九話:異質な気配
「私のは……これです」
続いて御影さんが隊服の内側に手を入れ、武器を取り出す。
それは扇のような見た目で、緑と淡い白のグラデーションに大地の霊紋が刻まれているのが印象的だ。
「すごく綺麗ね」
「蒼璃の武器、初めて見たかも。まさか扇とは思わなかったな」
風巻くんが以外そうに呟いた。
「これは翠扇という扇型の武器で、戦いには不向きだと思われがちなのですが、霊力を操るのには最も適しているんですよ」
御影さんは扇を大きく開く。閉じている時よりも、さらにデザインの美しさが感じられるような武器だ。
「見た目だけならただの扇ですが……実は刃が仕込まれていて、何より扱いやすいんです」
言い切ると御影は少し誇らしげに笑った。
少し砕けた姿に、なんだか親近感を覚える。
「なんか御影さんにぴったりだね! 落ち着いてる感じで、見た目もスタイリッシュで」
「……ありがとうございます」
顔が少しだけ赤い。……なんだ、これがツンデレか。
「出た! 蒼璃のツンデレ! もっと素直に喜べばいいのにね?」
にやにやと笑う風巻くんに対して、御影さんは頭をポンと叩いてそっぽを向いた。
「じゃあ、最後は颯太だな!」
気を取り直して、風巻くんが颯太くんの肩を叩いた。静かに立ち上がって、無言で腰の横から長剣を抜く。
その刀身は黒く、月のように銀色に輝く刃が夜の静けさの中で光を反射していた。
「……これは影月刀。星の霊紋と相性が良い」
一言放つと、颯太くんはすぐに座った。
「星の霊紋か! 珍しいな。どんな技が使えるんだ?」
次に暁斗は質問をした。
「……ちょっとだけなら」
颯太くんは手を前にかざし、静かに目を瞑って術を唱える。
「霊術・光星灯」
刹那──薄暗かった室内にきらめく星屑のような明かりが発生した。
「すげぇ……!」
「綺麗……」
しばらくすると、光は徐々に消えていき、元の空間に戻る。
「これは?」
「これは照明としても役立つけど、敵の視界を撹乱させたり、仲間の位置を可視化させたりできる」
「すげぇ便利な技だな。まるで、夜空みたいだ」
風巻くんが感嘆の声を上げた。
元々、霊術はそのまま使うことに適していない。
分かりやすく言うと、霊力は電流のようなもの。ただ流しているだけじゃ、すぐに散ってしまう。
でも、特殊な武器を使うことで力は本領を発揮することができのだ。
だから、颯太くんのこの技も武器を通せばもっと綺麗で、明るくなるのだろう。
「やっぱり、色んな技見るの楽しいね! 自分には出来ないのばっかりだから、尊敬しちゃう」
「そうですね。多種多様なものばかりで飽きないです」
皆、納得したように頷いた。
◇
「ん……」
夜中、雷が轟く音で目が覚めた。
あの後雑談も終わり、各々就寝の準備に入った。
といっても、ただ上着を布団代わりにして雑魚寝状態なのだけど。
雷の音は遠ざかって、雨も弱まっているようだけど、なんだか変な感じがする。
「……天華? 起きたのか?」
「暁斗、貴方も起きていたの?」
声の主は暁斗だった。どうやら、彼も同じように目を覚ましたらしい。
「……暁斗も、感じる?」
肌にじんわりとまとわりつくような不気味な空気。体内の霊力が、ざわついている。
「ああ。何か強い気配が、近くにいる気がする」
その言葉にぞくりと背筋が冷えた。ただのあやかしじゃない、底知れないなにか。
「風巻たちも起こす。念の為、確認しに行こう」
「分かった」
◇
「……いけるか? 美月」
「うん、何とかなりそう」
美月の手のひらに、一雫の水がふわりと現れる。
それは零れ落ちることなく、重力を無視するかのように空中で浮遊し、透き通った球体のまま淡く光っていた。
「霊術・澄映水」
水面に光が差し込むように、玉の中に淡い像が浮かび上がった。
「おお……これ、外の景色か?」
「うん。これはね、探索系の霊術で暗闇とか、建物の中まで見れる優れものなんだ! まぁ、そこまで万能じゃないんだけどね」
美月は少し下を向いて呟いた。
「万能じゃないって?」
「水溜まりとか、葉っぱに付いてる水滴とか……水のある場所でしか使えないし、私が通ったところしか見えない」
水面には、まるで湖に浮かぶ月影のように、周囲の光景がぼんやりと映し出されていた。
風に揺れる草木の影、村のはずれに佇む建物。
そして……その奥に、微かに揺れる異様な気配。
「あれは、何でしょうか……?」
「……何かいるな」
その言葉と同時に、全員の空気が引き締まった。




