八話:濡れた屋根の下で
「そう……ですか」
やって来たのは避難所。
町の人々が、あやかしが落ち着くまで寝泊まりしていて、沙月さんもここにいるんじゃないかって思って、訪ねてみた。
でも……返ってくるのは「知らない」「見ていない」の二つだけ。
「やっぱり、いないのかな……」
「そうかもな。さっき避難所で寝泊まりしている人たちの名簿もらってきたけど、載ってなかった」
私は大きくため息をついた。沙月さんがここにいる可能性は、ゼロに等しい。
「居ないんだったら、探しに行かないとな」
「ええ。この町で、死人は出したくないもの」
沙月さんは無事であってほしいし、もし逃げ遅れている人がいれば、その人たちも助け出したい。
でも、既に夜が深くなってきていた。それに伴ってあやかしの気配も濃くなっている。
「今夜もあやかしが暴れ回るかもしれないから、もう一回町の方に行ってみるか?」
「そうね。美月たちと……御影さんたちも呼びにいきましょう」
◇
「急にごめんね、皆んな」
「気にしないで! まだ見つかってないなら、急いで探さないといけないし」
「見つけるのが俺たちの仕事だからな」
美月と颯太くんが私を見て言う。
「よし。それじゃあ、また探しに行きましょうか」
町の外れに向かっていたその時だった。
「うわ、ちょっと……!」
ぽつ、ぽつ……と空から落ちる雫が、次の瞬間には土砂降りの雨に変わった。
「急げ、あっちに小屋がある!」
暁斗の声に導かれて、私たちは近くの小さな納屋に駆け込んだ。
「……風邪、ひかないといいんですけれど」
御影さんは、濡れた前髪を煩わしそうに払って呟き、風巻くんは後ろで短く束ねているゴムを取り、髪をかきあげる。
「うー! せっかくのカッコいい俺の髪型が台無しなんだけど!」
「……それ、元々整ってないから関係無いんじゃないですか?」
「なんだって!?」
御影さんは無表情でちらりと見た後、ばっさりと言った。
「ふふ! なんだか二人、面白いね?」
「そうね。二人は、知り合いだったの?」
御影さんと風巻くんは互いの顔を見合う。
「いいや。パートナー選びで、初めて会った」
「そうですね。パートナーにされて、ようやく名前を覚えました」
「そうなのね、初対面って、中々大変じゃない?」
私が聞くと、美月が隣でくすっと笑いながら答えた。
「でも、案外バランスは取れてそうだよね。二人」
「えっ、そう? 俺、結構傷ついてるんだけど」
「……図太さには関心しています」
「ほらぁっ! こういうとこ!」
納屋は笑いに包まれる。御影さんと風巻くん──性格は全くと言っていいほど似ていないけど、意外と息は合っている気がするな。
◇
「この雨じゃ、しばらく動けそうにないね」
「ええ、そうね……」
私は寒そうにしている美月に、毛布代わりの上着を肩に掛けた。お礼を言われてしばらく座っていると、御影さんが話しかけに来た。
「神楽さん、天音さん。タオルがありますので、良かったら」
「ありがとう、御影さん」
「私もありがとう!」
「なんか、こうして皆んなで雨宿りしてたら、ちょっとキャンプっぽいよな」
風巻くんが笑いながら言うと、美月が「確かに」と微笑んで頷いた。
「焚き火とかあったら、もっと雰囲気でるかもな」
「でも、あやかし呼び寄せちゃいそう」
「それはまずいな」暁斗が笑いながら答えた。それに同調して、皆んながふっと笑う。
「……火は使わない方が良い。湿度が高いから煙もこもるし、においも残る」
ぽつりと颯太くんが言った。相変わらず冷静な口調だけど、その言葉には説得力がある。
「へぇーそうなんだ! やっぱり颯太くんって、物知りだね」
「別に。必要なことを言っただけだ」
美月が微笑むと、颯太くんは視線を逸らして小さく頷いた。
「それにしても……ずっとここに止まっていて、いいのかしら?」
「どうだろうな? さっきから八重桐先輩にかけてるんだけど、全く通じねぇ。それに、こんな天気だし……」
静まるなか、御影さんが冷静な声で告げた。
「問題無いと思いますよ。
元々、泊まりでの任務でしたし、避難所が満員だったら、野営の可能性も想定されていましたから」
それに同調するかのように今度は颯太くんが口を開く。
「俺も、行く前に八重桐先輩に一言かけたから大丈夫だと思う。まあ……察してくれるだろう」
皆が頷くと、再び静寂が戻った。すると、それを見かねたように風巻くんが背伸びをした。
「うーん! 暇だし、なんか話さない?」
そう言うと、部屋の中に柔らかな空気が広がる。
「何かって?」
「じゃあ……皆んなの武器って、どんな感じ? 知りたいな!」
背中に手を伸ばして、シャッと空気を裂くような音が聞こえるとともに、X字に収められていた二枚の輪が抜き取られた。
「まずは俺から!」
「これは?」
暁斗が身を乗り出してで聞く。どうやら、武器に興味津々のようだ。
「これはねー、チャクラムっつう武器で、名前は旋輪」
風巻くんが片方の輪をくるりと回してみる。鋭い刃がぐるりと光を反射した。
「見た目はただの輪っかみたいだけど、結構切れ味あるんだよ。投げてもいいし、斬ってもいい。それに……俺が使えば戻ってくる」
「戻ってくるのか?」
今度は颯太くんが驚いたように眉を上げた。
「うん。俺は霊力でコントロールしてるから、風に乗せて軌道を変えることもできる。俺の霊紋は、風だからね」
「そんな器用な武器、よく扱えるわね」
御影が言うと、風巻はニッと笑った。
「そりゃまあ、おれだから? ほら、俺って結構繊細な性格でしょ?」
「……自称、ですよね?」
「……辛辣っ!」
笑いが広がった。風巻くんのチャクラムは彼の自由さを象徴しているようで、とてもぴったりだ。




