びっくりするほどユートピア
「びっくりするほどユートピアァァァァァッ!!!」
ご近所の皆様、いきなり爆音で叫んでしまい、ごめんなさい。
びっくりってなんだよ、ユートピアってなんだよ。
って、思いますか? 僕もそう思います。でも、これ以外もう方法がないんです。
「びっくりするほどユートピアァァァァァッ!!!」
盛り塩もしましたし、お経も試しました。どこぞの霊能者の皆様方にもたくさんたくさんお金を積みました。結果、詰みました。
今、僕の背後には得体の知れない何かが憑りついています。少なくとも、今までに体験してきた怪奇現象とはまったく次元が異なるレベルの脅威を感じています。
冷たく、暗く、じっとりと、覆いかぶさってくる圧倒的な気配。
これ、死にます。
いったい僕が何をしたというのでしょうか。興味本位でインターネットの掲示板で怖い話を冷や汗かきながら漁ったり、津々浦々の心霊スポットに踏み込んだり、ひとりかくれんぼしてみたり、その他もろもろしただけじゃないですか。こんなの誰でもするじゃないですか? 義務教育ですよ。
「びっくりするほどユートピアァァァァァッ!!!」
誰かを害することもなく、一般エリートとして無難に生きてきた僕が、どうして死なないといけないのでしょうか。むしろ、世のため人のためになるように、振舞ってきたつもりです。
「びっくりするほどユートピアァァァァァッ!!!」
その結果がこれって酷くないですか? 人を呪わば穴二つとかいう糞の役にも立たない戯言はやめてください。それって、正論ですよ?
心霊現象相手に正論なんて糞の役にも立ちません。今の僕に必要なのはそう――
「びっくりするほどユートピアッ! びっくりするほどユートピアッ!」
――インターネット発の狂った呪文だけです。
「びっくっ、かはっ……りこふっ……ユト……ピア……」
ああ、もだめ。死にます。なんか息ができなくなってきました。
死にたくない……死にたくない……。
今死んじゃったら……今死んじゃったら……。
現在進行形で開催中の蟲毒最強選手権の決着が着かないじゃないですかぁ!
さて、蟲毒についてご説明しましょう。この古代中国発祥のイカレタ呪いは一つの容器に百匹の生物をぶち込んで喰い合わせて最強を決めるという極めて伝統的な無差別級トーナメントです。現在は世界各地の個人宅でおそらく開催中。
ですが、僕の蟲毒最強選手権をそこらの蟲毒と一緒にしてもらっては困りますよ!
僕の蟲毒は百種類の生き物をそれぞれ百匹分用意し、同種における最強を決めた後にさらなる最強を決めるという、いわば100×100の万蟲苦博覧会形式でありまして、日本では僕しかやってません(諸説あり)。
そんな蟲毒最強選手権の勝者を見届ける前に死ぬなんてありえない……!
心の中で『びっくりするほどユートピア』を繰り返し、僕の足は万蟲苦博覧会会場(地下室)へと向かうのです。
動け、動けよ我が足よ。ああ、僕もムカデみたいに足が百本あればいいのに。なお、ムカデは百足と書いてムカデと読むのに必ずしも百本足ではない模様(三百本超えたりするらしいです。by インターネッツ)。これって詐欺ですよ。
いやいや、ムカデに罪はないんです。罪があるとすればそんな名前をつけた古の怠惰な人々……さんと百本数えてからムカデと名づければ良いのに。
あれこれ考えているうちにたどり着けました地下室。
誰だ、誰だ、勝つのは誰だ……!
僕は世界最高の瞬間をこの目で見届けてから死ぬ……そうでなければこの魂、怨霊となって世界を呪います……!
「あっ、あっ、あっ、あっ……!」
勝ったのは――
「――誰です!??」
見るも無残な戦場跡地(水槽)の中には知らない蟲がいました。ぴっかぴかの金色に輝くゴールデン芋虫。それは蚕に似ているようなのですが、そんな雑蟲、入れた覚えがないんです。
(ま、まさかこれは金蚕!??)
なかなか死なねえなこいつ、などとお思いのあなたにも説明しましょう。
蟲毒によって最強決定戦をした際に、ごくごく稀に金色の蚕に似た芋虫が生き残ることがあるのです。それが金蚕。
金蚕がどこから来たのって? 知りません。僕の知識の大部分はインターネッツでかき集めた無責任で雑多な知識の集合体なのですから。つまり僕という存在も蟲毒なのでしょう。
さて金蚕の呪いは飼い主を殺せるほど強力で、しかも飼い主が金さんを殺すことはできないときてます。一方で、高級な物を食べさせている内は使役者に富をもたらす、らしいです。
本音を言えば、ぽっと出の乱入者に優勝をかすめ取られたような感覚はぬぐえませんが、死ぬ前に結果を見届けることができてよかったですよ。
……。
これで、僕の目的が少しでも達成されればいいんですけどね。
ところで、水が飲みたいという死にかけの人間に水を与えてはいけないのは与えることが生きる気力を奪うことになるからだと聞いたことがあります。ですが僕は、満足すればいつ死んでもいいじゃないかと、思うん、ですよね。
そう、ここ、こそが、僕に、とっての、ユート、ピア――。
乘絽衣架。
ユートピア(万蟲苦博覧会)にて、
正体不明の呪いにより死亡。
金蚕から放たれた黄金の光に包まれ――
――転生開始。
次回:やっべぇの来たぁ……
素晴らしき読者の貴方へ
「とりあえず続き読むか」「なにこれ」と思ってくださったら、
ぜひ最新話下部の作品フォローと評価★で呪ってください。
この上ない励みになります……っ!




