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別次元の領域(2021年版)  作者: 草茅危言
最終章 現世への帰還編
111/120

第111話(最終話) 現世への帰還

専門用語が多い論文で、社会批判の暗喩も多く、

狂人が書いた小説みたいになってしまったけど、

ここまで読了した読者諸氏には敬意を表します。

感謝します。本当に有難う。

無人大陸にて、豚鬼人喰人(オーク・カニバリスト)との最終決戦を制した翌日。


郡山青年は、転移術で、元の世界の日本へと帰還するため、

荒脛巾(アラハバキ)皇国(おうこく)の万世橋駅にある、

【転移の鳥居】へとやって来た。


(ちな)みに、万世橋駅は、かつては現実世界の日本にも

存在したが、現在は廃駅となっている。


見送りに来たのは、ブルクドルフ氏―この世界に連れてきた張本人―、

土師(はじ)青年―自力で双方の世界を【異界渡り】が可能―、

ネメシス・ダムド大公―名誉称号として、大公の爵位を得た―、

弓削青年―幽体のままなので、一緒に帰還はできないという―と、

常井氏の五人である。


「【読心(とうしん)の宝珠】を使い、君の【異界渡り】に関する、

転移前の時空座標の特定は完了した。

【異界渡り】には、通常の転移術以上に膨大な魔力を要するが、

それは、弓削君やダムドの魔力を融通してもらうだけでは足りない。

しかし、無人大陸にて、豚鬼人喰人(オーク・カニバリスト)から奪った

魔力を足せば、問題なく【異界渡り】で表大和(おもてやまと)への

帰還が可能となるだろう。」


見送りに来た五人を代表して、ブルクドルフ氏が言う。


「また、君がこちらの世界に来訪する際は、歓迎する。

是非、向こうの教育行政の仕組みについて議論したい。

その際には、『量子力學・弐』を持ってきてくれると有難い。」


と常井氏は言った。最後までブレないな、この人。


自力で双方の世界を【異界渡り】が可能な、土師(はじ)青年は、


「向こうに戻ったら、また勉強会で会おう。」


とあっさりそれだけ。幽体の弓削青年は、


「悪い。俺は幽体のままだから、一緒に帰還は出来ない。

恐らく、別の方法で帰還することになるだろう。だが、待っていろ。

間違えて別の世界に転移したりしないようにな。」


と不吉なことを言う。脅かさないでくれよ。


「問題ないだろう。儂と契約して魔力的な繋がりがあるから、

道に迷ったとしても、連れ戻してやる。」


ネメシス・ダムドとの契約は、【異界渡り】しても有効らしい。


「色々とお世話になりました。ではまた。」


と言って、郡山青年は、現世への【異界渡り】を行い、

見送りに来た五人の目の前からその姿を消したのであった。


――――――――――――――――――――――――――――――


郡山青年は、現世へと帰還した。


荒脛巾(アラハバキ)から秋葉原(アキハバラ)へ。


あの日、秋葉原のビルのエレベーターの中で、

ブルクドルフ氏によって、転移させられたのとは逆に。


日時・時刻はあの日のまま。

電波時計だから、間違ってはいないだろう。


すると、俺は、エレベーターの中で、白昼夢を見ていたのか・・・。

十年前という過去を思い出して、感傷的にでもなっていたのか・・・。


もう、この世界には、十年前に親友であり、好敵手(ライバル)であり、

相棒であった、彼は存在していない。少なくとも、蝦夷(えぞ)エルフの

短命種である、病みエルフ「フサルク」の姿では。


彼は、少年だった十年前に入院した函館の病院で、

未だ昏睡状態のままなのか・・・。或いは、既に鬼籍に入ったか・・・。


十年前に自分に憑依していた、魔族の元・師匠とも、魂同士は

魔力的に繋がってはいるが、その本体は、向こうの世界にいる。


魔素が一瞬と保たずに自壊してしまうこの世界では、

あのマンティコアノイドも顕現すら出来ないであろう。


現実とは、空しいものだ。


先程、新古書店の理工書の棚で発見し、購入した、

「量子力學・壱」の古書でも帰ったら読むか・・・。


無い。


帰ったら読もうと思っていた「量子力學・壱」の古書は、

リュックサックの底を漁っても存在していなかった。


もしかして、転移に失敗して、買う前の時間に戻された?


