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【呪1000PV】異世界×蟲毒 転生したらびっくりするほどユートピア(邪神殿)でした  作者: 木倉 ゲイボルグ


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騎士の覚悟

「我々は、たった一匹の、赤い頭巾をかぶったゴブリンに、やられたのだ……!」

「な、るほど?」


ものすごい剣幕なので何を言い出すのかと思いましたが、そういう特殊なゴブリンがいるんですかね? なるほどなるほど。ゴブリンは弱くて繁殖力しかないというイメージもありますが、昨今は色々なのがいますからねえ。


と勝手に納得していると、女騎士さんが続けます。


「気をつけろ……ゴブリンは斧を持っている……奴を討伐するまでは、決して街の外に出てはならない……戦える冒険者を数人集めた程度では決してかなわない……戦争を仕掛けるつもりで討伐にあたるのだ……!」


……。


……どうやら、事態は深刻そうですね。洋食がどうのと言っていた自分を殴ってやりたいところです。


それにしても、斧に赤い頭巾ですか。そういうファンタジー存在がいたような、いなかったような――


「ん?」


突然、周囲の空気が変わりました。何が起きたのだろうと見回すと、腹を抱える人や、口を押さえている人があちこちにいるではありませんか。


集団で吐き気を催したのでしょうか……!? これも特殊なゴブリンの攻撃!? だとしたらまずいですよこれ!


とっさに白雪さんを守ろうと思ったのですが、、なぜか白雪さんは自分の耳を手で折りたたんでいました。尻尾もすっかり丸くなっています。


警戒していた僕を襲ったのは、まるで予想に反したものでした。僕の口から思わず言葉がこぼれます。


「なにが、そんなにおかしいんですか?」


爆笑という言葉がこれほどまでふさわしいと思ったことはありません。老若男女が文字通り爆発したみたいに笑い転げています。空気までも笑っているように震えていました。


「ふむ」


この光景から察するに、この世界において、ゴブリンという生き物? は、それほどに下等で弱い生物ということなのでしょう。そして、それほどまでに弱い存在に負けた騎士団なんて、笑いものにするしかない、ということなのでしょう。


「くっ、本当なのだ……。奴に襲われたら、ひとたまりもないんだ……。だから私は、それを知らせるために戻ってきたんだ……」


女騎士さんは視線を落とし、歯噛みしていました。


つまり、この女騎士さんは、彼女がコメディアンでないのであれば、それを承知の上で僕らに伝えてくれようとした、ということになりますね。たとえ信じてもらえずとも、他者を救おうとしたのです。


「素晴らしい」


僕は彼女のことが、騎士団のことが好きになりました。正義の鎧を身に纏いながら、内面も正義でできているのでしょう。もっと話し合っていれば、友人にもなれたのかもしれません。


「ふぅ」


……これ以上、彼女の名誉を傷つけるわけにはいきませんね。止めるとしましょう。


「皆さん、お静かに――」


僕が一歩前に足を踏み出したその時、背筋が凍りました。


この凍える殺意から逃れるには、僕はあまりに距離が近すぎました。


なぜなら背筋を凍らせた根源は、僕が背負っているのですから。


(ウルサ)イ」


カナハ様の声が、僕の背中越しに響いてきます。


「黙レ」


たったそれだけです。たったそれだけで、一般教徒の半数以上が泡を吹いて倒れました。それは呪いというよりは、単なる殺気でしかなかったはずです。


……まずい。


こ、こーれはまずいですよ!! 前に死んだとき並みにヤバい感じがしますよーこれ! 呪いの矛先が僕に向いていないのに、死を感じます! ゆ、ユートピア案件です! レスキューレスキュー!


あ、カナハ様がかわいらしいお口を僕の左耳に近づけてきました。


「ねえ」

「はひ」

「あいつら殺そう」

「……すぅーっ」


どうしよう。返答次第では、これ、死にます。まったくカナハ様の逆鱗はどこについてるんですかねぇ(やけくそ)。


僕が死なない選択は簡単です。一般教徒の皆さんをあの世へお送りすればそれでおしまいです。が、ちょっと人が多すぎますし、冤罪があったら大変です。


僕は救いを求めて白雪さんの方を見ました。折りたたんでいた耳は元通りになっていますが、僕から目をそらしています。そして小さく一言、「カケル様以外の人間なんて、どうでもいいです……」とそっぽ向いたまま言いました。白雪さぁん?


と、僕の首に巻きついたカナハ様のか細い腕に力が……物理的な力ではなく、得体のしれない呪力が込められました。


「聞いてるの?」


力は全然強くないのに、縄で締められるみたいに苦じいです。


「……カナハ様は、どうしてそんなに怒っているんですか?」

「うるさかったから」

「……本当は、そうじゃないんでしょう?」

「うるさいなあ」


死にたいの? と、カナハ様に言われて、どこかの有名な曲が思い浮かびました。甘き死が、僕の耳の奥を突き抜けようとしています。


最後の救いを求めて女騎士さんの方を見ると、彼女は振り絞るように言いました。


「誰も殺すな……生贄がほしくば……私の命をやるから」


その声は小さくも力強いもので、意識を保っている一般教徒の皆さんにも届いているようです。


「頼む……お願いします……どうか……」


女騎士さんの目は、僕の背中にいるカナハ様をじっと見ていました。その目は虚ろで、意識が飛びそうになっているようです。


「分かったよ」カナハ様が言います。「死ぬより辛い目に遭わせてあげる」


カナハ様にしては珍しく、張り上げた声でした。その声を聞いてようやく女騎士さんは気を失ったようで、ぐったりと動かなくなりました。


カナハ様は一般教徒たちに呼びかけます。


「この女は君たちの代わりに地獄の責め苦を受けることになるよ」


それは極めて無機質な、冷たい声でした。


「よかったね」


……。


みなさん絶句。僕も絶句。つい先ほどまでの爆笑が嘘みたいに、皆さん口を閉ざしています。声を出さないように必死に両手で手を押さえる人、目に涙を浮かべている人、失禁している人もいます。僕も泣きたいですよ~。


まさか異世界初めての外出がこんなことになるとは、さすがの僕でも予想できませんでした。ですが、死傷者ゼロということで、一件落着でいいですよね?


「ご主人」

「はぃ」

「気分が悪い。帰ろう」

「……で、ですが神隠しの件は?」


いくらカナハ様がお怒りとはいえ、エリートの僕としては罪なき住民の危機を放置するわけにはいきません。たとえ、この命が


「かはっ……!」


僕の首に巻きついたカナハ様の細腕が、死神の鎌のようなプレッシャーを放っています!


「帰ります帰ります帰ります」


僕は一般教徒の皆さんに向かって努めて明るく、にこやかに呼びかけました。


「神隠しの件については女騎士さんに取り調べをしますので、しばしお待ちくださいね」


僕は明日の光を掴むため、戦略的撤退をしたのです。





次回:緊急クエスト ~女騎士を勧誘せよ~

最新話を追っている素晴らしき貴方へ

本作を広めるために貴方の呪い(ブックマーク&ポイント★)が必要です。

★1個でもモチベーションに繋がるので、どうぞよろしくお願いします。

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