門の向こうに何が待っているのか。


 それを知るためにも、彼は進まなければならなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。