メガネへの愛と新たな決意
俺は王様達を出迎えて挨拶を交わすと、事情を説明する。
「すみません、今日は大勢のお客様に足を運んでいただいたため、店内に入れるのは整理券をお持ちの方だけなんです」
俺の説明に高らかな笑い声を上げたのはドリュエリオン様だった。
イケオジは笑うだけでもこんなに様になるのか……。
「これだけ支援をした我々が、まさか入店を拒否されるとはね、思ってもみなかったよ」
見れば、王様も唖然とした顔をしている。
う、やっぱ不敬だったかな……。
んでも今店に入ってる人は全員、すぐにでもメガネが作りたい人達ばっかりなんだよな。
「お使いのメガネに不具合がありましたら、すぐに対応させていただきます」
俺の言葉に、メガネの皆さんは揃って首を振る。
うん、王様の後ろで近衛騎士団長のカーマイドさんも首を振っているので、皆メガネの調子は良いみたいだな。
見回す限り、皆の顔には汚れのないピカピカに磨かれたレンズが並んでいて、安心する。
俺は開店の手伝いに来てくれたリオン様達に協力してもらって、先頭の人から順に聞き取りを行い、今日店内に入れるのはすぐにもメガネが必要な人だけに絞らせてもらっていた。
早い段階で並んでくれていたにも関わらず、メガネの必要度が低い人には整理券にマークを残して、明日以降の優先入店権と高い割引率を約束させてもらっている。
俺の話に、ルミリオス王子はとても感心した顔で頷いて、にっこり笑顔で言った。
「トーチカさんはやっぱり素敵な方ですね。わたしも、わたしと同じように困っている方にメガネを作ってほしいと思います。ですから、今日のところは引き返しますね」
わざと聞かせてるのかな? と思うくらいハッキリ響く高い声に、列に並ぶみなさんから拍手が上がる。
「まいったな、ルミリオスにここまで言われてしまっては、いかに出資者と言えども入りたいなどとゴネられないな」
いや、ゴネられては本当に困りますからね、フィンブランド王様……。
「ではまた日を改めて参ろう」
そう言ってスマートに引き上げてくださる王達に、列に並ぶ皆さんから割れんばかりの拍手が巻き起こる。
王様達には悪いことをしてしまったなと思ったけれど、これに関しては後からリオン様づてに「金も時間もほとんどかけずに国民の好感度を大きく上げられた。感謝している」という宰相様の言葉をいただいて、たくましいなと笑った。
王様達が帰って少しした頃、相変わらず外で列の整理を続けてくれていたグラ兄に「トーチカ、お前にお客さんだぞー」と声をかけられて、俺はまた店の外に出た。
そこには高谷が女性と並んで立っていた。
「来てくれたのか、ありがとう! けどごめんな、今日は中に入れなくてさ……」
俺の言葉に、高谷は明るく笑う。
「聞いた聞いた。知ってて来たんだ、お前の顔見たら帰るよ」
高谷の隣に立つ女性が、大きめのバスケットを差し出してくれる。
「開店おめでとうございます。これ、良かったら皆さんで食べてください」
そう言って微笑んでくれる男爵令嬢の彼女は、高谷の婚約者だ。
城で行われたパーティーの時に紹介されて、俺はかなりびっくりしたんだが、俺の婚約報告を聞いた高谷の方が俺の何倍も驚いていた。
差し入れからは良い匂いが漂っている。
「忙し過ぎて、誰も飯食えてねーんじゃねーかと思ってさ、簡単に食えるもん買ってきた」
言われれば確かに、俺達は誰一人、昼休憩を取ってない気が……。
マズイマズイ。初日からこんなにブラックじゃ、せっかくの人材が……っ!!
「あはは、んな慌てた顔しなくても、お前が休みなく働いてんのは皆知ってんだろ、初日くらい大目に見てくれるって。明日からスタッフにもちゃんと休憩とらせてやれよー」
いやいやいや、明日からと言わず今からでも交代で全員に休みを取らせねーとっ!!
