第6話 千年早く告白すれば――
【ざっくりあらすじ】
14歳のヤータンが、戦場で出会ったのは、"最強ババア"。
大地と生き物を操り、一人で戦況を覆した彼女は、しかし誰も殺さなかった――
極限での出会いに脳を焼かれたヤータンは、以降彼女に焦がれ続ける。
そして千年越しに、ついに愛を伝えようと――
「なあ……脈あり、だったと思うか?」
ガーデンテーブルの斜向かい。
涼やかな緑の下で、ゆるりと波がかった白髮が、無造作に風に揺れている。
"彼女"の9代目の継承者だという老婆が、私の言葉に振り向いた。
「は!? ――げほっ、ごほっ」
老婆は、盛大にむせた。
少し潤んだ夜空の瞳が、私を視界に収めている。
("彼女"も――こうして、私を見つめていたものだ)
思い出すのは、感情の伺えない真っ直ぐな眼差し。
「あんた。一度、心の医者に診てもらったらどうだい?」
――いや、違う。こいつのは、ゴミを見る目だ。
生ゴミを見る目つきだ。
白髪に黒のゴシックドレス。
同じ容姿だというのに、中身はてんで違うでないか。
「第一なんだい? 勝手にうちで茶を飲むんじゃないよ」
(なに? 放っておいてくれ。 私は今、傷心している)
俯きながら茶を啜る。
むむ?
少し、温すぎるのではなかろうか。
「おい、小僧。茶が温い」
銀のワゴンに手を掛けた青年が、こちらを振り返った。
黒髪黒目。何の変哲もない、ただの一般人のくせに。
険を帯びた目で睨んでも、こちらは痛くも痒くもない。
「ご自慢の魔術で温めれば? 勝手にどーぞ、なんさ」
無知とは哀れだ。
偉大な術師を前に、弁え方すら分からぬとは。
最強ババアの周囲をうろつき、給仕を任されるという幸運な男。
「分からん。なぜあんな男を、あなたが側に置いているのか――」
「分からないのは、あんたの頭だよ!」
ペチンと頭を叩かれた。
痛い。ただの平手だ。
痛いじゃないか。
恨めしげに老婆を見返す。
身体接触とは、ずいぶん積極的ではないか。
これが、"彼女"だったらなあ――
「……少し、視線を落として。顔の力を抜いてくれないか?」
私の問いかけに、"今代"は怪訝な顔をした。
「初代はそんなに力まない。もっと素の、美しい表情だった」
「……はは」
なぜか老婆は笑いだすと、ゆっくり視線を落としていった。
「ああ、分かった。この格好がいけないんだ。変身を解けば――」
「シティ、だめなんさ! 知らないおじさんに無防備な姿を見せるなんて」
頭飾りを外そうとした"今代"の手を、青年が慌てて取り押さえた。
「ふむ。私も困る。少女姿は、初代と全く違うのでね」
頷く私に、最強ババアは盛大なため息を返した。
「とにかく――私は忙しいんだ。とっとと、帰りな」
言い残すと、彼女は小屋へと戻っていった。
庭に取り残された私の周りを、何体かの黒い影が彷徨いている。
最強ババアの従順な手駒、黒人形。
なんでも、国境の蛇たちを消すために、最終調整をしているだとか――
ぐるりと周囲を見回せば、幾重にも重なる山の稜線。
その一帯に蔓延る黒い蛇は――
(あなたが遺した、偉大なる防衛装置)
残った茶はそのままに、私は小屋へと足を早めた。
「うむ。蛇を消すのは惜しくはないか?」
引き上げた今代へと呼びかける。
「やはり、私と世界征服を――」
お読みいただきありがとうございます。
現代パートでした。
せっかく"彼女"が目の前にいるのに、中身は別人……悲しくて堪らないヤータンなのですが。台詞がいちいち失礼ですね。
さて、ヤータンが現実に打ちのめされたところで、次回は再び過去回想編です。
明日6時台に更新予定です。




