第2話 十四歳、戦場へ
あれは、激しい戦争だった。
いかに故国が優勢とはいえ、積み上がった犠牲はあまりに重い。
魔術大国と呼ばれる隣国。 あの国が抱える術師は、質こそ高いが数は少ない。 少数精鋭の魔術師が、一般軍を支援する形だ。
一方、わが国は――
「臆するな! 突き進め!」
十四歳の私は、視界の悪い土煙の中で、轟音に怯えていた。
まだ永久歯が生えそろったばかりの少年の頃だ。 長引く戦で、まともな大人は次々と戦死し、ついには私たち中等学校の生徒まで最前線へ送られた。
泥沼の戦のなかで、両国とももう後には引けなかった。
勝利だけが。
死んでいった者たちへの、唯一の免罪符だった。
「来たぞ! 槍、構え!」
震える両手で柄を握る。
雨あられと降り注ぐ硬質な音。 腹の底まで響く地鳴り。
砂塵のカーテンを突き破って現れたのは、敵国の騎馬隊だった。
何十もの馬が、一体の怪物みたいにこちらへ迫る。
怖かった。
それでも、目だけは閉じなかった私を、誰か褒めてほしい。
次の瞬間、衝撃の波に飲まれ、前後不覚に陥った。
「よくやった! 立てるか?」
気づけば、笑顔の班長が私の手を引き上げていた。
「いったん下がるぞ。隊列を整える!」
立ち上がりざま、何かを踏みつけてよろける。
視線を落とした。
血まみれの馬。 潰れた兜。人だった何か――
「おえぇぇっ」
胃の中をぶちまけた。
「大丈夫か?」
自分と大して年の変わらない班長――テスが、背中を擦ってくれる。
「悪い、テス……うっ」
「他人の魔力に当てられてんだ。無理もないさ」
いや。私は初めての殺しの感触に参ってるんだが。
だがテスは、私たちを包む魔力強化に、どうにも興奮しているようだった。
一歩兵を、並の術師級まで底上げする強化魔術。
質の高い少数精鋭の隣国に対し、わが国は全兵を均等に強化する。
――数の暴力。
それがこの国の戦い方だった。
「やっぱ戦争は数だな!」
前方では、別働隊が敵騎兵と衝突していた。
槍を持たされただけの子供たちが、敵兵を押し返していく。
その光景に、テスは愉快そうに笑った。
「いやでも、敵の術師が来たら――」
私は不安で仕方がない。
一騎当千と呼ばれる、隣国の術師たち。
雷の雨。 風の刃。 大地を裂く魔術。
噂に聞く化け物みたいな連中が、一人でも現れたら――
「あれ。術師じゃないか……?」
テスの声に顔を上げる。
両軍の中央。そこだけ、景色が歪んでいた。
陽炎みたいに揺れる、半透明の幕。
嫌な予感が、背筋を這い上がる。
次の瞬間。
視界いっぱいに飛来した何かに、私は反射的に頭を抱えて地に伏せた。
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