俺は高谷とその彼女に頭を下げて、店内に引き返した。
***
すっかり日が暮れて、俺達はスタッフ達と共に近くの食堂に集まっていた。
ゼロ残業にしたいのは山々だったんだが、結局看板を仕舞えたのは予定閉店時刻の20分後で、そこから明日のために倉庫から在庫を出したり会計を閉めたりしていると予定就業時刻を15分過ぎてしまった。
いやしかし、こんだけメガネを作る側も作らせる側も慣れないメンバーで仕事にあたったにも関わらず、あの混雑の中で会計ミスがゼロなのは凄過ぎるだろ……。
さすが宰相様の選りすぐり人材だけあるな……。
何とか嵐のような初日を乗り切ったという戦いの後にも近い興奮と、目の回るような度数計算をこなしまくってグルグルになった脳みそで、席に着いた途端、とてつもない疲労感にテーブルにうつ伏せる。
「トーチカお疲れさんだなー」
「グラ兄も……ほんとにありがとな……」
今日グラ兄には、護衛という仕事の範囲外なことばかりさせていた気がする……。
「あまり力になれず、すまない……」
しょんぼりするリオン様に、俺はガバッと起き上がって答える。
「リオン様は最っっっ高の戦力だったので大丈夫ですっ!」
確かにリオン様とフラウレイドさんは開店を見届けた後、手伝えない事を謝りながらお屋敷に戻ってしまったが、整理券のほとんどはこの二人によって作られた。
何せハンコもプリンターもない世界だ。
全ては手書きだったからな……。
2号店や3号店を開く時には、ちゃんと事前に準備をしよう。
いや、元々整理券は作ってたんだよ。100枚な。
100枚あれば足りるだろうなんて思ってた俺が間違いだった。
結局1000枚近く配布したからな……。
リオン様とフラウレイドさんが日頃の書類仕事の腕を遺憾なく発揮して、素早くも美しく読める字で書いてくれたおかげで、店の看板に初日から傷をつけずに済んだ。
本当に大感謝だ。
大きな食堂のテーブルには、店のスタッフはもちろん、手伝いに来てくれたコルトもグラ兄の隣に座っているし、俺の隣にはリオン様とフラウレイドさんも並んでいる。
ちなみにヴァルさんは昼前くらいにメガネの魔導士団長さんが捕まえに来て、無理やり連れ帰らされていた。
「打ち上げにはまた来ます」と言っていたので、この後合流するのかも知れないな。
スタッフ達は俺より年上の人も多いのに、すっかり俺のことを店長店長と慕ってくれているし、スタッフ同士の仲も良くとても雰囲気が良い。
というか宰相様の人選がいいんだろうな。
頭の良い人って、まず人の嫌がることをしないんだな……と俺はこのメンバーを見て、改めて思う。
隣のテーブルには、今日一日店の警備をしてくれた王立騎士団の皆さんが座っていた。
そこにはグラ兄のお兄さんで騎士団長さんのハウンディさんの姿もある。
流石に騎士団長さん達精鋭の皆さんがついててくれるのは開店から3日間の予定ではあるが、まだまだ貴重なメガネが盗難にあったりしないよう、今後も国の一大支援事業であるうちの店には国から衛兵さんがつけてもらえることになっている。
……まあ、窓ガラスを割ろうとしたところで、俺の作った超強化ガラスは流星光雨災害にも耐える代物だから、そんじょそこらの武器では割れないんだけどな。
ワイワイガヤガヤと騒がしかった店内は、全員に飲み物が行き渡ると自然と静かになった。
皆の視線が俺に集まっている。
ちょっ、皆さん優秀すぎないか?
あれだけ、今日の反省点やこうすればもっとよくなるのでは? という話で盛り上がりまくっていたスタッフさんも、まだ話の途中だっただろうに全員口を閉じていた。
俺は皆の視線に促されて、木製のジョッキを片手に席を立つ。
えーと……。
「今日は皆さん本当にありがとうございました、お疲れ様です。ようやく初日を終えたところですが、明日からもこの店がメガネを必要とする全ての人の希望と安らぎの場となれるよう、皆で力を合わせて頑張っていきましょう! それでは、開店を祝して、乾杯!」
乾杯、の声が一斉に重なって、あちこちで、コン、コン、カコンッと木のぶつかり合う音がする。
スタッフ達と乾杯を済ませてから席に戻ると、隣から優しい声が、美しい微笑みと共に向けられた。
「ショウ、お疲れ様。開店本当におめでとう」
「リオン様……」
店内の明かりを受けて柔らかく輝くプラチナブロンドに、銀色の繊細なメガネ。
レンズの向こうから、労わるように俺を見つめるラベンダーの瞳。
ああ……、やっぱリオン様は良いよな……。
最高だよ……。
俺は可愛くて綺麗で優しい最高の伴侶の美しさをじっくり堪能してから、ようやく返事をした。
「……ありがとうございます」
