赤マントに殺された少女
「赤はどうした赤はッ!!! 僕は赤いのが欲しいんですよッ!!!」
これって、犯罪ものですよ。
「話が違うでしょ話がぁッ!!!」
悪名高い怪人赤マントが、よりにもよって赤を問わないんですから。
「赤だと言っているんですよ。ほら、僕を血祭りに上げてくださいよ。血の赤で世界を染めて見せろ。ほら、早く」
僕の呼びかけに、赤マントは答えます。
《青イマントガ欲シイカ?》 《青イマントガ欲シイカ?》 《青イマントガ欲シイカ?》 《青イマントガ欲シイカ?》 《青イマントガ欲シイカ?》 《青イマントガ欲シイカ?》 《青イマントガ欲シイカ?》 《青イマントガ欲シイカ?》 《青イマントガ欲シイカ?》 《青イマントガ欲シイカ?》 《青イマントガ欲シイカ?》 《青イマントガ欲シイカ?》 《青イマントガ欲シイカ?》 《青イマントガ欲シイカ?》 《青イマントガ欲シイカ?》 《青イマントガ欲シイカ?》 《青イマントガ欲シイカ?》
違う違う、そうじゃない。
「僕が欲しいのは、赤いマントなんですよ」
だんだん自分の呼吸が荒くなっていくのが分かりました。もう、このトイレごと中にいる外道を壊してしまえば良いのでは? そう思って、カナハ様からいただいた刀を握り、深く息を吐きます。
「ご主人、落ち着いて」カナハ様がその柔らかい手を僕の頬に添えて言いました。「確かに状況はあまり良くない。でも、この赤マントは自分に課していたであろうルールを破った。その代償は小さくないはずだよ」
そうかなるほど。どんな儀式にもルールがあります。呪いにしても、誤った方法で呪えばそれ相応の跳ね返りを受ける――人を呪わば穴二つ、正しく呪わずば大穴一つといったところでしょうか。
都市伝説に登場する怪異の不可解な行動を呪いの儀式として捉えたなら、なるほど確かにただでは済まないことでしょう。ですが――
「今は赤マントに代償があったところで何の意味もないじゃありませんか。重要なのは白雪さんを助けることです」
「なんだ。分かってるじゃない。だったらどうしてそれをしないの」
「白雪さんのいる場所に行けないからですよ」
「じゃあご主人はどうやってこちら側に戻ってきたの」
「それはトイレの花子さんに助けて求めて……あっ……」
エリートの僕としたことが……すぐにそのことに気がつかないだなんて……!
赤い世界からトイレの花子さんを通じて元の世界に戻ってこられたということは、元の世界からトイレの花子さんを通じて赤い世界に行くこともできると考えるのが妥当ではありませんかあッ!
「カナハ様、気づかせてくれてありがとうございます」
「別にいいよ。だけどねご主人。怪異を相手にしようとするなら、いつも冷静でいないと。憑り殺されちゃうよ」
「……はい!」
「ご主人を呪い殺すとしたら、それはボク以外ありえないのだから。勝手に死なないでね」
カナハ様は冷たく笑って僕の頬に人差し指を突き立てます。僕はそのか弱い手をそっと包み込み、「もう死んでるんですけどね」と笑って返しました。
急いで花子さんがいるトイレまで駆けつけた僕らは、3番目の個室の前で「花子さん、いらっしゃいますか」と呼びかけます。しばらくして「いないわ」という返事が返ってきたので、
ドンドンドンッ!!!
と、僕は太●の達人になった気分でドアを叩きました。
「開けてくれないと毎日このドアで丑の刻参りします」
「ほんと性質悪いわね……あんたが怪異なんじゃない?」
というわけでやっとドアが開きました。白いブラウスに赤いジャンパースカートの目隠れ少女が立っています。
怪異に怪異呼ばわりされて満更でもないわけですが、今は悠長に喜ぶわけにもいかないというもの。僕は現状を花子さんに理解してもらえるよう、エリートな説明をしました。
「白雪さんが赤マントの世界に神隠しなんです!」
「なるほどね。それでアタシのトイレからその赤い世界とやらに行きたいってわけ」
さすがの説明力のおかげで花子さんも瞬時に理解したようです。これでようやく白雪さんを助けに行けます……!
「断るわ」
「ありがとうございます!」
……え?
「今断るって」
「言ったわよ。断る」
「は……? えっと、なぜ……なにゆえ?」
「別に、どうだっていいでしょ。どうしてあんたの都合のためにそんなことしないといけないわけ?」
「それ……は……だって僕らは友人じゃないですか!」
「友だちって、都合よく相手を利用する関係なの?」
「……ぐかはっ」
あれ、友だちってなんでしたっけ? 僕は抱きかかえているカナハ様に目で『助けてください』と訴えました。するとカナハ様は目を細めて「やれやれ、本当にご主人は友だち0人なんだから」と僕の胸の奥の方をちくちく突き刺してきます。泣いていいですか。
「ご主人はもっと相手の心を推し量るべきだ。花子さんがどうして断ったのか、相手の目を見てよく考えなよ」
「それが目隠れさんで見えないんですよ」
「……」
「……」
「花子さんは本当は助けたいと思っている。でも、助けられない。それにはちゃんと理由があるんだ」
「理由ですか……?」
「ご主人の話を聞いていて、ずっと不可解なことがあった。でも、さっきの花子さんの反応で確信したよ」
カナハ様は花子さんを見すえました。
「ねえ花子さん。言ってもいい?」
「あんた、何が分かるのよ」
「だめとは言わないんだね」
「……」
カナハ様はいったい何を言おうとしているのでしょうか。僕にはただ見守ることしかできませんでした。
「白雪を早く助けないといけないから、手短に言うよ。花子さんがご主人を助けたのは、ご主人が何に追われているのかをその時はまだ知らなかったから。白雪を助けないのは、それが何かを知ってしまったから。ご主人を追いかけていたのが、白雪を追いかけているのが、赤マントだということを知ってしまったから」
カナハ様は間を置かずに続けます。
「花子さんは、赤マントに殺された少女なんだよ」
花子さんの息をのむ音が、やけに大きく聞こえるのでした。
次回:不意打ち




