やっべぇの来たぁ……
異世界の神様というのは往々にして苦労人であり、世界と世界を繋ぐ仲介者であり、じじいか女神です。
僕こと乘絽衣架は得体の知れないプレッシャーを放つ未知の心霊存在あるいは神霊存在的な何かに呪い殺されたはずでした。
なのに今、目の前にはなんだか転生させてくれそうな雰囲気むんむんの神々しいじじいがいるのです。
じじいとエリート二人きり。真っ暗な空間で僕らだけが色づいていました。あと、僕とじじいを結ぶ一直線上には橋がかかったように真っ白な道が続いています。
「ああッ! 女神様ッ!」
じじいなんていりません! 僕が死後の世界に欲していたのは包容力のある豊満な女神様なんです(ロリおばあ様も可)!
ところで、なんでエリートである僕が初対面の老人相手に『じじい』なんていう野蛮な言葉を使っているか分かりますか?
そうです。このじじい、僕を見た瞬間ものすごく嫌そうな顔をしたんです。それこそ、明確な殺意すら伝わってくるほどでした。はっきり言って許せません。五寸釘と藁人形どこ? 呪い殺そう?
おっとじじいが何か言おうと口をもごもごさせ始めました。さっさと喋れじいさん。
「やっべぇの来たぁ……」
誰がやっべぇですって?? 決めました。このじじいをくそじじいにランクアップさせてやります。
くそじじいは相変わらず忌々しいものを見る目で僕を見ていました。
「どうしよぉ……こいつマジで転生すんのぉ……? その業、深くない?」
などと、意味不明なことを言っているくそじじいですが、どうやら僕を転生させる流れになっているようです。これはそう、ガンジス河よりも大いなる運命の流れなのでしょう。
「初めまして、くそじじい」
「黙れ。わしにはアスラ―ルっちゅう立派な名前がある」
「贅沢な名前ですねえ。どうでもいいので僕を転生させるなりなんなりしてください」
「こいつ、この世全ての悪を詰め込んだ化け物じゃね……?」
「失礼な。僕ほど他人に危害を加えないエリートは存在しませんよ」
「知らんがな」
「あと、人と話すときはちゃんと真っすぐ相手の方を向いてください」
「化け物が人の皮かぶって正論吐いてきよる……きっしょ」
くそじじいは散々僕の悪口を吐いた挙句、首を振りながら僕に向けて手をかざしました。
「どう見てもヤバイ奴にしか見えんが、ここに来たということは、転生するんじゃろうな」
「どうせならユートピアに転生したいです」
「贅沢言うな死ね」
「さっき死にましたよハゲ」
僕もいつかはハゲるでしょう。つまり、バカって言う方がバカ理論が僕にも成立してしまう前に、今のうちにたくさんハゲと言わなければもったいないということです。今ではないいつか、同じ罵倒を甘んじて受けましょう。
くそはげじじいは深くため息をつきますと、「よいよいよよーいよよーいよいよい」と何の意味もなさそうな呪文を唱え始めました。さらに悪人顔をしてみせたかと思えば、
「転生却下じゃぁぁぁぁぁッ!!!」
などと叫び始めたではありませんか。何を言っているんだこのくそはげじじいと思っていると、僕の足元に五芒星の魔法陣――忌々しい紫の輝きを放っている――が出現します。
五芒星とは紀元前から用いられてきた人類を魅了する星の図形★であり、強力な力を有しています。絵文字に呪術にデザインなどなど、ありとあらゆる領域で大活躍のお星さまですが、異世界の神? も使うんですねえ。世界共通ということでしょうか。逆さまになると逆五芒星になるなんて闇堕ち要素まで完備してるって、すごくないですかあ?
それはいいとして、このじじいの言語中枢が正常に働いているのだとすれば、僕は生まれ変われないということになります。
目の前に料理を出されて引っこめられて、「はいそうですか」なんてなりますか?
生きられるのならば僕は、生きますよ、もちろん。
「お」
じじいが苦悶の表情を浮かべ始めました。いい気味ですよーこれ。
「な、なんじゃこの強すぎる力は……ッ!!??」
「……ふ、なんですか? 僕、なんかやっちゃいました?」
正直何が起こっているのかまったくわかりません。僕は何にもやってません。ですがこういう時は嘘でもニヤリと笑って相手を煽ることが肝要なのです。古事記にも書いてあります。
さて、僕の身に何が起きているのかを冷静に分析してみるとしましょう。足元の五芒星の呪縛にどうも異変が起きているようです。
紫色の輝きがみるみるうちに黄金に染まっていくではありませんか。勝ち確演出にしか見えません。
じじいが憎々し気に僕を睨んできますが、そんな目をされる筋合い僕にはないんですけども。
「貴様ぁ……何者じゃあッ!!!」
「僕ですか? 乘絽衣架です」
「そういうことちゃうわッ! というかきっしょく悪い名前じゃのぉッ!」
「はっ? 殺しますよ?」
僕の両親を侮辱するのは死罪に相当します。
「いかん、ただでさえ得体の知れない怪物が世界に紛れ込んできたのに、こんな化け物が野に解き放たれては世界が壊れりゅぅぅッ!!!」
「失礼ですねえ、僕は一般的なエリートです。あとその『りゅぅぅ』っていうの、気持ち悪いですよ」
というかこのじじい、なんだか面白そうなことを言っていました。
「得体の知れない怪物ってなんですか?」
「貴様のように邪悪なオーラを身に纏う者どものことじゃ! わしらの世界に勝手に入ってきた怪異……! じゃからこれ以上、世界の秩序を脅かす存在を入れるわけにはいかんのじゃあぁぁぁッ! 破ァァァァァァッ!!!」
くそはげじじいが『ギャリッ〇砲』的な紫色の光線を僕に向けて放ちますが、僕にまとわりつく黄金の光によって阻まれていました。『スーパーサイ〇人』になったようで気分がいいです。
ですが、そろそろ飽きてきました。別に転生しようがしまいがこの際どうでもいいのですが、いつまでもこの何もない空間にいると気が狂いそうです。
あ、じじいの背後に巨大な光の扉があるじゃないですかいつの間に。勝手口はそこなのでしょう。
キュピッ、キュピッ、と足音を立てながら僕はギャ〇ック砲をものともせずに進んでいきます。エリートな僕の前では、神的なくそはげじじいでも太刀打ちできないようです。
僕はじじいの横を通り過ぎ、背中に低周波マッサージ機をかけられているような感覚を味わいながら巨大な扉の前に立ちました。
「いってはいかぁぁぁぁぁんッ!!!」
安心してください。僕はいつだって秩序側の人間ですから、この先の世界をどうこうするつもりはありません。じじいはどうも誤解をしているようですね。僕ほど善なる存在はいないというのに。
扉が勝手に開くと、体がふっと軽くなるのを感じました。これが、生まれ変わるということなのでしょうか。
そうそう、大事なことを忘れてました。
「転生特典とかあります?」
「あるかボケェッ!!!」
こうして僕は、死後の世界? にて、神的なじじいと交戦(不戦勝)し、異世界への扉を通り、転生するのでした。
次回:転生したら邪神扱いされました。狐耳少女を生贄にされても困ります。




