電動マッサージ機(人力)
寝室では巨大ベッドの上で白雪さんと猫又さんが抱き合って寝ています。かわいいですね。二人の近くでカナハ様が綿織物をしゃわしゃわお召し上がり中です。相変わらず白目のヘブン状態。かわいいですね。
僕はといいますと、妖刀の持つ力の把握に努めています。
「うーん、ふつくしい」
美しいのはいいのですが、どうもこの刀、赤と青という色の違いぐらいしかないんですよね。マントがついたり目の色が変わったりと面白いギミックはあるんですけども、それ以上でも以下でもなく、実用性に欠けます。
抜刀および納刀という儀式を通じて力を発動するカナハシリーズ(僕が勝手にそう呼んでいる)ですが、【虚空】は花子さんの【雨憚】に比べるとその力の本領が未知数でした。正直なところ、攻めと守りのバランスが整った【雨憚】の方が使い勝手が良さそうです。隣の芝生は青く見えるというやつでしょうか。
ところでこの刀。わざわざ刀に問いかけてもらわずとも、自分で問いかけと応答をすることで自己完結できるようで。
「【選択の赤と青】――【赤】」
これで僕は怪人赤マントに変身というわけです。
……。
「カナハ様」
「なに」
「この刀って見た目だけ変わるんです?」
「さあ」
カナハ様いわく、刀は持ち主の能力を反映するということですが、まさしく虚空という名にふさわしく、見せかけだけの空っぽな力しかないのでしょうか。切った怪異の見た目を真似るとか、そういう力です。
しかし、そんな結論がすぐさまひっくり返されることになろうとは、この時の僕はまだ知らなかったのです。
まあ、そんな後から分かるようなことはどうでもよくてですね。
「ご主人」
不意にカナハ様がかわいらしいお顔を近づけ、血のような赤い目をかっぴろげて僕を睨んでくるではありませんか。
「死にたいの?」
えぇ……。あまりにも唐突な問いと殺意に、僕の足ががたがた震えます。いったい、僕が何をしたというのでしょうか。ただ、ここで返答を間違えたら死ぬような気がします。ゴートゥーヘルです。カナハ様はお嫁蚕ではありませんが、世の妻帯者のエリート男性の皆様はこういう時、どう対処するのでしょうか。
選択肢はいくつかあるのでしょうが――
その一、理由は分からないが謝る。殺されそうです。
その二、死にたくないと答える。死にそうです。
その三、反抗的な態度を取る。地獄を見そうです。
――ダメみたいですね。僕の勘がそう言っています。であれば、お怒りの原因を解明し、最善の答えを導き出すしかないということで・す・が。皆目見当もつきません。会話を引き延ばすしかありませんね。
ということで、僕は僕の口に任せることにしました。
「まだ死ぬことはできませんよ」
「どうして」
「僕にはまだ、やるべきことがありますので」
「ご主人は何をするべきなの?」
「巨悪を滅ぼすことです。怪人赤マントを滅したように、白雪さんのご両親を殺した連中や、善良な人々を苦しめる悪の集団を、滅ぼすことです」
「ならいいよ」
「……え?」
急にカナハ様の攻撃色が収まりましたが、どういうことでしょうか。
「あの、カナハ様。なんで怒ってたんですか?」
あ、うっかり聞いてしまいました。でも、カナハ様は怒っていない様子で、
「ご主人が手に入れた力に酔って、目的を見失っていないか不安だったから。ボクはご主人の願望のために生まれた。ご主人がその願望を忘れることは、ボクに対する裏切りだ。ボクを裏切ったら即殺す。当たり前だよね」
ということでした。
「なんだ。そんなことでしたか」
「そんなこと……?」
カナハ様の瞳の色が再び強く輝きましたが、ほんの少しだけしか怖くありません。
「だって、僕はその願いのために生きているんですから。手段と目的をはき違えるなんて、エリートじゃないでしょう?」
ここでようやく、カナハ様はふわりと妖しい笑みを浮かべてくれました。
かと思いきや。
「死にたいの?」
「えっ!?」
またもや殺意ゲージが高まっているではありませんか!?
げ、原因は?? 原因どこ??
足の震えが止まらないんですけど!
「あ」
原因いました。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛。お兄やんの足の振動がぎもぢいいにゃあ゛あ゛ん」
僕は猫又さんを足の甲に乗せ、ふわりと蹴飛ばしました。「あ゛にゃう゛ん」と奇声を上げた彼女は、華麗に四足でベッドの上に着地した後、気持ちよさそうに「はに゛ゃぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛」とのたうち回っているではありませんか。恐怖で震える僕の足をマッサージ器代わりにするとは、恐るべきケダモノです。
猫又さんが離れると、カナハ様の攻撃色が収まりました。分かりやすくて助かります。
「で、ご主人はこれからどうするの」
「そこが問題なんですよね。白雪さんのご両親の敵討ちをするにしても、敵がどこにいるのか分かりませんし。ドッペルゲンガーがうろうろしているのも目ざわりですし」
「情けないご主人だ。口先でかっこつけるばかり、具体的な方針が定まらない。それでどうやって巨悪を討つの? 怠け者のご主人だ」
「ひどい。じゃあカナハ様は何かいいアイデアがあるんですか?」
「行動するしかない。いつまでもこの神殿に籠っていても仕方がない」
「まあ、そうなりますか……」
カナハ様の言うことにも一理あります。僕らはあまりにもこの世界のことを知らないのですから、現状をより詳しく把握する必要があるでしょう。
停滞を動かすのも一歩から。周辺住民に聞き込み調査でもしましょうか。
と、思ったところのことでした。
「カケル様」
振り返ると、目をこする白雪さんが狐耳をピンと立てていました。
「人間が来ます」
次回:くっ、殺せっ!




