プロローグ4 そして異世界へ
その世界は、小さな星だった。
それなのに、人の足には広すぎた。
大陸を端から端まで旅をすれば、数年はかかると言われている。行く手には険しい山脈がそびえ、大河が横たわる。道は山を避けて曲がりくねり、川を渡るにも橋のある場所まで何日も回り道をしなければならない。もっとも、西の端までたどり着いた者は、まだいない。
西へ進めば、そこから先は魔物の大地だ。どこまで続いているのか、誰も知らない。人の手の届かないその地との境では、城塞の国が高い壁を築き、昼も夜も目を光らせている。
大地のあちこちには、ダンジョンと呼ばれる穴が口を開けている。中は魔物の巣だが、同時に宝の山でもある。魔物の素材、地の底に眠る鉱石、ほかでは採れない薬草。人々はダンジョンから資源を持ち帰り、それを糧に暮らしを豊かにしてきた。
ダンジョンに潜るのは、冒険者と呼ばれる者たちだ。数人でパーティを組み、その後ろには荷物を積んだ浮遊魔道具がふわふわとついていく。高価なものになれば、いざというときには人を乗せて飛ぶこともできるという。
この世界では、空気に魔力が満ちている。人はそれを魔法として使い、魔道具として形にしてきた。夜を照らす灯りの魔道具。井戸の水を汲み上げる魔道具。そして、荷物を運ぶ浮遊魔道具。
文明はそれなりに進んでいる。少なくとも、この世界の人々はそう思っている。
国も、いくつもある。
人の住む地の真ん中に王国、北に帝国、東に皇国。西北には魔物の大地をにらむ城塞の国、南には王を持たない共和国、南西には獣の名を冠した大帝の国。そして南東には、ただ海が広がっている。
国の数だけ仕組みがあり、仕組みが違えば考えることも違う。考えることが違えば、いずれぶつかる。この世界では数年に一度、どこかで国と国とが戦をしている。西に魔物の大地を抱えながら、人は人どうしで争うことをやめない。
――まあ、人のやることは、どこもそう変わらない。
空には、五つの月が浮かんでいる。
そんな世界の、片隅。
人の住む地の真ん中の王国の、そのまた端っこ。畑と山しかない片田舎の、ひときわ子だくさんな領主の屋敷で。
ひとりの赤ん坊が、目を覚まそうとしていた。




