十一話:暗闇の中の痕跡
「着いたけど、ここに何かあるのか?」
通り過ぎた薄暗い洞窟の前に私たちは立ち止まる。さっきの声は気のせいかもしれないけれど、この洞窟からは、何か異質な気配を感じる。
「……杞憂だといいのだけれど」
「よし。ひとまず、この周りで何か手がかりになりそうなものを探すか」
私は足元に視線を落とす。何かが落ちていないか。手がかりになるものがないか。
草をかき分けて探したり、ぬかるんだ地面を探したけれど、特に何も出てこない。
「なかなか無いわね……やっぱり、気のせいだったのかしら」
「もうちょっと根気強く探すか。一緒に頑張ろうぜ」
暁斗の声かけに私は再び地面に視線を落とした。
すると──苔むした岩陰。ぬかるんだ地面からそっと顔を出す煌めく何か。
「これ……!」
拾いあげたのは、泥でぐちゃぐちゃになった百合の髪飾り。
「それ……間違いない。沙月さんの髪飾り、だな」
「うん。ってことはやっぱり、この洞窟に……」
私は薄暗い洞窟の中を覗く。
「可能性は、ゼロじゃないな」
「どうする? 美月たちに声をかけた方がいいかしら」
「そうだな。アレを預けておいて良かったぜ」
暁斗は懐から通信機を取り出す。
それは、沙月さんのお父さんを助けた時にも使ったものだ。
「もしもし、二人とも聞こえるか?」
『はーい! こっちは聞こえてるよ!』
『こちらも問題ないです。はっきり聞き取れます』
通信機から少しくぐもった二人の声が聞こえる。
「聞いてくれ。俺たちの方で、沙月さんの物と思われる髪飾りを見つけた。今すぐに来て欲しい」
暁斗が通信機越しにに言うと、すぐに美月の弾んだ声が返ってきた。
『本当に!? よかった……!』
『了解しました。それで、西側のどの辺りでしょうか?』
続けて、御影さんの冷静な声が入る。
「ああ、西側の村の外れにある森林の中だ。少し進んだ先の洞窟で待っている。足跡が残っているから分かると思うが……迷ったら連絡してくれ」
『分かった。すぐ向かうね』
『はい。私たちもすぐ向かいます』
二人の声がほぼ同時に返ってきて、水晶の光がふっと静まった。
「よし、二人ともすぐに来れるらしい」
「じゃあ……それまでに、近くにいるあやかしを狩っておきましょう」
「だな。いつ変なのが出てきてもいいように」
◇
「お待たせしました。遅れてすいません」
息をきらせながら走って来たのは、御影さんと風巻くん。
「大丈夫だ。それより、皆んな怪我がなくて良かったな」
「そうね。ひとまず、安心」
私は再び、皆んなの顔を見る。
「それで、例の洞窟ってのはこれか?」
「そうだ。恐らく、この中に沙月さんはいる」
私たちは暗い洞窟の中を覗く。
「でも、ここからじゃ暗くて何も見えないのよね。意外と深いのかもしれない」
「まあ、ここで待ってても何も起きない。行こうぜ」
暁斗は先陣を切って薄暗い洞窟の中に入っていく。私もその後について歩いた。
「……結構奥まで続いてるな」
「ええ。このままじゃ見逃しかねないわ」
私たちは慎重に足を進める。苔むした岩肌はぬめりやすく、足元はぬかるんで滑りやすい。
「気をつけろ。岩が崩れやすいところがあるかもしれない」
颯太くんの冷静な忠告に、全員が足を止めて確認する。洞窟内はしんと静まり返っていて、まるで空気さえも止まってしまったかのようだ。
「なんか、変な空気だね」
美月がぽつりと呟く。確かに、空気が妙に重い。
「……生臭い臭いがする」
風巻くんが顔をしかめながら鼻を押さえた。私もそれに気づく。鉄のような、血のような。そんな臭いがうっすらと漂っていた。