――――――――――――――――――――――――――――――


新古書店に戻って、理工書の棚を見ても、

「量子力學・壱」の古書は、存在していなかった。


在庫はあの一冊だけだった(はず)なので、

他の誰かが購入してしまったのだろうか?


それとも、あの【術理の世界】という異界は、

白昼夢などではなく、実在しているとでもいうのか?


あの本は、常井氏が所有者として、彼の蔵書の中に加えたのか?


我ながら、あまりにも非科学的だ、と自嘲する。


でも、荒唐無稽な白昼夢にしては、何処か

(しっか)りとした、世界観がそこにはあった。


戦前には存在していた、宿河原不動駅も、登戸研究所も、

現在では存在していない(はず)だ。


アンドリューサルクスや、スミロドンは、動物園にいるのではなく、

化石として博物館に展示されている(はず)だ。


消滅した言語、絶滅した古生物、廃駅や未成線、・・・。

言語学者、古生物学者、架空に限らないが、鉄道マニア。

そういった人達が、何の因果か紛れ込んだとしたら、

入り浸りになってしまうだろう異界、

ここではないもう一つの世界。


まぁ、いいや。いつか小説でも書く機会があったら、

この体験を綴るというのも一興だろう。


――――――――――――――――――――――――――――――


年が明けて、最初の勉強会の日。


大学の物理学科には、郡山青年とは、互いに好敵手(ライバル)と認め合う猛者達が、

この成績上位者の社交場とでも形容すべき、勉強会に集っていた。


まず、危険物や情報処理に関する資格を複数持ち、会長を担う学生。

そう、彼こそが、この勉強会の主催者でもある、土師(はじ)真理(まこと)