リオン様はかなり遅くなった俺の返事にも、嫌な顔ひとつせず、それどころかどこか嬉しそうにクスッと可愛く笑ってくれる。
こんな風に一日の終わりにリオン様の笑顔を見る事ができると、明日も頑張ろうって気持ちになるなぁ……。
リオン様達がこうやって気軽にここに手伝いに来てくれたり、一緒に夕食を囲めるのは、なんといってもサーティラのおかげだ。
二週間前のあの日、俺は帰ろうとしたサーティラに頼み込んで、転移魔法陣の片側をリオン様へ届けてもらった。
おかげで今では、店舗2階の俺の私室とウィルトゥーズ領のお屋敷のリオン様の私室は、まるで隣の部屋くらいの気軽さで行き来できるようになった。
まあ、俺はあんまり魔力が多くないので、基本的にはリオン様が行き来してくれてるんだけどな。
「あ、トーチカ、そういや今日サーティラも店見に来てたぞ」
グラ兄の言葉に俺は「え? いつ?」と返す。
全然気づかなかったな……。
「午前中だなー。急に現れて、ふーんみたいな顔で店を外から眺めて、それで列の終わりの方を眺めてから、頭抱えて消えてったぜ」
……そんな一瞬見に来て終わりだったのか。
それは気づかなくて当然だな。
「なんかサーティラの顔見てビビってる奴が列に結構いたなー」
そういえば、飛来人の客も多かったんだよな。
『元々かけてたメガネ一本で頑張ってきたけどもう限界』みたいな人が多かったので、既にメガネをお持ちの方は点検修理枠として対応させてもらった。
優秀なスタッフさん達は、疲れを浮かべつつも明るい顔でワイワイ意見を交換しまくっている
「明日も忙しくなりそうですね」
「今日はとても手応えを感じました」
「人の役に立つ仕事だと、誇らしく思えたよ」
「明日は入店の際に……」
俺は、明日こそ彼らにちゃんと昼休憩を昼に取らせるぞと拳を握り締める。
「ショウ、どうしたんだい?」
俺が、今日は全員昼食が遅くなってしまった話をすると、リオン様の隣でフラウレイドさんが「では明日の昼には私が皆さんのお食事をご用意してまいりますね」などと頼もしいことを言ってくれる。
リオン様も「それがいいね」なんて言ってくれるので、最初の大混雑がおさまるまでは、昼にフラウレイドさんとリオン様がご飯を持参してきてくれることになった。
昼にもリオン様に会えるなんて最高すぎる……。
一応遠慮もしてみたんだが、リオン様の方は災害復興支援系の仕事も落ち着きつつあり、通常業務にプラスアルファ程度の忙しさらしい。
「私も、ショウの助けになりたいんだ。やらせてもらえないか?」
なんて健気な顔で言われたら、抱きしめたくなってしまうんだが!?
「本当にありがとうございます、助かります!」
俺は「皆、ちょっと聞いてくれ」と、すぐにスタッフさん達に昼ご飯の話をした。
優秀なスタッフさん達は買い出し当番を決めてその人が出られるように全員でフォローしようなどと相談していたようだが、リオン様の提案に大喜びしてくれた。
色とりどりのメガネをかけたスタッフ達の明るい笑顔に、俺も嬉しくなってしまう。
俺が笑うと、メガネをかけたリオン様とフラウレイドさんとグラ兄が、今度は俺が笑ってるのが嬉しいみたいな顔で笑ってくれる。
グラ兄の隣では、メガネではないもののコルトもニコニコしている。
そんな皆の姿が、どうしようもなく嬉しい。
俺はメガネが好きだ。
三度の飯より、この世の何より、大好きだ。
小学一年の春、初めてかけたメガネで俺の世界は変わったから。
俺のメガネへの愛は、異世界に飛ばされても決して揺らぐことはなかった。
……だけど今は、メガネの他にももう一つ、いや、もうひとり……。
違うな、もっとたくさん。
今の俺には、メガネに負けないくらい大切で大好きな人達がいる。
これからも俺は、この世界で、たくさんの人にメガネを作っていきたい。
大事な仲間達と、愛しいリオン様と一緒に。
最後まで読んでいただき本当にありがとうございました!
読者の皆様のリアクション、ブクマ、評価に日々支えられております!
いつもいつも、ありがとうございます!
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『読みました』で構わないので……コピペでも嬉しいので……。
人間が、読んでくださったんだなぁと……感動します……。
(Botが読んでも閲覧数は入るので……)
お気に入りのキャラやエピソードを教えていただけるのもとっても嬉しいですーっ♪♪
ではでは、ここまで皆様の大切なお時間をありがとうございました!
また次の作品でお会いできることを心待ちにしております!!
どうか、読者の皆様が今日も明日も元気に過ごせますように。
良音 夜代琴でした!




