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『The Mace and the Frills』〜鉄槌(メイス)を隠した二メートルの侍女(男)を、それでも姫はエルフと呼ぶ〜  作者: ぽむぽむ(potatobomb.pomupomu)


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16話 シュヴォシェ 3

 ウィンザー近郊フォレスト村。

 王の狩猟場である森の入口にある農村は、もくもくと黒煙を星空に立ち上らせ、火の粉を振りまきながら燃えている。

 つい、数日前に狩猟に来たときに寄ったその穏やかな村は見る影もなく、怒号と悲鳴が炎に照らされ響き渡っている。


「ハリー、メイスを!」


 ルノーの後ろに座っていたユードの強い声が響き、肩にぐっと体重がかかったと思った次の瞬間、ふっと軽くなる。

 斜め後方では、ふわりとフリルの生成りのエプロンを舞わせたユードが地面に着地し、ハリーが投げたメイスを空中で掴んだ。

 

 ドクン!


 ルノーの心臓が大きく脈打つ。

 走り出したユードの背中を片目に捉えながら、手綱をしっかりと握ると、腹にぐっと力を込める。


「オープニングは俺が支配する! ユードに続け!」


 自分を鼓舞するように剣を抜きながら言うと、今度は喉を開いて咆哮のように叫ぶ。


「デウス・アイエ!*¹」


 拍車を腹に蹴りこむと、ドウっと湿った土を踏みしめてデストリエが土を撒き散らしながら加速していく。

 ルノーの号令と共に、なだれ込むように騎乗した騎士達が村になだれ込んだ。


 村に火を放ち暴虐の非道をまさに始めんとしていた敵達は、不意を突かれた様子で、小さな村にしては豊かな戦利品を打ち捨て武器を取り始める。

 燃える村にコルネ(角笛)の音が低く鋭く鳴り響き、敵兵の鋭い声が飛ぶ。


「想定より早いぞ! 守備隊だ!」


 敵達が乱れた様子でバラバラと走り出すのを馬で追い立てていると、横からコノルの馬が駆け抜け、歩兵の頭上に剣が打ち下ろされ、馬で踏み潰していく。


「ルノー様。逃さず数を減らすのです! ここは死角が多い。クロスボウを構えさせてはいけません!」


 そう叫ぶと、コノルは馬を巡らせると、ルノーと同様に逃げる敵への攻撃を躊躇していた仲間の新兵達に声を張り上げる。


「躊躇するな! 殲滅せ……!! ぐぅぅ!」


 叫ぶコノルの声に弓の飛ぶ鈍い音が重なる。


 ルノーが目を見開き見た光景は、スローモーションの様にコノルの肩口に矢が刺さる様子だ。矢が放たれた方向を急ぎ見ると、炎に燃える家屋の影からゆっくりと倒れる敵兵の姿が照り出された。

 その後方には炎を映し込んだオレンジ色に染まるエプロン姿のユードが見える。

 ユードの、クロスボウを構える敵めがけてメイスを打ち下ろし、敵が手も足も出ぬままなぎ払い倒していくその姿は、雷神トールの如く壮絶で、反撃の機会も与えられる隙もなく、歪にへちゃげたヘルムを冠ったままの敵はただの肉へと変わっていく。


「逃がすなぁ!」


 コノルは肩に刺さる矢をボキっと折ると声を張り上げながら馬を走らせ物陰を目指す敵に剣を打ち下ろす。

 ルノーは無我夢中で馬を走らせ敵を蹂躙する。


 ――コノルの肩に刺さる光景が、へちゃげたヘルムの敵の姿が、頭から離れない。

 止まれば射られるし、進めば人を潰す。

 もう、後戻りは、できない。


 炎の中を突き進みながら、血の味をさせながら唇を噛む。

 打ち下ろす剣はずしんと重い鉄を捉え、形を変形させていく感触が手に残っていく。

 馬は躊躇なく障害物を踏みつけ、馬の体を伝って、ぐにゃりと潰れる感覚に鳥肌が立ち、えづく。


 それを繰り返しながら蹂躙していると、隣にいた仲間の体がゆらりと馬からずり落ちていくのが目に入った。


 ――クロスボウ……! そういえば、ハリーは?


 突然我に返ったルノーは、キョロキョロと周りを見渡す。

 ちょうどその瞬間、目の前に矢が飛んできた。とっさに飛んできた矢を避けながら剣で撃ち落とすと、後ろから自分の名を呼ぶ声に気がついた。


「ルノー様ぁ!」


 聞こえたのはハリーの声だ。

 ドクンドクンとうるさく響く心臓を押さえ、振り向くと、数名の騎士と共に馬でハリーが駆けてきていた。


「囲まれています! 我々の後ろに!」

「他の者達は? どうなっている?」

「わかりません。そう広くない村なのですが……。」


 ルノーの周りにいるのは、十二騎ほどだ。


「まさか……」


 ルノーたちはクロスボウを避けるあまりに闇を嫌い、ジリジリと明るく標的にされやすい場所へと追い詰められていた。

 後ろで燃える家屋に照らされ、目の前の闇はより濃くなり、どこからクロスボウの矢が飛んでくるのかが分からない。

 

「万事休すか……。」


 ルノーがボソリと呟いた時、ざわりと、周りの空気が変わる。


「援軍が来たぞ!」


 見えるのは見慣れた旗。


「ボールドウィン長官が来たぞ! エクセター兵だ! そしてあれは、スティーブン殿の旗だ!」


 誰かの歓喜した声が聞こえる。

 村の入口あたりに見えるのはボールドウィン長官の軍勢と、スティーブンの紋章の描かれた盾を持ち、剣を突き出しながら馬を走らせるウィルの姿が見えた。

 それと同時に、そのウィルを狙うクロスボウがいることも見える。


「ウィル!! 避けろ!」


 その声に、ウィルが手綱を引くと、ちょうどその馬の首あたりに矢が「ズッ」と音を立てて刺さった。

 馬が高くいななくと、ウィルを振り落としながら、ドウっと倒れる。


「ウィル!」


 ルノーは必死にウィルの名前を呼ぶ。

 敵味方入り乱れる中、クロスボウから王子であるルノーを守るべくエクセターの兵たちが盾を掲げる。

 ルノーは、ウィルの姿を探そうにも、味方の軍勢に視界を遮られ、そのままウィルの姿を確認することが出来ないまま、その場から退去せざるを得なかったのだった。






*¹デウス・アイエ:ノルマン騎士の伝統的な鬨の声(バトルクライ)で、神の加護を確信して突撃する時の叫び



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