人を呪わば穴二つ。されど呪わずば穴一つ
ここはどこ? 私は誰? 私は僕こと乘絽衣架です。つい先ほどくそはげじじいと交戦(不戦勝)した後、転生しました。はずです。
今、僕の周囲には無限に広がる薄暗い空間しかなく、蟲毒を極めた僕が孤独を極めるという笑えない状況に「はっは」と乾いた笑いをこぼすしかありません。
ところで、閉鎖的なこの空間を見ると蟲毒の会場かなと思うのは僕だけでしょうか。しかもここ、床のあちこちに衣服の切れはしや白骨が散らばっているではありませんか。前世でもここまでの心霊スポットは見たことがありません。
まさか、本当に蟲毒最強決定戦会場……!?
それも、人間蟲毒……!?
さすがの僕もドン引きです。僕が蟲毒をするのはいいのですが、僕が蟲毒に参加させられるのはだめです、だめだめ。早々にこの空間から脱出するとしましょう。
と、思っていたその時でした。
「おおぉぉッ! 邪神様が光臨なされたぞッ!」
歓喜に震える声がしたかと思えば、天井がゴゴゴゴっと開いていきます。天岩戸かな? おいおい、まだ裸踊りする女の子を用意してもらっていないのに困ります。
などと不遜にも自分を天照大御神と同一視している内に、僕は大勢の黒装束を身に纏った人々に見下ろされていることに気がつきました。
「邪神様ッ! 邪神様ッ!」
「邪神様ッ! 邪神様ッ!」
「邪神様ッ! 邪神様ッ!」
「邪神様ッ! 邪神様ッ!」
邪神様……? 僕のことを言っている? 僕はアマテラス様じゃなかった?
ショックを受ける僕でしたが、前世でもここまで歓迎された経験はなかったので少し気分が上がってきました。天井が開いたことで青空が見えたのも大きかったかもしれません。
しかししかし、そんな僕のハイな気持ちを盛り下げる音がひとつまみ。
どす、っと何かが落ちてきました。それもそこそこ大きな何か。
見れば全身縄で縛られた女の子がいるではありませんか。なんと白い狐耳と白い尻尾が生えていますッ! ホッキョクギツネかな? 狐といえば九尾の狐――なんですがこの子……尻尾が一本しかありません。伸びしろの塊ですね。
「邪神様! どうぞその生贄をお召し上がりください! 朝から晩まで蹂躙するもよし、体の端から肉を喰らうもよし、お好きなようになさってください!」
……蹂躙? ……喰らう? ちょっとなに言ってるのか分かりません。何かの冗談でしょうか?
生きているのに死んだ目をしているケモ耳少女を見て僕は悲しくなりました。なので、一応この少女を投げ入れた人たちに質問してみることにしたのです。
「みなさんはいつもこういうことをされているのでしょうか?」
「はいそうですとも! この地では獣人は蹂躙と相場が決まっておりますゆえ!」
ああ、彼らはどうやら、僕が嫌いな人種のようです。転生初日に幸先が悪いのはなぜでしょう。僕ほど日頃の行いがよい人間は滅多にいないというのに。
「あの、すみません」
「どうされましたか、邪神様」
「僕は、あなたたちが嫌いです。ここから出してください」
「……は?」
ゴゴゴゴ、と天井が閉まっていきます。どういう仕組みなんでしょうねあれ。
完全にしまると、孤独な空間が再び戻ってきました。いや、今は二人だから孤独じゃありませんね。かといって二人で蟲毒をするわけにもいかないしどうしよう。
とにかく僕は、狐っ子の縄を解いてあげることにしました。
……ところで、狐少女の縄を解いていると殺生石のしめ縄を解いているような気がしてなんだかワクワクしてきました。
そうそう殺生石ってご存じですか? 九尾の狐が石に姿を変えたもので、近づく生物を毒をもって殺すという代物なんです。蟲毒もびっくり。
しめ縄にはそういう危険な場所や神聖な場所を俗世から区切る役割がありますゆえ、もしもこの狐少女さんが九尾の狐だとしたら、僕は九尾を世に放った大罪人になってしまうのでしょうか。まあ、つい少し前に殺生石が割れたというニュースを聞いた気がするので大丈夫ですよね。
なんてことを考えている間に縄が解けると、狐の女の子は何をされたのか分かっていないのか、僕のことを怯えた目で見てきます。死んだ目じゃなくなったのでよし。
さて解放したはいいものの、もう一段階解放される必要があるんですよねえ。天井は綺麗に塞がっているようですが、他に出口はな・い・も・の・か。
「ないですねえ!」
僕は諦めることにしました。この世に生まれたことを呪うしかありません。
そう、呪うしか。呪う……呪う?
