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少女から女へ

最終話になります。読んで下さってありがとうございました

世界有数の歓楽街・ネオ新宿歌舞伎町ーーー

その華やかなる一画に、周囲の絢爛たる店々を圧する店構えーーー

ネオ歌舞伎町一のホストクラブ「Yamato-nadeshiko」

美しきセレブ女性達の、金だけでは埋められない心の隙間を慰める、美しき男達の集う夜の宮殿



「おはようございますNO,1。一週間振りですね、ご体調はいかがですか?」

ロッカールームから出てきたNO.1光に小千が話しかけてきた

「おはようございます小千さん。一週間も休んでいてすみませんでした。もう風邪は治りましたので宜しくお願いします」

光はぺこりと頭を下げると、にっこりと笑う

「こちらこそーーー全くこの一週間は大変でした。貴方ばかりか、NO,2までもが法事とやらで一週間いらっしゃらなかったのですから。クラブの華がしおれていては困ります。体調管理はしっかりとーーーあなた方がいらっしゃらない間、オーナーは月弥さんをメディアに非常に露出させました。華が無いクラブなどただの空間ですからね。彼は今日が初出ーーー既に何組もの指名が入ってます。貴方も負けてはいられませんね」

小千は何の意図かーーーその眼鏡の奥の瞳を細めて光を見る

「そうですか。あの方はとても魅力的な方ですよね。はい、私も負けません。頑張ります」

ウイルス性の風邪ということで一週間休んでいた光の出勤の日。光もまた何組もの指名が入っているーーー今日は忙しくなるだろう

「・・・何故でしょうか。貴方はお変わりになられたようですね」

その強い光を放つ蒼い瞳にーーー小千は微かな驚愕を覚えた

「ーーー変わりましたか?私」

再度ーーー太陽のような笑顔で小千を見上げる

「−−−ああ、伊勢教授がバー・カウンターにいらしてますよ。貴方とお話しされたいと。場内指名という形です」

「え?伊勢教授が?−−−何故でしょうか?あの方は・・・・」

光は少々の驚きを持って答える。勿論何度か挨拶を交わした事はあるが、彼はどちらかといえばこのクラブをその研究の為の社交場として来店しており、来店したとしても特に誰かを呼ぶようなことも無くオーナー等と話すだけーーー一体自分に何の用事だろうか

「さあ、私如きには分かりませんがーーーご同伴のお客様のテーブルの前に行くようにと、オーナーからの伝言です」

オーナーの意図なのか。ならば行かねばならないだろう

「はい、分かりました。すぐにーーーあ、小千さん斎社長のテーブルーーー」

「既にヘルプの手配は済んでおります。私も参りますので、どうぞお気になさらずにいってらっしゃいませ」

流石に小千のホール手配は完璧だった。斎は大丈夫だろう

「いってきます」

もう一度笑ってーーーホールへと向かう小さな背中を見ながら小千は穏やかに微笑んだ



「いらっしゃいませ、伊勢教授ーーーご指名ありがとうございます」

バー・カウンターにはGeorge Winston「Longing/Love」。常のジャズではなくNew Ageが静かに流れ、まるで何年も前からそこにいたかのような初老のバーテンダー、そして伊勢が一人、座っていた

「こんばんはNO,1。どうぞ座って下さいーーー何か飲み物を?」

珍しいこともあるものだーーー伊勢は上機嫌で嬉しそうに笑っているのだ

「はい・・・あの、失礼ですが何か楽しいことでもあったのですか?教授はとても嬉しそうですね」

不機嫌ではないが常に深淵なる無表情を保っていた彼が笑っているーーーまるでお気に入りのおもちゃを与えられた子供のように

「ええ、とても嬉しいですね!このクラブは私の経済論を完璧に立証させたのですから!」

おやおやーーー既に彼は光を見ていない。細い顎を上げ、掌をオーケストラの指揮者のように広げ天井をーーーどこか遠くを見ているようだった

「完全なる競争原理に即した、完全なる陰陽原理に即した、完全なる本能の経済世界ーーー素晴らしい・・・」

初老のバーテンダーは黙って光にレッド・アイを差し出すーーーその意味は?

「教授の精神的経済世界ーーーというアイロニーな論文ですか?」

光は少々苦笑しながらも、レッド・アイを軽く伊勢のアイス・ジャスミンのグラスにあててそう応える

「え・・・?ああ、貴方は中々のIQをお持ちのようだ。私の論文を一言で表現する力を持っているのですね・・・中々興味深い。今度私の研究室においでなさい。オーナーが仰ってましたが、貴方は心理学に興味があると伺っているーーー私の専門は経済学だが、経済の根本は競争精神を持った人間。その人間の心理の研究はまた私のテーマの一つですよ。聴講生としてでもいいしーーー」

確かに心理学には興味がある。男の強さを手に入れたいと少女は常に願っていたから。力だけでなくその精神的な強さもーーー様々な専門書を時間を見つけては読んでいたがーーーオーナーは何を考えている?豪のようにまた伊勢もーーー?

