ゲロインはお好きですか?
中世騎士っぽい鎧姿の人たちが、僕たちのことを邪教徒などと呼んで殺意を向けてきたわけですが、とんでもない誤解です。おそらく、邪教徒というのは人間蟲毒会場運営者たちのことなんでしょうが……困りましたねえ、もう死んでしまいました。
「あの、僕たち悪い人間ではありません」
僕は必死にそう主張しますが、リーダー格っぽい男の人が言うんです。
「黙れ! 貴様たちから怪しい気配がびんっびんっに伝わってきているぞ! どう考えても邪神教徒だろうッ!!! 今まで人を呪ったことはないと誓えるかッ!?」
「呪ったことは……ッ!」
「呪ったことはなんだ!」
「たくさんあります」
「よおし確保ぉッ!!!」
捕まる流れになってきました。抵抗しないといけませんが、悪人ではないようなので彼らを呪うのは僕のポリシーに反しますし……さて。
「ご主人、どうするつもりなの。馬鹿正直に本当のこと言って」
カナハ様が呆れた目で僕を見てくるので、僕も答えます。
「僕はエリートなので嘘がつけないんです」
「ゴミみたいな習性」
「どうしましょう」
「……はあ」
カナハ様は「高くつくからね」と言って、その可愛らしいお口に自分の腕を突っ込みました。かと思えばその細腕を引っこ抜き、ゲロゲロと金色の蚕糸の津波を吐き出しました。アニメーターに優しい綺麗な輝きを放っておりますので、わざわざ虹で隠す必要はありません。
カナハ様はそう――嘔吐系女子だったのです。
金色のゲロに飲み込まれた騎士団は身動きが取れなくなり、そのまま空中に持ち上げられていきました。
「うわあああああ!!!」
らん、らんらららんらんらん。青き衣を身に纏っていない騎士団たちは全て丸ごとクーリングオフ。そのまま青空の向こうへと流されていきます。
「なんだこりゃああああ!!!」
よりどりみどりの悲鳴が響き、僕はなんとなく嫉妬した――だって美少女(しかも蚕系女子)のゲロに巻き込まれるなんて体験、一度もありませんでしたから。
カナハ様がゲロ(糸)を吐き続けてしばらく、狐っ子こと白雪さんがもらいゲロをしたことで新たなゲロイン爆誕。もっとも白雪さんのゲロはほとんど胃液で透明だったので、これまた無修正で通ることでしょう。
カナハ様の壮絶な吐き下しが終わると、一面が金色の大地へと生まれ変わっていました。
ところでカナハ様って蟲毒最強選手権の王者だし、金色の糸も吐くし、これって実質『王●』では? でも『●蟲』と比べるとその体は柔らかそうですが。
なんて思っていると、カナハ様が「当分ここには来られない場所まで追い出した」と言って、自分で吐いた金糸をラーメンをすするみたいに飲み込み始めました。再利用する感じなんですね。エコですねー。質量保存の法則ってなんだっけ。
「おんぶして」
子どもみたいなことを言うのは金糸を回収し終えたカナハ様でした。涎を拭うみたいに口元に手の甲をやる姿がなんだかセクシー。
僕はすかさず確認を取ります。
「いいんですか?」
「二度言わすな。おんぶして」
まさしく蟲の王の器。カナハ様の言う通り。僕は人生でしたいことリスト100に入るであろう『美少女をおんぶする』の実績を解除することになり
「ふぉぉ」
革命です。僕の人生に革命が起きました。
カナハ様はふわふわ。
カナハ様は柔らかい。
蚕系女子の見た目通りの満足感に★5評価を出さずにはいられません。
「気持ち悪い声を出すな、ご主人」
おまけに耳元でダウナーな囁きもついてくる――★5じゃ足りませんなあこれ。
といったところで、僕らは歩き出すのでした。ふぅ!
ここはいったいどういう施設なんですかね。『邪神様』がどうのこうのというぐらいですから、神殿と考えるのが妥当なのでしょうか。
周りを見渡すと歪な五角形の壁に囲われていることが分かります。壁の内角には通路口らしきものがあるので、そこから外に出られそうです。
この空間自体についてですが……面積だけでいうと学校の運動場ぐらいの広さでしょうか。天井が吹き抜けになっているから、地面には草木……怪しげなキノコ類などもちらほら生えていました。人工と自然の狭間にあるような空間ですね。
「白雪さん、何か聞こえますか?」
僕はお腹をぐーぐー鳴らしている白狐少女さんに語りかけますが、彼女はふるふる首を振ります。狐の聴覚は凄い(雪の下にいるネズミに向かってジャンピン! して一発で捕まえるぐらい)ので、白雪さんもそうではないかと期待したわけです。
どうも人影が見当たらないので、邪教徒と呼ばれていた人たちは既に全員死んでしまったのかもしれませんゴートゥーヘル。
それにしても、人間の済む場所なのだから食糧庫が一つぐらいあってくれてもいいんですが、なかなか見当たりません。白雪さんが犬耳娘だったらもしかしたら嗅覚で食べ物を探れたかもしれませんが、世の中都合よくはできていませんね。
と、思っていたその時。
「あっ」白雪さんが耳をぴょこんとさせます。「だれかきます」
「邪教徒の生き残りですか?」
「わかりません……けど、ウマもいっしょみたいです」
「そこまで分かるんですか白雪さん! やりますねえ!」
「??? う、うん……!」
まさしく脅威の立体聴覚――これで未知の神殿探索にようやく道しるべが得られたというもの。
「ではさっそく向かうとしましょう。いいですか、カナハ様?」
「いいよ。でもあんまり揺らさないでね。吐いちゃうから」
「え……? 揺らしても(いいですか)?」
「ご主人は死にたいんだね」
「おお、死にたくありません」
カナハ様は蚕の例に漏れず繊細なようです。大切に扱わなければ早々に呪い殺されてしまうかもしれません。
さてさて白雪さんの後に続いて歩いていくと外に出ることができました。が、そこで僕らは奇妙な光景を目にするのです。
地に頭をつけ、村人A、B、C……X、Y、Zのみなさんが震えているではありませんか。そして彼らはそのまま叫ぶように言うのです。
「「「どうかお許しくださいませぇぇぇぇぇぇッ!!!」」」
何をですかね。
こうして、僕たちは窮地を脱した直後にわけの分からない新たな集団から全力謝罪を受けるのでした。
次回:新生邪神教団爆誕。ささやき女神(邪神)は綿織物をご所望です。




