↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
15/31

第15話 人間は何を掘り起こしたのか

 研究区画へ戻った雄馬は、ノエルに怪物の体内から回収した破片を解析させた。


 同時に、PROJECT WHALERの記録を時系列で並べ直す。


 古代構造物の発見。エネルギー反応の観測。利用計画の立案。そして、六年前の大規模な実験。


 その順序は、一本の線でつながっていた。


「ノエル。実験が行われた日付と、地球上の異常領域の変動を重ねてくれ」


「了解しました」


 壁面に地球の地図が表示された。


 六年前の観測記録が重ねられ、いくつもの地点が光る。


 最初は南極周辺だけだった反応が、時間の経過とともに別の地域へ広がっていく。


「これは……」


「PROJECT WHALERの実験記録と、一部の異常領域の拡大時期には関連性が認められます」


「一部ということは、全部じゃないのか?」


「はい。実験以前から存在していた異常領域も確認されています」


 雄馬は頷いた。


 人類がすべての異常領域を作り出したわけではない。


 だが、少なくとも、すでに存在していた何かに干渉した可能性がある。


「実験では何をした?」


「断片的な記録によると、古代構造物から得られたエネルギーを、人類側の装置へ接続しようとしていました」


「それで封印が壊れたのか?」


「可能性はあります。ただし、実験と封印システムの劣化の因果関係は、完全には確認できていません」


 雄馬は机に手をついた。


 人間が古代の装置を掘り当てた。


 そこから得られる力を利用しようとした。


 そして、世界各地の異常領域が拡大していった。


 もしこの推測が正しければ、彼らは自分たちが何を壊そうとしているのか、理解していなかったことになる。


 あるいは、理解していても、利益を優先したのかもしれない。


「ノエル。最終観測記録の続きを探せないか?」


「破損したデータ領域を再解析します」


 端末に複数の記録が表示された。


 そのうち一つは、これまでアクセスできなかったファイルだった。雄馬が得た管理者権限によって、一部の暗号化が解除されたらしい。


 画面に映ったのは、六年前の研究施設だった。


 研究員たちが慌ただしく動き回り、警告灯が点滅している。


『出力を下げろ!接続が安定していない!』


『制御装置が応答しません!』


『遮蔽機構の反応が低下しています。実験を中止してください!』


 映像の奥で、巨大な装置が光を放っていた。


 その光は、ゆっくりと黒い球体へ変わっていく。


 研究員の一人が、制御盤へ手を伸ばした。


『切断しろ!今すぐ接続を――』


 映像が乱れた。


 次の瞬間、画面全体が白く染まった。


 数秒後、音声だけが戻ってくる。


『……接続を切れなかった。装置が、こちらの操作を受け付けない』


 別の声が響いた。


『あれはエネルギー源じゃない。何かとつながっているんだ。接続の向こうに、何かがいる!』


 雄馬の背筋に冷たいものが走った。


 彼は映像を止めた。


「ノエル。今の黒い球体は何だ?」


「映像の解像度が不足しているため、正確な特定はできません。ただし、エグザリアの中枢部と共通する特徴が見られます」


「エグザリアと同じもの?」


「完全な一致ではありません。類似した構造を持つ装置、または同一系統の装置である可能性があります」


 雄馬は目を閉じた。


 人類側は、古代施設の力を利用しようとしていた。


 だが、接続先が何なのかを理解していなかった。


 そして実験の最中、何かが起きた。


 それが六年前の異常領域の拡大につながったのかもしれない。


 自分が参加した探索任務も、その影響を受けた可能性がある。


「俺の任務は、偶然あの場所に行っただけじゃなかったのかもしれないな」


「その可能性はあります。ただし、あなたの任務とPROJECT WHALERの直接的な関係は、まだ確認できていません」


「分かっている」


 雄馬は映像を再生した。


 今度は、最後の数秒に注目する。


 白い光が画面を覆う直前、研究員の一人がカメラの方を向いていた。


 彼は口を動かしていた。


 音声は残っていない。


 ノエルが映像を拡大する。


 唇の動きを解析した結果、いくつかの候補が表示された。


『封印が――』


『管理者を――』


 そして最後に、ひとつの単語が浮かび上がる。


『エグザリア』


 雄馬は、右腕を見下ろした。


 自分が起動した兵器。


 地球を監視する装置。


 古代文明が残した封印。


 そして、人類が手を出した研究計画。


 それらは、同じ仕組みの一部なのかもしれない。


「ノエル。俺がエグザリアを起動したことで、何が変わった?」


「あなたの起動により、休眠していた一部の防衛システムが再稼働しました。また、観測装置の接続状態にも変化が確認されています」


「封印システムにも影響したのか?」


「可能性はあります。ただし、封印の劣化は起動前から進行していました」


「つまり、俺が全部の原因ってわけじゃない」


「はい。現時点では、そのように判断できます」


 雄馬は少しだけ息を吐いた。


 すべてが自分のせいではない。


 だが、自分の行動が状況を変えた可能性はある。


 それなら、責任から逃げるつもりはなかった。


 罪を着せられたことと、自分の選択に責任を持つことは別だ。


「ノエル。封印を修復する方法を探す。地上へ戻る方法もだ。ここに閉じこもっていても、何も解決しない」


「了解しました。地表への接続経路を検索します」


 その瞬間、施設全体が揺れた。


 机の上の端末が一斉に点滅し、壁面に赤い警告が表示される。


『警告。地表接続経路、異常』


『未登録接続要求を検出』


『外部ノードとの接続を確認』


「……何だ?」


 雄馬が画面に近づく。


 地球の地図が表示されていた。


 南極の一点から、細い線が地表へ向かって伸びている。その線は、地下の複数の構造物を通過し、地上のどこかへつながっていた。


「ノエル。地表との接続ができたのか?」


「確認中です。接続要求の発信元は特定できません」


画面の文字が切り替わった。


『SURFACE CONNECTION ESTABLISHED』


 地表への接続が確立されました。


 雄馬は、警告表示を見つめた。


 自分たちが接続を試みたのではない。


 向こうから、つながってきたのだ。


 ノエルの声が響く。


「管理者候補、神代雄馬。未登録の外部接続を検出しました。接続先の識別を開始します」


 地図上の線が、ゆっくりと赤く染まっていく。


 そして、地下施設のさらに深い場所から、何かが応答するような振動が伝わってきた。


 雄馬は次元刃を呼び出した。


 黒い光が、今度は安定した輪郭を形作る。


「……来るなら来い」


 彼は、地上へ続く接続経路を睨んだ。


 人間は何を掘り起こしたのか。


 そして、今度は何が、こちらへやって来るのか。


 その答えを知るための時間は、もう残されていないのかもしれなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。