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ex.1 【恋愛指南書】まずは胃袋から


ガーデンテーブルの向かい側には、黒の燕尾服の男。

机の上には、焼け焦げた団子が積まれた皿。


「君のために、焼いてきた」


そっと皿を押し出しながら、男は真剣な顔でそう告げた。

目の前の山に視線を移す。

新緑の風が、焦げた匂いを庭中にぶちまける。

焦土――一目見た感想だ。


「一応聞くけど……これは何?」

「肉だんごだ。鶏に、刻んだ葱と小麦を混ぜ込んでいる」


(……隣国では、素材を炭化させるのが食文化、なのかしら)


絶対ちがうと思うのに、そんな馬鹿げた考えが頭を過る。 眉間に皺が寄ったのを、何と勘違いしたのだろう。


「もしや……魚の方が好みだったか?」


ちがう。

全然そうじゃない。



『国? そんなものいらないわよ。私は、私にご飯を作ってくれる人(ルシニウス)が好きなの!』


なぜか自分に愛を囁き、自国をプレゼントしようとする男に。

はっきりと、断りをいれたつもりだったのだが――


「良ければ、食べてみてほしい」

真剣に語る男の目には、切実さすら浮かんでいるようで……


(ああ、もう……!)


食べ物は、粗末にしない。

ましてやそれが、自分のために作られたものならば。


そんな己の矜持が、今は少し恨めしい。

覚悟を決め、フォークを握る。


「ゴホッ、ゴホッ」


苦い。


(外はサクサクを通り越して、なんだかカスカスしているし、それに中は固すぎるわ)


「シティ! もう、無理しなくていいのに――」

やや呆れの滲ませながら、ルシニウスが駆けつける。

グラスを受け取り、一気に水で流し込んだ。


「うーん……ちゃんと味見したんさ? 火力と焼き時間がでたらめだ」

テーブルから皿ごと奪い、ひと口齧って顔をしかめるルシニウス。


「そ、そんなにか? 一応、最高作のはずだったんだが……」

悲しそうに眉を下げる男に、ルシニウスは「はあ……」ため息をついた。


「とにかく、シティがお腹を壊したら大変なんさ。肉は中心まで火を通す、でも焦がさない。基本はちゃと守らないと」

メモを取り出したヤータンに、料理の基本を語ってやるルシニウス。


(さすが……面倒見がいいわね)


毎日やってくるヤータンのことを「大嫌い」だと言っていたのに、懇切丁寧に説明している。

そんな青年を眺め、シティはなんだか誇らしくなる。


もう一度グラスを傾ける。

カラリと氷の音がなり、涼やかな香りが口いっぱいに広がった。


(あら。ハーブ?)


ただの水ではなかったようだ。

そのことに、口元が緩んでしまう。


(お代わりは、あるかしら?)


仲良く産業廃棄物をかじる彼らに、必要だろう。

空になったグラスをお盆に載せる。

料理談義を続ける男子二人を横目に、シティはそっと席を立つのだった。





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