「やぁ。戻ってきたようだね。相変わらずのようで何よりだ。」


その発言からは、他の学生は、「年末年始の休暇から戻ってきた」

としか思わないだろう。


数学に関しては、郡山青年でさえ敵わないが、

プログラミングは苦手という、教員志望の学生。


逆に、プログラミングが得意で、Webサイトやゲームを

制作しているけれど、数学は苦手という、ハッカー気質の学生。


まさか、俺が、「異界から現世への帰還を果たした」などとは、

彼らは決して思うまい。それは、非科学的であり、荒唐無稽過ぎる。


「よぉ。」


「やぁ。」


各々、簡単な挨拶もそこそこに交わした後、いつものように、

土師(はじ)会長が司会を担い、本日の主題に入る。


「単刀直入に言おう。あの方がお戻りになった。」


「『あの方がお戻りになった』とは、どういう意味だ?」


だが、(いぶか)る郡山青年に対して、

他の学生達は、心配そうな表情を浮かべる。


「どこか具合でも悪いのかい?頭でも打ったとか。」


「確かに久しぶりではあるけど、普通忘れるかな?」


オイオイ。(ひど)い言い草だな。

(くだん)の人物は、俺とも面識のあるようだが、

どうやら、俺だけが失念しているらしい。


しかも、この場の自分以外の全員が、

格上だと認識しているらしい。


学問に王道なし。天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず。

この勉強会とて、その例外ではない(はず)だ。


「ククククク。俺のことを忘れたか?」


(くだん)の人物が教室に入ってきた。

弓削泰斗。転移前は、この場にいなかった(はず)の人物が。


「俺がいなくて淋しかっただろう?」


「函館にいると聞いていたけど?」


「単位互換留学分のレポートは全て提出済みさ。

向こうにいても、特にやることもないから、戻ってきた。」


この大学の提携校には、北海道にもキャンパスがあり、

学科でも、首席や次席といった、成績上位者に対しては、

半期(セメスター)制の単位互換留学という制度があったりする。


郡山青年も、そういう制度があることは知っていたが、

ここ数年は、条件を満たすような成績上位者であっても、

殆ど利用することがないため、全く眼中に無かったのだ。


この世界線における彼は、函館の病院で、昏睡状態から目覚め、

同じ大学に入学し、後期に単位互換で行っていた、

留学先のキャンパスから帰還した、という「設定」がなされたのだ。


――――――――――――――――――――――――――――――


勉強会終了後。


郡山青年と弓削青年は、地元が同じで、

幼馴染という「設定」になっており、

同じ電車に乗って、一緒に帰ることになった。


「あの時は、一緒に帰還出来なくて悪かったな。

だが、本来、君の隣にいるのは俺でなくてはならないだろう?

君にとっては、数週間前の出来事かも知れないが、

俺は、函館の病院で、昏睡状態から目覚めてから、

今日に至るまでの辻褄を合わせるために、

色々とやるべきことがあったんだよ。」


「『色々とやるべきこと』って?」


「ククククク。向こうの世界で始末した例の連中だが、

こちらの世界にも裏稼業の仲間がいるんだよ。

その【残党狩り】さ。二度と俺達に手を出せないようにな。

安心しろよ。もう俺達の人生を陥れるような陰謀は、

連中には不可能だからな。」


彼は、そう言って、年月が少し前の新聞を俺に渡す。


転移前の世界線では、大物と呼ばれていた政治家が、

反社会勢力と繋がっていたことが、明らかとなり、

一族郎党、その一味が、芋蔓式に逮捕され、

その勢力が、凋落(ちょうらく)した、という記事だった。


「連中は、俺の属している、物部一門(グループ)にとっても、

非常に目障りな政敵だったからな。これで、

張本人も排除し、黒幕は全て潰せたぜ。」


「俺が転移する前とは別の世界線になっている・・・。」


「『一羽の蝶の羽ばたきが、竜巻を起こす』という、

バタフライ効果は、不可避の現象だったってだけさ。

ああ、そうそう。連中は始末したし、黒幕の勢力からの

報復の可能性もないとは思うが、念の為、君のことは、

物部一門(グループ)の方で保護することになったから。」


「は?」


「要するに、君の就職先は、物部一門(グループ)内の組織に

限定されることになってしまうっていうこと。多分だけど、

【異界渡り】の能力を活かした仕事に就くことになると思う。

教職課程の単位は、途中まで取得したままで、

履修中止となってしまうことになって、申し訳ないけど。」


「いや、(むし)ろ、進路の選択肢が増えたなら、

俺としては、願ったり叶ったりなんだが。」


実際、教職課程履修者には、以下の制限が課されていた。

・一般企業の採用への応募と併願してはいけない

・教員採用試験に合格するとは限らない

・仮に、教員に採用されても、待遇は保証されない


要するに、「ブラック部活」等の問題があることは、

既に示唆されていたわけである。かといって、

一般企業に応募をしても、殆ど採用されない可能性もある。


「これから先、異界絡みの案件に携わることになるとしてもか?」


それでも、自分達の勢力争いに巻き込んでしまった

申し訳なさから、そう聞いてくる、幼馴染設定。


「それだって、普通の人には絶対得られない機会だろうし。」


「エリートみたいに言うけど、名誉も得られない、

陰からこの国の秩序に寄与するだけの地味な仕事さ。」


「別に目立ちたいわけでもない。こういう人生も、

これはこれでアリだろう。」


「そうか。今後とも宜しくな、相棒。」


「ああ。宜しく。」


こうして、俺達は、再び異界に赴くことになる。


その話は、またいずれ別の機会に語ることにして、

この物語の筆を置くことにしようと思う。

次回作は、本作の続編だけど、独立した作品としても

読むことが出来るように構想中です。

ブックマーク等して頂ければ、執筆意欲が上昇するかも。

外伝とか、設定資料など、時々推敲したりすると思うので、

暫くの間は、完結済み作品とはせずに、そのまま置いておきます。

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