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第3話 千の氷槍


 それは隣国でも名高い、氷の大術師だったと後に聞いた。

 幸運だ。私は、あの術師の名を知っている。

 つまり彼は――私の死因ではない。


 空を埋め尽くしたのは、千の氷槍。

 着弾と同時に兵を貫き、血肉ごと吹き飛ばすはずのそれは――


「……痛く、ない?」


 いつまで経っても衝撃が来ない。

 恐る恐る目を開ける。

 虹色の幕が、私たちを覆っていた。


「ははっ! 見ろよヤータン! 俺たちの勝ちだ!」


 テスが興奮したように叫ぶ。

 各班に配置された、術師の卵たち。 本来なら魔力が弱すぎて、術師になれないような連中だ。

 だが、この国では違う。


「国民皆魔力徴収制度、ばんざいってな!」


 すべての国民から魔力を徴収し、必要に応じて再分配する。

 それが、わが国の戦争システム。


 一人ひとりは弱くてもいい。

 全員で束になれば、一流術師にだって対抗できる。


「全軍、突撃!」


 号令と共に、虹色に包まれた兵士たちが雄叫びを上げる。


「ヤータン、行くぞ!」

「テス! ま、待てって!」


 おっかなびっくり走る私を置いて、テスは「賞金だ! 大将首だ!」と叫びながら駆けていく。


 敵軍は、もはや戦意を失っていた。

 背を向ける者。 白旗を掲げる者。

 勝敗は決した。誰もが、そう思ったはずだった。


「……なんだ?」


 誰かが呟く。

 貴金属がぶつかる音。

 怒声。足音。炸裂音。

 戦場を埋め尽くしていた喧騒が、前方から食われるように消えていく。


 縮み。竦み。呑まれ。

 そして――無音。


 皆が足を止めていた。

 動けなかった。

 時が止まったみたいな静寂の中、全員が同じ方向を見つめている。


 敵国側の、山。

 遠くに見えていたはずの山が、妙に近い。


 いや。近いんじゃない。

 ――山が、近づいている。


お読みいただきありがとうございました。

明日は午前6時過ぎに更新予定です。

ヤータンの人生を変える"彼女"の登場です。

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