話が違うでしょ話がぁッ!!!
蚕カワイイ金羽織姫様ことカナハ様をお姫様抱っこしていると、スーパーマ●オになった気分ですねえ! あれ、●リオってお姫様抱っこなんてしてましたっけ? なんて、そんなことを考えている場合ではないんですが。
狐カワイイ白雪さんがですよ。もしも、もしも赤マントに目をつけられてしまったら、赤マントの問いかけに答えてしまったら――
「僕が殺します」
その先を考えるよりも先に、殺意が口から漏れ出しました。どんな経緯で生まれた怪異なのか、その本当のところは知りようもありません。ですが、その本質が力なき少女たちを蹂躙する鬼畜であれば、容赦はしない。
多分ですけど、この世界に人を殺してはならないという法律はありませんよね。あったら少し困ります。前世では殺しは愚か暴力も法律で禁止されていましたから、手も足も出ないことが多かったんですよね。
……。
ああそうか。わざわざ法律を気にせずとも、赤マントは怪異でしたね。怪異に人権はありません。だったら法律とか関係なく葬ってもいいということですか。なるほどなるほど。
そういうわけで、僕は赤マントを殺します。具体的にどうするか……というのは全然分かりませんが、とにかく殺します。
「ご主人、呪いが漏れてるよ。呪力も体力と一緒なんだから、ちゃんと制御して」
カナハ様にそう言われて、僕は自分の体からどす黒いもやがあふれていることに気がつきました。これが呪力……!
カナハ様は虚ろな目で僕の顔を見て言います。
「ご主人は誰をどうやって殺すつもりなの」
「怪人赤マントをなんとかして殺します」
「なんとかって?」
「それはこう、エリート的な発想で」
カナハ様は呆れた目で僕を睨むと、「本当にだめだめなご主人だ」と言ってから、人差し指と中指を自分の口の中に突っ込んだではありませんか。そして苦しそうに嗚咽を繰り返した後、「うべぇ」と何かを手に吐き出します。
「カナハ様!?」
なんとカナハ様の口の中から飛び出したのは一振りの刀でした。装飾のない漆黒の鞘、金に輝く鍔、内側から凄まじいプレッシャーを感じます。
僕がカナハ様の口から漏れた涎を拭って差し上げると、カナハ様は「ありがとご主人」と言ってから「ふぅ」と疲れたため息をつきました。
「ボクの腕は繊細だからこんなの振れないけど、ご主人なら振れるでしょ」
「カナハ様……僕のためにこんな見事な刀を……!」
カナハ様が吐き出した黄金色の刀は、素人目にも素晴らしいものだと分かります。ああ、恐れ多くも神代三剣か天下五剣に加えたい。
そうそう、某SF作品に登場するヒロインが妖刀を振るう姿に感銘を受けて以来、前世の僕は毎日のように模造刀を振るっていたんですよね。その成果が今ここで発揮されるということですね分かります。
「妖刀【虚空】――ボクの分身だと思って、大事に大事にしてね」
どうしてうなずかないことがありましょうか。僕はキツツキもびっくりなスピードで空に頭突きを繰り返しました。
「ご主人ってこういうの好きだよね」
「え、好きじゃない人なんているんですか?」
カナハ様に対するあふれんばかりの感謝を口からゲロりながら、僕は急いで赤マントがいるトイレへと向かうのでした。
白雪さんの綺麗な残穢はトイレまで続いていたのですが、白雪さんの姿はありません。
「ご主人。3番目のドアから血なまぐさい匂いがする」
僕にはさっぱり感じ取れない匂いを、カナハ様は触覚を使って感じ取っていました。蟲はすけべな匂いを感じ取るのに優れていると聞きますが、カナハ様の場合は呪力を嗅ぐことができるんです。
「白雪さんの匂いはどうですか」
「残り香はある。でもここにはいないね。少なくとも、この世界では死んでないよ」
この世界では。その言葉の意味が分からない僕ではありませんでした。
「じゃあ白雪さんは赤マントの問いかけに答えちゃったんですか!?」
「そう考えるのが妥当だね」
「いったいどうして……白雪さんはそういう怖そうなことからは身を引く賢さがあるのに……!」
「さあ。ご主人はどう思うの」
……白雪さんは僕を探した。そして白雪さんの賢さを信じるなら、彼女は僕が神隠しに遭ったのだと察して、あえて答えたのでしょう。
赤か、青のどちらかを。
「白雪さんは、僕を探すために、危険を犯した……」
「既にご主人がこちらの世界に戻ってきているとも気づかずに、入れ違いでね」
「……」
「……」
……あれ? でもおかしいですよ。だって白雪さんはとても耳がいい。白雪さんが本気で僕を探していたというのであれば、僕がトイレの花子さんに回収してもらった時点で、僕の声を聞き取れたはず。白雪さんは僕の声や足音を聞き取れなかったから、赤マントの問いかけに答えたと考えるのが妥当です。
ですが、そう考えるともっとおかしい。なぜなら、白雪さんは僕が赤マントに追いかけられているまさにその時に、別の赤マントの問いかけに答えたということになりますから。
「赤マントがもう一人いる……?」
そんなことがありえるのでしょうか。話が飛躍しすぎています。
僕が自分の考えを整理しきれずにいると、カナハ様が答えを示しました。
「白雪は優秀だね。賢く、勇敢で、とても愚かだ。ご主人が教えた霊視を応用して、残穢を聞き取ったんだよ。ご主人と赤マントのやりとりを聞いて、その問いかけに答えた」
「それによって、本来存在しないはずのもう一人が確立してしまった……? でもそんなことってありえるんですか……?」
「ありえないことを成すのが怪異だよ。それに、ドッペルゲンガーの件もあるでしょ。もう一人のご主人がいたように、もう一人の赤マントがいても不思議じゃない」
「……そうでした」
つまり、全ては僕の責任ということです。僕がドッペルゲンガーのいいようにされなければ良かった。僕がもっと早く、こちら側に戻っていれば良かった。それができてさえいれば、白雪さんが危険を冒す必要はなかったんです。
でも、白雪さんはどうしてそこまでして僕を追いかけようとしてくれたのでしょう。いや、今はそれを考えても仕方ありません。
「はは」
自分でもどうしてか、笑いがこぼれてきました。何かがおかしかったのか、それとも自分の不安を誤魔化すためだったのか。
分かりませんが、僕はそのまま笑うことにしました。
「爆弾処理班よりはましですね。爆弾に繋がる赤い導線と青い導線、どちらを切るかで迷う必要はないんですから」
僕がそう言って刀を振ると、カナハ様は小首をかしげて口元を緩めます。
「間違って赤い導線を切らないでね、ご主人」
僕はカナハ様と微笑を交わしそして、まだここにいるはずのもう一人にこちらから問いかけたのです。
「そこにいるんでしょう。早く問いかけてくださいよ。赤か、青か」
3番目のトイレにいるはずの、本物の赤マントの問いを、僕らは待ちました。
《青イマントガ欲シイカ?》
しかしその問いは、あまりにも不完全だったのです。
次回:赤マントに殺された少女




