騎士を殺す者
状況がまるで見えませんが、どうして推定聖騎士がまるで罪人のような扱いを受けているのでしょうか。
困惑する僕に、村人Cさんが教えてくれます。
「彼らは我々を救うなどとうそぶき、あろうことか邪神殿に無理やり殴り込んだ大罪人です」
Cさんがそう言うと、「そうだそうだ! 罰当たりな奴らめ!」などという声が一斉に広がりました。
Cさんは憐れむように続けます。
「しかし、邪神様のお力の前では彼らも無力だったのでしょうね……金色の波に押し流され、街の外に追放されたんです」
ああ、そういえばそんなこともありましたっけ(遠い記憶)。
「ですが、追放されたのならどうしてここにいるんですか?」
「つい先日、あの女だけがぼろぼろの状態で街の中に入ってきたのです。気絶していたので、我々の手で拘束しました」
つまり、騎士の皆さんの善意は街の人々にとって余計なお世話で、むしろ憎き敵も同然というわけだったんですか。悲しいですね。
「死ね! 異端者!」
こうしている今も、人々に石を投げられている女騎士は、恨み言ひとつ言わずに耐えています。
「くっ、殺せっ!」」
恨み言というか、耳なじみの良い台詞を吐いているといいますか。むしろ元気そうに見えるのは前世の記憶の弊害でしょうか……。
いやいや、冷静になれ乘絽衣架、エリートとしては見過ごせない場面ですよ!
「一般教徒の皆さん。一つお聞きしてもよろしいですか」
僕の言葉に、辺りはしんと静まり返ります。
「その騎士様は、皆さんを助けようとしたのですよね。であれば、その待遇はあまりにも酷というものです。違いますか」
あー、言ってしまいました。静寂が不穏に変わっていくのを感じます。何かがおかしい、奇妙だと、そんな心の声が伝わってくるようです。それもそうでしょう。なぜなら彼らは、邪心教団の庇護のもとで倫理観が麻痺しているに違いないのですから。カナハ様も耳元で「ご主人、どうするつもりだ」と冷ややかな声で囁いてきます。ひえ。
と、Cさんが膝を震わせながら僕を見上げて言います。
「ですが……彼らは教団を滅ぼそうと……」
Cさんの言葉に詰まる様子はまるで、飼い犬が飼い主のご機嫌を伺うようでした。一方で、瞳の奥には疑念が宿っているように見えます。「お前は本当にリーダー足りうるのか」と、そう言われているような気がします。
「そうですねぇ」
僕の発言はおそらく、邪神教団の指導者としてはあまりにも不適格だったのでしょう。
「ですが、そんなことはどうでもいいんですよ」
独裁政治を敷くのであれば、暴力を振るうべきなのでしょう。
「皆さんは何か勘違いしているんですね。罪人を磔にすれば僕らの機嫌が取れるとでも思いましたか?」
「い、いえ、その」
「生ぬるいと言っているんですよ」
「……は、え?」
かといって騎士の皆さんを殺すのはエリートな僕の魂が許さないですし、急激な浄化は一般信徒の皆さんにとっても酷でしょう。いつかは皆さんにも正気に戻っていただき、悪を許さぬ平和な街を築き上げたいものです。もちろん、悪に染まりきった人には消えてもらうつもりではありますが。
「今後、異端者の処罰は僕が直々に神殿にて行います。罪人を拘束した場合、神殿に運ぶようにしてください。勝手な私刑を行うことは許しません。もし違反した場合は、分かっていますね?」
今はこのあたりが落としどころでしょうか。
怖がらせすぎてもいけないので、僕はにこりと笑顔を見せます。すると皆さん息をのんで黙ってしまいました。だ、大丈夫でしょうか。きちんと分かっていただかないと困りますが……。
「勝手に殺したら、それ相応の対応をさせていただきますと言っているのですが、お分かりいただけましたか?」
ここでようやく、「ははー!!!」と声が上がります。これでよし!
そうだ、女騎士さんに安心していただかなくては。僕は彼女の耳元にそっと囁きました。
「あなたの命は、責任をもって僕が預かりますからねぇ(にちゃあ)」
「こっ、殺せぇぇぇっ!!!」
彼女の迫真の演技には脱帽ものです。身の安全を保証された上で恐怖を演出することができるなんて、さてはエリートですね。おかげで皆さん口々に「あな恐ろしや……」「やはり邪神様の預言者であらせられるのだ……」などと言っては畏怖の目で僕を見ています。ナイスです。
「で、本題は神隠しでしたね」
街に下りるまでに聞いたこととして、一般教徒の皆さんは自衛のための組織を編成しているそうで、今回はその組織……冒険者ギルド! のメンバーが神隠しに遭ったということでした。
女騎士に冒険者ギルド。ふふ、大変申し訳ないのですが、こうも立て続けにファンタジーな響きが耳に入ると、節度をわきまえたエリートでもわくわくしてしまいます。このところ和食続きだったので、まさか洋食が楽しめるとは思いもしませんでしたよ。
僕がしみじみしていると、Cさんが「あの……」と言いづらそうに歩み寄ってきました。
「我々は、今回の騒動の犯人がそこの女騎士の一派の仕業だと考えているまして……」
「……? 根拠はあるんですか?」
「い、今まではこのような行方不明者は現れなかったんです。この周辺にそんな手の込んだことができる魔物はいないはずですし、人間は騎士一派しか目撃していませんので……」
「なるほど、確かに一理ありますねえ」
僕は再び女騎士さんに歩み寄り、顔を覗き込み、尋ねます。
「あなた方がやったんですか?」
「ち、違うっ! 我々はそんなことはしない! むしろ我々は、この街の民たちを解放するためにここに来たのだ」
「解放、というと?」
「貴様ら異端からの解放に決まっているっ!」
「あなただけこの街に戻ってきたのは?」
「私以外、みな、殺されたからだ」
「……! 誰にやられたんですか!?」
「……くっ」
「誰なんですか!?」
なぜ言い淀むのでしょうか。言えないような事情があるのでしょうか。だったら、場所を変えてお聞きした方がよさそうですね。
「……リンだ」
「はい?」
女騎士さんが、声を絞り出すように何かを口にしました。ただ、上手く聞き取れません。不意に白雪さんが僕の手を強く握るので見ると、白雪さんは必死に首と尻尾を振っていました。聞かないであげてほしいと、そういうことですね。
白雪さんの意見を尊重しない僕ではないので、女騎士さんに「場所を変えましょう」と伝えた……のですが。
彼女は、今度ははっきりとこう言ったのです。
ゴブリンだ、と。
次回:騎士の覚悟




