十話:囁く声
「天華、そっちいるぞ! 油断するな!」
「分かってる!」
暁斗の声に応じながら私は素早く身を翻す。
ちょこまかとした影が地を這うように近づいて来た。
「……鬱陶しいわね」
私は深く息を吐き、既に剣の状態にした花弦を構えていた。
「霊術・荊撃」
刃の先に霊力を込めて、あやかしめがけて技を放つ。
すると、足元から伸び上がるように無数のいばらが奴らを襲う。一体一体、的確に急所めがけて飛んだ。
「ギッ……!」
雨上がりで、夜明け前だからかあやかしの数が多い。小さなものばかりではあるが、このままだったらいつ、巨大なものが来るかは分からない。
「くそっ! 数が多いな……キリがない」
「私、何とか出来るかも!」
美月は体勢を変え、己の武器、青牙槍を手に口を開く。
「霊術・水護膜」
すると、群がっていたあやかしを囲むように水の膜が出来ていく。
「すげぇ……助かった、美月。ありがとう」
「うん! これくらい、いつでも頼って」
「ちなみにこれは、どういう技なんだ?」
嬉しがっている美月に、颯太くんが聞く。
「これは本来は戦えない人とか、怪我をしている人を守るために使う技なんだ」
なるほど。本当だったら、あの膜の中には人がいるのね。
「美月さすがね。あやかしから守るために張る結界を、あやかし自体に使うだなんて」
「えへへ。ありがとう!」
「後は俺がやる。美月、結界縮められるか?」
「うん、できる。こんな感じ?」
するすると結界が縮まり、あやかしが密集していく。颯太は影月刀を構えた。
「3,2,1の合図で結界を解いてくれるか?」
「分かった! じゃあ、行くよ。……3,2,1──」
「霊術・流星刃」
颯太くんが刀を振ると、夜空に瞬く星のように無数の光の刃が生まれた。それが流星の如く降り注いで、集まっていたあやかしを一掃していく。
「やったか! すごいな!颯太」
「……別に。褒めるなら美月にしとけ。俺は何にもしてないから」
「へぇー? まあ、俺は颯太もすごいと思うけどな!」
風巻くんは笑ってそう言った。
「雨も止んだことだし、少し早いけど捜索に移るか」
「分かった。じゃあ、またペアごとで動きましょう」
各々が息を整えながら、再び武器を手にした。
「私たちは北側のルートを確認してきます」
「じゃあ、私と颯太くんは南側に行こうか」
美月と颯太くんが向き合い、ぬかるんだ地面を踏み締めて歩き出す。
「俺たちは東側に行くか」
「ええ。気をつけて行きましょう」
◇
暁斗とともに西側へと進む。奥には森林が広がっており、地面はまだしっとりと濡れている。
「……森のほうに行ってみるか?」
「そうね……もう村の方に気配はないし、行ってみましょう」
ぬかるみに足を取られないよう、慎重に歩きながら周囲に気を配る。
「……妙に静かね」
「ああ。さっきまでの騒ぎが嘘みたいだ」
暁斗の声も、どこか緊張を孕んでいる。
「まるで、何かに怯えているような……そんな静けさね」
「おかしいな。もっと気を配っていこう」
私達は互いに、気を配り、緊張しながら進んでいった。
──『……気づかないのか、お前は』
「っ──!? え……?」
耳元で、風のように流れた声。私でも、暁斗の声でもなかったけれど、振り返っても、誰もいない。
「暁斗、今、何か言った?」
「何か……? いや、言ってないけど。急にどうしたんだ? 天華」
「……いや……なんでもない」
気のせい、かしら? いや、でも、確かに聞こえた気が……
「なあ、本当に大丈夫か? 顔、真っ青だぞ」
隣を歩く暁斗が私の顔を覗きこむ。
「ええ。……心配いらないわ」
首を横に振る。でも、胸の奥がざわついて仕方がない。
さっきの声は……幻聴? それとも……本当に誰かが発した声?
気のせい、そう思いたい。でも──
気づかないのか……?
気づけって、何を? 何に?
分からない。だけど、気のせいにしても、何か見落としていることがあるのかもしれない。
「……あっ! さっき通り過ぎた洞窟、もう一回戻ってみない?」
「いいけど、さっきから様子変だぞ?」
暁斗が怪訝そうな声と表情で振り返る。
「それは……否定できないけど。気になることがあるから、とりあえず行きましょう」
私たちは再び、元来た道を戻って行った。




