第5話 青い瞳の少女
「チュチュッ」
静まり返った荒野で。
一匹のネズミが、くるくるとその場を回っていた。
ぼんやりそれを見つめていると、小さな影がネズミに落ちた。
さらりとこぼれる白い髪。
黒のレースが、汚れも厭わず地に触れた。
「あなたは――」
なんて愚かな私。
黙っていれば、気づかれずに済んだかもしれないのに。
ネズミを拾い上げた彼女が、ゆっくりとこちらを振り返る。
青。
透き通る青。その奥に、深い海を封じ込めたみたいな瞳。
目が離せなかった。
白髪の隙間から、確かに彼女はこちらを見つめている。
(あなたは――)
「う、ぐ、」
唇が音を紡ぐ前に、彼女の視線は別の場所へ向いた。
うめき声。
仰向けに倒れた男のもとへ、彼女は音もなく歩いていく。
(何を――?)
懐から取り出したのは、口紅だった。
それを男の手に押し当てる。
(治癒術だと!?)
男の顔から、力が抜けた。表情が和らいでいる。
「チュチュッ」
再びネズミが鳴く。
敵も、味方も関係なく。
彼女は負傷者を癒して回っていた。
(一体、あなたは……?)
帰還後、風の噂で聞いた。
“彼女”のせいで、目前の勝利は潰えたこと。
だが同時に。 “彼女”との戦いで、死者は一人も出なかったことを。
その気になれば、こちらを滅ぼすことすらできたはずなのに。
“彼女”は国を閉ざした。
圧倒的な魔術だけを残して。
――“最強ババア”。
以来。彼女は、この国最大の脅威として語られることになる。




