VSトイレの花子さん ~能力バトルなんて聞いてません~
トイレの花子さんに『変更で』と言われてしまった今宵、僕は彼女を三番目のトイレの個室から引きずり出す決意をしました。
「は、ははは……」
簡単な話ではありませんか。『三番目の個室にいる間は、個室を含めた本人が無敵となる』ということであれば、彼女のいる個室を三番目でなくしてしまえばいいということ。
神殿のトイレの個室は10部屋存在し、トイレの入口から3番目に彼女はいる。つまり、トイレの個室の1番目か2番目を壊せば彼女の絶対領域は終わるということ……!
そう思って僕が2番目のドアの前に立った時、3番目の個室から声が聞こえてきます。
「先に教えておいてあげる。アタシのもう一つの能力――【二番目の奔流】は、二番目の個室に対して攻撃を仕掛けた者を不可避の渦で飲み込む」
「だからなんだという話ですッ!」
この時の僕は、自分が完全に噛ませ犬ムーブをしていることに気がついていませんでした。白雪さんが必死に止めてくれるのも無視し、僕は1番目のドアの前に立ったのです。
ちなみに僕は人並み以上には体を鍛えています。なぜって当然ですよね。心霊スポットを練り歩くには、健全なる魂と健全なる肉体が必要になるのですから。
「破ァッ!!!」
1番ドアにヤクザキックをかますと、見事にドアが外れました。
「よし! よし! よし!」
勝ったな! 確信を得た僕は再び3番目のドアの前に立ちます。
「今ならまだ許してさしあげます。『チェンジ』と言ったこと、取り消してください?」
「……」
「ふふ、まあいいです。そちらがその気なら僕も容赦はしません。君の【三番目の玉座】が機能していない今、僕のエリートキックが直撃してしまうかもしれませんが……よろしいですね?」
「……」
無視ですか。無視していいのは蟲だけと昔から決まっているというのに(錯乱)。
「後悔しても知りませんよぉッ!!!」
ついに僕は3番目のドアを破壊してしまいました。後悔はありません。これでようやくトイレの花子さんと相対できるのですから。
「――ッ!? いないッ!?」
「【二番目の奔流】」
花子さんの声――
(――4番目の個室から!?)
いつの間に……ッ! 声のする方に気を取られた刹那、僕は自分を飲み込まんとする大渦が迫っていたことに気づけませんでした。
(個室を壊したら順番が入れ替わるということですか!?)
なんという罠。なんという策略。ロリな見た目に反してあまりにもずる賢い。恐るべし、トイレの花子さん。
これは……まずいですよ……! 僕は死を直感しました。あれだけ限定的な能力――発動が難しいからこそ呪いもまた強力になるはず……!
僕の予想通り、その渦からは恐るべき呪力が感じられました。
しかし……これに対抗できる呪いを、僕は知っている。
カナハ様は言っていた。どうしても命令したい時はそう呼べと。
「金羽織姫!」
それは太陽の化身に思えました。突如として僕と渦の間に光臨したのは、金色を纏う薄羽の妖姫。
彼女は金色の呪力をもって渦をせき止めながら、尻もちついた僕を見下ろします。
「やけに強いのがいるね。ご主人、なにしたの」
「トイレの花子さんが現れまして」
「トイレの花子さん? 現れて、それで?」
「僕がドアを開けたら『チェンジで』って言われて、ドアを閉められて」
「それで?」
「ドアを壊しました」
「誰が?」
「僕が」
「……?」
「……?」
会話の途切れと共に水が治まりました。
なんでしょう、この静けさ。
先ほどまでの攻防が嘘のようです。
しばらく沈黙があった後、カナハ様が言いました。
「しかたのないご主人だ」
すっかり呆れた声でそう言われて、僕は「ごめんなさい」と言って目を閉じたのです。
「この貸しは大きいよ。覚悟しておいてね、ご主人」
そう言って、カナハ様は僕の胸にぐたりと倒れこんできました。一瞬で飛んできて疲れたのかもしれません。
かちゃり……ぎぃ……。
個室のドアが開く音。これはまさか……!
「友だちになりたいの? だったら最初からそう言えばいいのに」
白いブラウスに赤いジャンパースカート。おかっぱ頭の目隠れ少女。
僕の憧れたトイレの花子さんが、4番目の個室から顔をのぞかせているではありませんか。前髪に隠れた瞳がわずかに見え隠れして、僕は息を飲みます。
そして花子さんは、「小学生じゃないから男としては見れないけど」と前置きし、「友だちならギリいいよ」と言ったのです。
「ギリでも義理でも嬉しいです」とノータイムで返事するのは僕の口。
こうして、僕に新たな友人ができたのでした。
次回:立地がリッチな邪神殿




