白雪さんとのかくれんぼ
神殿の最奥にはいかにも権力者が住みそうな広い住居がありまして、僕とカナハ様と白雪さんはひとまずそこで暮らすことにしました。
カナハ様と白雪さんは女性ですので、それぞれ別の部屋が良いのでは? と二人に提案したのですが、カナハ様からは『ボクから逃げるつもりなの』とヤンデレめいたことを言われ、白雪さんからは『みんな一緒がいい』と父性をくすぐるようなことを言われてしまったのでした。
そういうわけで、僕は合法的に女の子と一つ屋根の下で暮らすことになったのです。決して下心なんてありません。いやむしろ幽霊や怪異の類というのは下ネタが苦手であるというのがお約束なので、そういう意味では下心を持った方が健全と言えるのではないでしょうか。
残念ながらこの世界にはおそらくインターネットもなければスケベサイトも存在しないので、魔よけとしてスケベ動画を流し続けたり至る所にスケベ画像を張ることもできません。
前世で一度、物凄くしつこい悪霊に憑りつかれたことがあったのですが、その時は大量のピンクコンテンツが僕を悪霊から守ってくれたんですよね。そのことを考えるとカナハ様がいるとはいえ、正直心もとないというのが本音で頭痛が痛いです。
まあというか、そもそもカナハ様って諸刃の剣なんですよね。金蚕の化身なので、彼女のご機嫌を損ねたら多分僕は即死――いえ、即死させてもらえれば運がいい方かもしれません。しかし、あんな可愛い要介護系女子(蚕女子)に殺されるのならやぶさかではないというもの。
カナハ様の方を振り向くと、彼女はさっそく上納された綿織物をむしゃむしゃ食べていました。みなさんも想像してみてください。超絶可愛い美少女が、白目を向いて織物をむしゃむしゃ食べる姿を。はっきり言って、怖いですよ。
正気の沙汰とは思えない光景です。赤目が見えていれば、まだ可愛く見えると思うのですがね。昔ネットで『自分の髪の毛をむしゃむしゃ食べる女の子』が登場する怖い話を見た時は恐怖のあまり寝られなくなりましたが、あれに近くてぞっとします。
と、僕の服の裾を引っ張る何かが現れます。
「カケル様」と呼ぶのは、我らが瑞白雪前――白雪さん。白狐の獣人の彼女は、いつの間にか僕のことをカケル様と呼んでくれるようになっていました。
「どうしました、白雪さん」
「遊びましょ?」
白雪さんは多分、13、4歳ぐらいの少女なので、まだまだ遊びたい盛りなのでしょう。衣食住が確保された今、必要なのは娯楽です。
「なにをしましょう?」
「かくれんぼ?」
かくれんぼときましたか……いいですね。つい先ほどひとりかくれんぼについて語ったかいがありました。娯楽のない環境下においては、かくれんぼのような原始的な遊びですら高級な遊戯になるでしょう。
「カナハ様もかくれんぼします?」
僕はカナハ様の方を振り返りましたが、
「しゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわ」
綿織物を食べるのに夢中のようで、しゃわしゃわと小気味よい蚕時雨を奏でていました。白目であの世の向こう側を覗いています。
「ヘブン状態ですね。そっとしておきましょう白雪さん」
「へぶん?」
カナハ様を尻目に、僕は白雪さんにジャンケンのやり方を教えました。じゃけん、二人かくれんぼといきましょうねえ!
まあ? ずっとひとりかくれんぼをしていた僕としては?
「「じゃんけんぽん! あいこでしょ! あいこでしょ! あいこでしょ! あいこでしょ!」」
二人かくれんぼしたところで新鮮味なんてないんですけどね?
「僕の負け……くそぉぉぉおおお!!!」
「うわあーい」
こうして白雪さんが脱兎――いえ、脱狐のごとく駆けていくのでした。
この世界に来てから、僕は『残穢』とでも呼ぶべきものをわずかに感じられるようになっていました。霊力とか、呪力の残滓とでも言いましょうか。とにかく、ものすごーく注意深く観察したら、床や壁などにへばりついたオーラめいたものを感じ取れるようになっているのです。
白雪さんの残穢は白銀色にうっすらと光っているので、それをたどることで最終的にに白雪さんを見つけられるというわけでして、
「みつけたぁ」
僕の口から『にちゃあ』という気味の悪い音がしました。僕の口からそんな音が鳴るわけないので空耳です。
白雪さんの残穢を見つけた僕は、その行き先を見逃さないように四つん這いになりながら歩き始めました。分かりやすく説明すると逆エクソシスト状態です(分かりにくい)。
ゆっくりゆっくりと白雪さんへと這い寄り、ついにその時が訪れます。
「みぃつけたぁ」
どうしてこうなった。僕は無事に白雪さんを見つけたのですが、突然白雪さんが僕の顔を見るや泣き出したのです。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁん」
僕は訳も分からないままギャン泣きする白雪さんのおててを繋いで、最奥の部屋へと帰るのでした。
「どうしたのぉ、白雪さん……」
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁん」
部屋に戻るとカナハ様がお腹をさすっている姿が目に飛び込んできます。妊婦かな?
いまだに「ひっく、ひっく」と鼻をすすっている白雪さんを見たカナハ様が首をかしげます。
「どうかしたのご主人」
「それがかくかくしかじか四角いコトリバコでして――」
僕は事情を説明しました。
するとカナハ様は呆れた顔で言うんです。
「ご主人のオリジナル笑顔が怖かったんだよ」
……なんですって?
「そんな……これは僕が今まで何度も練習してきた誰とでも友だちになれるスマイルなんですよッ!?」
「でも友だち0人」
「……」
そんな馬鹿な。僕の笑顔はマリリンモンローだって魅了するはず。
そう思って恐る恐る白雪さんの方を見ると、カナハ様の「そうでしょ?」という確認に対し「こくこく」とうなずく白雪さんがいるではありませんか。
僕は、その場に膝から崩れ落ちました。
次回:ぜんいんぶっ殺します




