表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

八話:濡れた屋根の下で

「そう……ですか」


 やって来たのは避難所。

 町の人々が、あやかしが落ち着くまで寝泊まりしていて、沙月さんもここにいるんじゃないかって思って、訪ねてみた。


 でも……返ってくるのは「知らない」「見ていない」の二つだけ。


「やっぱり、いないのかな……」

「そうかもな。さっき避難所で寝泊まりしている人たちの名簿もらってきたけど、載ってなかった」


 私は大きくため息をついた。沙月さんがここにいる可能性は、ゼロに等しい。


「居ないんだったら、探しに行かないとな」

「ええ。この町で、死人は出したくないもの」


 沙月さんは無事であってほしいし、もし逃げ遅れている人がいれば、その人たちも助け出したい。


 でも、既に夜が深くなってきていた。それに伴ってあやかしの気配も濃くなっている。


「今夜もあやかしが暴れ回るかもしれないから、もう一回町の方に行ってみるか?」

「そうね。美月たちと……御影さんたちも呼びにいきましょう」


 ◇


「急にごめんね、皆んな」

「気にしないで! まだ見つかってないなら、急いで探さないといけないし」

「見つけるのが俺たちの仕事だからな」


 美月と颯太くんが私を見て言う。


「よし。それじゃあ、また探しに行きましょうか」


 町の外れに向かっていたその時だった。


「うわ、ちょっと……!」


 ぽつ、ぽつ……と空から落ちる雫が、次の瞬間には土砂降りの雨に変わった。


「急げ、あっちに小屋がある!」


 暁斗の声に導かれて、私たちは近くの小さな納屋に駆け込んだ。


「……風邪、ひかないといいんですけれど」


 御影さんは、濡れた前髪を煩わしそうに払って呟き、風巻くんは後ろで短く束ねているゴムを取り、髪をかきあげる。


「うー! せっかくのカッコいい俺の髪型が台無しなんだけど!」

「……それ、元々整ってないから関係無いんじゃないですか?」

「なんだって!?」


 御影さんは無表情でちらりと見た後、ばっさりと言った。


「ふふ! なんだか二人、面白いね?」

「そうね。二人は、知り合いだったの?」


 御影さんと風巻くんは互いの顔を見合う。


「いいや。パートナー選びで、初めて会った」

「そうですね。パートナーにされて、ようやく名前を覚えました」

「そうなのね、初対面って、中々大変じゃない?」


 私が聞くと、美月が隣でくすっと笑いながら答えた。


「でも、案外バランスは取れてそうだよね。二人」


「えっ、そう? 俺、結構傷ついてるんだけど」

「……図太さには関心しています」

「ほらぁっ! こういうとこ!」


 納屋は笑いに包まれる。御影さんと風巻くん──性格は全くと言っていいほど似ていないけど、意外と息は合っている気がするな。


 ◇


「この雨じゃ、しばらく動けそうにないね」

「ええ、そうね……」


 私は寒そうにしている美月に、毛布代わりの上着を肩に掛けた。お礼を言われてしばらく座っていると、御影さんが話しかけに来た。


「神楽さん、天音さん。タオルがありますので、良かったら」

「ありがとう、御影さん」

「私もありがとう!」


「なんか、こうして皆んなで雨宿りしてたら、ちょっとキャンプっぽいよな」


 風巻くんが笑いながら言うと、美月が「確かに」と微笑んで頷いた。


「焚き火とかあったら、もっと雰囲気でるかもな」

「でも、あやかし呼び寄せちゃいそう」


「それはまずいな」暁斗が笑いながら答えた。それに同調して、皆んながふっと笑う。


「……火は使わない方が良い。湿度が高いから煙もこもるし、においも残る」


 ぽつりと颯太くんが言った。相変わらず冷静な口調だけど、その言葉には説得力がある。


「へぇーそうなんだ! やっぱり颯太くんって、物知りだね」

「別に。必要なことを言っただけだ」


 美月が微笑むと、颯太くんは視線を逸らして小さく頷いた。


「それにしても……ずっとここに止まっていて、いいのかしら?」

「どうだろうな? さっきから八重桐先輩にかけてるんだけど、全く通じねぇ。それに、こんな天気だし……」


 静まるなか、御影さんが冷静な声で告げた。


「問題無いと思いますよ。

 元々、泊まりでの任務でしたし、避難所が満員だったら、野営の可能性も想定されていましたから」


 それに同調するかのように今度は颯太くんが口を開く。


「俺も、行く前に八重桐先輩に一言かけたから大丈夫だと思う。まあ……察してくれるだろう」


 皆が頷くと、再び静寂が戻った。すると、それを見かねたように風巻くんが背伸びをした。


「うーん! 暇だし、なんか話さない?」


 そう言うと、部屋の中に柔らかな空気が広がる。


「何かって?」

「じゃあ……皆んなの武器って、どんな感じ? 知りたいな!」


 背中に手を伸ばして、シャッと空気を裂くような音が聞こえるとともに、X字に収められていた二枚の輪が抜き取られた。


「まずは俺から!」

「これは?」


 暁斗が身を乗り出してで聞く。どうやら、武器に興味津々のようだ。


「これはねー、チャクラムっつう武器で、名前は旋輪(せんりん)


 風巻くんが片方の輪をくるりと回してみる。鋭い刃がぐるりと光を反射した。


「見た目はただの輪っかみたいだけど、結構切れ味あるんだよ。投げてもいいし、斬ってもいい。それに……俺が使えば戻ってくる」

「戻ってくるのか?」


 今度は颯太くんが驚いたように眉を上げた。


「うん。俺は霊力でコントロールしてるから、風に乗せて軌道を変えることもできる。俺の霊紋は、風だからね」

「そんな器用な武器、よく扱えるわね」


 御影が言うと、風巻はニッと笑った。


「そりゃまあ、おれだから? ほら、俺って結構繊細な性格でしょ?」

「……自称、ですよね?」


「……辛辣っ!」


 笑いが広がった。風巻くんのチャクラムは彼の自由さを象徴しているようで、とてもぴったりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