「経済論は状況研究ですよね?」

そう質問された伊勢は益々の笑みを浮かべる

「そう、私は状況観察のプロですーーーだがその根本の人間観察のプロも目指しているのです。私はその為に励んでいる。それこそが私が生きる全て。人間ほど魅力的な研究対象はありません」

アルコールは入っていないようなのだが、どうも伊勢は酔っているような気がする。アルコールにでは無くーーー状況に

「さあ、これからこのクラブは益々の発展をしてゆくーーー太陽のような貴方と正反対の冷たい光を放つあのーーー」

伊勢はゆっくりと背後を振り返るーーーホール中央

「月の存在」

光は視線を感じた。冷たく凍った視線を


濡れているかのような艶を放つ黒髪、硝子のような紅い瞳、透明な肌ーーー先程ロッカールームで見掛けた、何故かNO.4がその隣にいて困惑したような表情で必死に話しかけていた。それを冷たくあしらうように自分に歩み寄ってきて一言

「私はお前にしか興味がない」


ホール中央、小さく華奢な体というのに異常な程の存在感を放つその黒い存在。それが自分を真っ直ぐに見詰めているーーー触れれば斬れる、凍った氷の瞳

「・・・・・・」

自分がいなかった一週間でーーークラブ内は確実な変化を遂げていた

「NO.1−−−貴方はこれから変化してゆく。今までは競争対象がいなかった為停滞していた。売り上げという意味ではない。ある意味自分自身を見せ付けられ、それを乗り越えようとしてゆくでしょう」

バッ!ーーー伊勢が両手を広げる。指揮者がラストを飾るに相応しい手つきで

「素晴らしい夜だ。素晴らしい世界だーーー素晴らしき人間!」

完全に伊勢は自分の世界だ。勢いよくグラスを空けると金を置き、常のように飄々とバーから出て行ってしまった。バーテンダーは無表情でグラスと明細を下げる

「・・・・・」

刺激を受け変化する世界。変化し発展する世界。素晴らしき人間の歓喜憎悪欲望渦巻く、混沌の競争世界ーーー




「−−−どうした?」

店が終わりーーー長い腕に抱かれながらマンションまでの道筋を歩いた

「うん・・・凄かったね、あの子ーーー凄いや」

黒い美少年の人気は凄かった。彼ーーー彼女は殆ど喋らないようでただ静かに客の前に座り、無表情で存在している。それでもその瞳は客を真っ直ぐに見詰めーーー恐らく小千が暫く担当するのだろう。小千が次の指名テーブルへ促すまでじっと佇んでいるのだ。客は酷く落胆の表情を見せる。私が好きなのではないのかと、何故行くのかと。そこまで何でも与えているくせに何故自分を置いて行くのかとーーーまるで客は子供だ。どうにかしてこの凍った無表情を自分の思い通りに変化させたいと躍起になっているようだった

「−−−そうだな・・・ありゃ、売れるぜ。俺もこの商売は長いがあんなタイプは初めてだな」

それでも氷の微笑を向けられただけで客は凍る。全て計算の内なのだろうか。誰も帰らない

「・・・負けたく、ない」

男は少々の驚きを持つ。少女がそのような感情を表に出したのは初めてなのだから。そのような感情があったのだろうかーーー彼女は変わっていく

「−−−がんばれや。どうせやるなら徹底的にトップを目指せ。出来るだけ協力してやっから」

一個の人間として地に足をつけ歩んでいく少女。彼女の後ろに道は無く、ただ前にあるのみーーーその事実に一抹の不安と寂しさを感じながらも、それは正しい、当たり前のことだと男は認識する

それが、成長を繰り返す人間本来の姿なのだから

「−−−寒い、ね・・」

粉雪がちらついている。かなりの冷気だ。その言葉を聞いた男は自らの胸に深く、小さな頭を抱き込んだ

「何か食べて帰るか?あったけえモンでもーーー」

ーーー?少女の小さな手が男の骨ばった指を掴んできたーーー強く

「・・・・」

小さすぎて聴こえない、言葉。俯いている少女の顔は紅潮しているーーークッ・・・と男は笑った

「ーーーいいぜ・・・?これから俺があっためてやるよ・・・」


初めて少女を抱いた夜ーーーそれから一週間男はマンションに篭り、昼夜となく少女を抱き続けた。店には適当な理由をつけた。それは勿論彼があの店の経営に深く関わっているからこそ可能だった処置だ。喉が渇けばペットボトルの水を口移しで飲ませ、レトルトフードを食べさせ、意識を失えばシャワールームへ運び清潔に保つーーー一週間掛けて男は<少女>を<女>にした

「・・・ん・・・なに、かーーーヘンな・・・感じが・・す、るーーー」

腕の中で困惑の表情を浮かべる<少女>

「−−−こ、わい・・・」

全く意味の違う、恐怖

「大丈夫だ、怖くねえよ・・・普通のことだーーー」

<女>ならば

変化ーーー発展には常に恐怖がつきまとう。それを乗り越えてこそ完成した人間に近づいていくのだ




儚く脆い<少女>は<女>へと美しく成長ーーー発展した

余りにも辛い経験を乗り越えて、限りなく美しく

これからもずっと 美しくなり続けていく

愛する男と共に ずっと 永遠に一緒に




幸福に









   




本編はここで終了となります。


イラストなどをサイトに掲載しておりま(PC対応のみ)

http://fr5juwdac3.x.fc2.com/aaaindex/hosutotop.html


続編は性的描写を多く含んでいる為番外(18禁)として掲載させて頂いております

→「一週間の空間」光サイドhttp://syosetu.com/pc/main.php?m=w1-4&ncode=N6479D

→「月」月弥サイド長編http://ncode.syosetu.com/n9349d/


読んで下さってありがとうございました

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