悪役はクズに限るんですよねえ!
「これはどういうことでしょうか。簡単に見つかるという話だった人間蟲毒会場のスイッチが見つかりません。これは察するに、狐に化かされた、というやつでしょうか。まったく恐ろしい子です。ここまで頭が回るとなると、将来は本当に恐るべき存在になってしまうかもしれません。そう考えると、伸びしろがまだまだ大きい今のうちに殺してしまうのがいいでしょうか――」
――ねえ、白雪さん?
「まったく、何を言っているんですか君は。僕とは似ても似つきませんね。ボクが白雪さんを殺すわけがないじゃないですか。白雪さんはいつか九尾の狐となって、ご両親の仇を討つんですよ。それまで僕が守ると決めています。だから、いい加減僕らの前から消えてください――」
――ドッペルゲンガー。
神殿中央、閉じられた人間蟲毒会場の上で、僕にそっくりな怪異が気持ちの悪い笑顔と気持ち悪い声で僕らを出迎えました。
ほ・ん・も・の! の僕は、みんなに振り返ります。
「ねえ、全然似てないですよね?」
カナハ様、白雪さん、花子さん、猫又さん、それぞれの反応は――
「ご主人そっくり。気持ち悪い」
「……」
「うげえ、乘絽衣カケルが二人いる」
「双子にゃんねえ」
――最低なものでした。白雪さんだけが僕の味方です。
それにしても、白雪さんに抜かりはありませんでしたね。あえて人間蟲毒会場の開閉方法を教えたのが、まさか盗聴を考慮した上でのブラフだったなんて。白雪さんは僕の影に隠れて怯えていますが、白雪さんの方がよほど怖いです。
さてさて、おかげでさらに分かったことがあります。
ドッペルゲンガーはどこからでも盗聴できる、ということが。
最低の変態ですね。
「カナハ様、あいつ突然消えたり現れたりして本当に厄介なんですよ。なんなんですかねいったい」
「さあ? でも殺すのは危険かもしれないよ」
「なぜです?」
「多分、あれはご主人と本質的に同じ存在だから」
「あんなのとですか!?」
「あ、消えた」
「うそ……」
カナハ様の言う通り、ドッペルゲンガーはまたもや一瞬で視界から消えていました。い、いらいらしますよーこれ。わざわざ出迎えなくてもいいのに喋りたいことだけ喋って消えるなんて……悪役はやられるから悪役足りうるんですよ……?
「はあ」
落ち着け乘絽衣架。僕はエリート、あんな偽物に振り回されても仕方がありません。今回の本命は別にいるんですから。
「白雪さん、お願いします」
「はい!」
元気いっぱいの返事と共に、白雪さんは小走りで人間蟲毒会場入口から少しばかり離れた地面の上に経ちました。おもむろに素手で土を掘り始めること数秒、「いつでもいけます!」と誰にも見えないように何かを隠して言ったのです。
油断も隙も無いその姿勢、素晴らしいですね白雪さん。
「花子さん、準備はいいですか」
「一応人間のあんたが怪異の心配するの? まあ、いつでもいけるわ」
「一応じゃなくて人間です。エリートがつきますが。カナハ様は――」
見ると、金蚕少女がぐったりしています。刀を吐くのに力を使い過ぎたのでしょうか。
「――白雪さんと待っていてください」
……実を言うと、僕にはなんとなく『こうではないか』と考えていることがあるんですよね。それは、『カナハ様本人は直接相手に対して強力な呪いを行使することはできないのではないか』、あるいは『呪いを行使した場合に代償があるのではないか』ということです。
金蚕蟲の呪いはそもそも、金蚕が排泄した糞を飲食物に混ぜて対象に飲ませるというもの(あれ、この刀って、カナハ様の排泄物ってこと!?)ですから、この場合における呪いの行使者は、あくまで金蚕を誕生させた僕本人ということになります。仮にカナハ様が直接呪いをかけられる対象がいるとすれば、あくまで金蚕蟲を行った僕ただ一人、という可能性もあるのではないでしょうか。
まあでも、カナハ様は普通の金蚕とは違って成虫なのでちょっと違う可能性もなきにしもあらずですか。
いずれにせよ、カナハ様は僕と花子さんに戦うための武器を授けてくれたのです。その期待に応え、黙って刀を抜くのが作法というもの。
僕が目くばせすると、白雪さんはこそこそ手を動かし始めました。やがて地鳴りがすると、人間蟲毒会場の扉が開いていくのでした。
二度と同じ手は食わない。
赤マント――否、青マントは天井の扉がただ開くのを待っていた。存在するはずのない自分と同一の存在が、赤マントが殺された時の記憶が、脳裏に焼きついていたからだ。
『君が救いようのない悪だからですよ』
感情らしい感情の見えない目が、自分を見ていた。青マントの目には、乘絽衣架が自分と同種の人間に映っていた。初めての出会いだった。なのになぜ彼が自分を害するのか理解に苦しんだ。
いつもそうだ。ぼくは何も悪くないのに、周囲が勝手にぼくの世界を汚す。踏みにじったのはそっちだ。ぼくは悪くない。
今度はぼくが殺す。今度はぼくが殺す。今度はぼくが殺す。今度はぼくが殺す。今度はぼくが殺す。今度はぼくが殺す。今度はぼくが殺す。今度はぼくが殺す。今度はぼくが殺す。今度はぼくが殺す。今度はぼくが殺す。今度はぼくが殺す。今度はぼくが殺す。今度はぼくが殺す。今度はぼくが殺す。
「いましたねえ、怪人赤マント。いえ、今は青マントですか。赤い世界では目立つ色で助かります」
男のあざけるような声が、死体の山が築かれた空間に響き渡る。
乘絽衣架だ。乘絽衣架がこちらを見下ろしていた。その目は大きく見開かれ、口元は歪んだ笑みを浮かべている。その背後は夜の帳が降りたように暗い。
彼は躊躇なく山頂に飛び降りると、何人かの遺体が転げ落ちるのも気にせず、青マントを見下ろして言った。
「今度は君が、この山の礎になる番です」
青マントは、自分が何を言われているのか分からなかった。なぜ自分がそんなことを言われなければならない。ぼくはただ、奪われたものを取り返そうとしただけだ。
「これを見てどう思います? まあ、君が殺してきた人間の数よりも遥かに多いと思いますが」
乘絽衣架の言っている意味が、青マントにはまったく分からなかった。
ぼくがぼくは誰よりも頑張った汚された赤取り戻すために殺したぼくを殺した品性の欠片もないあの女が女共がぼくの世界を綺麗な世界を壊した壊された笑いながらぼくを侮辱したぼくはだから嫌いなんだお前らがだから
「こんなに少ないわけないだろ」
ばぁーか。
次回:VS青マント