僕は周囲を見渡してあることに気がつきます。白骨死体がたくさんあると。
「成仏なさいませ」
僕はそう言いつつ丈夫そうな太ももの骨を踏みつけ、てこの原理でぼきりと折りました。折っておきながらなんですが、折れるもんですか普通? ともかく新鮮な白骨ゲット!
ちょうどいい具合に先端が尖ってくれたので、それを使って他の散らばった骨を削って、削って、削って、削り――
~削ること数時間~
出来上がったのは骨人形&骨釘&骨ハンマー。『モンスターハン〇ー』してる気分になるね?
そんな気分上々な僕でしたが、不意に視線を感じました。
狐っ子が興味深げに僕の製作物を見ていたのです。やれやれ、しょうがないですねえ。
「先に呪う権利をさしあげましょう」
「のろう……?」
「え、呪いたいんじゃないんですか?」
「わかりません……」
……可哀そうに。誰かを呪う事すら知らないなんて、不健康にもほどがあります。人間の本質――いえ、生き物の本質とは他者を攻撃することにあるんです。人間は、誰かを呪わないと自分を保ってはいられない、そういう生き物なのですから。
「よし、僕が教えてあげましょうねえ」
僕は地面に置いた骨人形に骨釘をあてがい、骨ハンマーで叩きました。
ガンッ ガンッ ガンッ ガンッ
「獣人蹂躙ふざけんなッ! 愚かな人間ご臨終ッ!」
我ながら最高のフレーズです。もっとも、近所の神社の神主さんはこのセンスが理解できなかったようですけどね。僕が丑の刻参りをするたびにうるさいんですよ。この間なんて酷かったです。
『くらぁッ!!! 真っ昼間から丑の刻参りすなぁッ!!!』
なーんて言うんです。頭おかしいですよね……まったく。あなたの神社、深夜は閉鎖してるじゃないですかもう。
ああ、嫌なこと思い出しちゃいましたね。切り替えましょう。
「さあ君の番ですよ狐さん」
僕は目を丸くしている狐少女に骨ハンマーを差し出しました。困惑しているようでしたが、彼女は意を決したようにうなずきます。
ガンッ ガンッ ガンッ ガンッ
「ばかぁ! ばかぁ! ばかぁ! ばかぁ!」
「……素晴らしい!」
とても可愛らしいですが、これではだめです。だって世界はこの子と違って残酷なんですから。
「呪いを込める時は、半端じゃだめですよ。人を呪わば穴二つ。されど呪わずば穴一つ。自分に跳ね返ってくることなんか意にも介さぬ鋼の意思を持って――」
僕は狐っ子の手に自分の手を添えました。
「――打つべしッ!」
ガンッ!
「――打つべしッ!」
ガンッ!
「「――打つべしッ!」」
ガンッ!
「「――打つべしッ!」」
ガンッ!
……ふぅ、いい汗かきました。僕と狐少女が額の汗をぬぐっていますと、ゴゴゴゴ、という音が天井の方から聞こえてきます。
何事かと見上げますと、円に並んで僕たちを見下ろしていた悪人たちが一斉に「グボァッ!!!」と、口から血を吐き出したではありませんか。素晴らしい光景ですが、なーんで開けたんでしょうねえ。
こうして僕は、異世界にて怪しげな集団から邪神扱いされた後、狐娘さんとの初めての共同作業(簡易丑の刻参り)にて――怪しげな集団を全滅させたのでした。
次回:パーフェクト・ユートピアをかましたら要介護系ダウナー美少女が僕を「ご主人」と呼んできます。これって、ご褒美ですか?




