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十二話:風を裂いて

「……これ、血だよね?」


 美月の震えた声が洞窟内に響く。

 皆んなの目線の先には、血の跡が点々と続いていた。


「間違いないと思います。……これ、まだ新しい人の血です」


 颯太くんが光星灯で地面を照らす。先ほどよりもはっきりと血の跡が続いているのが分かった。


「これ、まだ奥に続いてるみたいだな」

「やっぱり、沙月さんなのかしら……?」


 誰もが言葉を失い、ただその痕跡を目で追った。


「とりあえず、奥まで行こう。血の量が増えてる。時間はあまり無い」


 皆が無言でうなずき、それぞれの武器を構える。

 足音を潜めるようにして歩み始めた。


「なかなか辿りつかないわね……」

「そうですね。血の跡は続いてますが、本人が見当たりません」

「この血の量じゃ、本当にまずいことになりそうだな。少し急ぐか?」


 風巻くんが足を速めようとした、その時だった。


「──待って!」


 御影さんの声が静かに響く。皆んなが足を止めた。


「……空気の流れが変わりました。残穢の気配が、微かに感じ取れます。多分……近くに、います」


 警戒しながら翠扇をゆるく広げる。皆んなや私も、各々の武器に手をかけ、慎重に動いた。


「あれ、何か……いる?」


 美月が真上を見つめて呟く。


「暗くてよく見えないな。でも、何かが動いてる気がする。颯太、上照らしてみてくれないか?」

「分かった。──霊術・光星灯」


 颯太くんが上に向かって技を放つ──


「ギャァアアッ!!」


 その瞬間、大量の黒い物体──否、コウモリだ。

 コウモリが天上から離れ、辺りを飛び回る。


「きゃっ!? 何、これ!」

「コウモリだ! あまり近づくな、噛まれたら感染症を引き起こすかもしれない」


 颯太くんが叫ぶと同時に、狭い洞窟内でコウモリが暴れ回る。私たちは襲われないよう身を縮め、余計な刺激を与えないように気を配った。


「落ち着け、攻撃をするな!」


 暁斗の声が響くが、コウモリは容赦なく飛び交う。暴れ回っているというより……混乱している?


「くそ……散るのを待っていてもキリがない! 何か、アイツらの弱点はないのか!?」

「……あるにはある。コウモリは、強い光や風の乱れ──特に、音には敏感だ」


 颯太くんが低く呟く。音……叫ぶわけにもいかないし、今出来ることなんて……


「音、か。それって、超音波みたいなのも効くか?」

「ああ。むしろ、超音波こそが奴らにとっての最大の弱点だ。……何か、策があるのか?」


 風巻くんに問いかけると、彼はニヤリと笑ってチャクラムを手に取った。


「成功するかは分からないけどな。美月ちゃん、俺らの周りにさっきの結界張れるか?」

「出来るけど……」

「よし。そんじゃあ、俺以外の皆んなに張ってくれ。俺が合図するまで、解かないで」

「分かった」


 美月は少し眉をひそめ、集中するように目を閉じた。


「いくよ? 霊術・水護膜」


 彼女の指先から淡く青い光が放たれ、私たちの周りにゆっくりと水の膜が広がる。


 それは美月の指先から放たれた光と同じ色をしていて、膜の中からは周囲が一層神秘的に映った。


「皆んな、一応耳、塞いでてね?」


 風巻くんの声は膜の内側からはやや鈍く、濁ったように届く。私たちは指示に従い、一斉に耳を塞いだ。


「──霊術・鳴風(めいふう)


 構えたチャクラムが、淡く風を巻き込むように揺れた。次の瞬間──


「──ギィィイイッッ!!」


 コウモリが甲高い声で悲鳴を上げ、空中から次々と地面に落ちる。……? 何をしたんだろう。


「……よし。美月ちゃん、もう解いていいよ。ありがとう」


 風巻くんの声を合図に、皆んなの周りに張られた膜が泡になるようにして消えていく。


「わぁ……すごいわね。助かったわ。一旦、何をしたの?」


 私は地面に落ちているコウモリの群れを見て問いかける。


「ああ、これはね俺の技で──鳴風っつうの。

 人間には聞こえないような超音波を風を振動させて出すことができて、今みたいに、音に敏感な敵にはよく効くみたい」


 まあ、あんまり使い所分かんなかったんだよねと、笑いながら風巻くんは言った。


「話はそこまでにして、今は急ぎましょう」


 切迫した様子の御影さんが私たちの先陣を切る。

 その後ろを、皆んなは黙って着いて行った。

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